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57. 首輪と指輪3セット(金貨183枚)

 ……。


 いつからだろう。

『概念達』を――するようになったのは。


 アリスに会った頃?

 シルキーに会った頃?

 『トワ』に遭った頃?

 トリアナに会った頃?

 フィルに会った頃?

 ティナに、ロズに、フランに、リタに、会った頃?


 ……思い出してみても、明確な答えは出ない。

 でも、いつしか俺の人生の目標は、大体定まって行った。


 一つは、対外的な夢。禁忌の子を救ってあげたいという事。

 一つは、利己的な夢。禁忌の子と最後まで生きたいという事。

 もう一つは……。




---




火炎地獄(インフェルノ)


 地面を這う、すばしっこい小さな熊を追うようにして炎が駆ける。

 命中すれば骨も残さず燃やし尽くす。


 フレイとルビィのオリジナル協力魔法。

 熊の見た目をしているが鳴き声は鼠だ。甲高い声を上げて燃えていく。


「ちょいトリアナ下がって」

「は、はい」


 俺も無詠唱で精霊魔法の炎を出す。

 洞窟の中で火はどうかと思うが、まぁ酸欠になりそうなら異次元倉庫から酸素を出せばいいだけなので気にしない事とする。


「トリアナ、お前が置かれた状況は新聞で読んだ。大変だったな。

 衣食住は保障するが……それと、何ができるかくらいは後で聞くぞ」


 首輪か指輪かも選ばせるつもりだ。


「……っと」


 進行方向に人影が見える。俺は全員を止めて前に出る事にした。

 ……こいつは。


「や。シラセっす。うちわりかし有名な用心棒なんすけど知ってるっすか?」


 ひらひらと手を振りながら話しかけてくる。

 こういう飄々としたやつはどーも苦手だ。ちょっとおちょくってやろうか。


「知ってる、さっきなんとかって言う奴の隣に居た人だろ」


 その発言にちょっとむっとした態度を取られた。

 まぁ知ってるけどな、最強の用心棒シラセ。

 二等級(ハイグレード)魔法武器『骨喰い』を操る。


「嘘だよ、最強の用心棒シラセさん。なんか用?」

「いやぁ、大した事じゃないんすけど。停戦協定を結びたいんすよ」


 彼女が言うには、俺らと戦ったら勝つ自信はあるが自分も死に得るとか。

 だからお互いの利の為に、もし鉢合わせてしまったら戦う事をしないという約束が欲しいそうだ。


「ヒヤリハットっすよ。どっかで『無理矢理奪えー』とか命令されてたら」

「ガチンコバトルでお互いボロボロだったんじゃね?」

「あっはっは! 間違いないっすね!」


 いきなり馴れ馴れしい奴だ。バシバシ肩を叩かれる。

 後ろで5人、女の子達が固まっているが全く気にしてねえ。

 ボディタッチは嫉妬の元ですよ奥さん。


「口約束でいいのか?」

「いーっすよ、マスターさんそんな悪そうに見えないっしょ」


 『最悪』を捕まえて悪そうに見えないとはこれ如何に。


「あー。さんはいらねーぞ。呼び捨てにしてくれ」

「りょーかいっす。うち普段はエレニアってとこに住んでて、金貨100枚からで仕事請け負ってるんすよ。

 ディロウホテルってとこに連絡してくれたらすぐ取り次ぐっす。

 なんかあればよろしくしてほしいすね」


 そう言いながら彼女は踵を返した。

 ……歪んでるようには見えねえけど、底が知れねえ。


「そーだ、お前なんで二等級武器なんか使ってんだ? 特級使えばいいだろ」

「んー? マスターと同じっすよ。なんで後ろの子らと一緒に居るんすか?」


 ……なるほどね。


「しっくりこないんすよ。強いのはわかるんすけどね。

 やっぱうちは骨喰いじゃないとダメっしょ」


 片手でぶんぶん長剣を振るうシラセに若干の畏怖を覚えながら、そうだなと同意しておいた。

 あ、戻ってきたついでに一つ……とアリスに来い来いのジェスチャー。

 不思議そうな顔をしながらそっちへ向かうアリス。


 ……主人の目の前で内緒話っすか。

 あとで聞きゃいいから全く無意味っしょ。共有もあるっす。


 ……しっくりこないって言うのはこういう事だな。

 そんな事を考えつつアリスの方を見ると、顔を赤くしながら話をしていた。


「べ、別に構わないと思いますけど、マスターの許可は取ってくださいね」

「やったーっす! 言質取ったっすよ!」


 シラセは無邪気に笑っている。なんだこいつ。


「じゃ、アリス先輩! また今度話聞かせてくださいっす!」

「先輩ぃ?」


 怪訝な顔を向けると、もうすでに洞窟の外まで走り去っているようだ。

 また近いうちに会えるっしょー、バイバイっすー! とか聞こえてくる。

 

 まぁ金さえ出しゃ戦力になってくれるって言うなら心強い。

 俺らも外へ向かいますか。




*




 メラメラ揺らぐ炎の光に照らされた洞窟を歩き切り、ルード方面へついに抜けた。


 外は夜。少し肌寒さを感じる程度だ。

 異次元倉庫から馬車を出し、全員をそいつに乗せる。


 薄着のシルキーには俺の布団から毛布を渡してやった。

 ふんふん言いながら顔を押しつけている。


 あの、防寒用だから。体に巻くとかしてくれ。


 ……途中、トリアナが話しかけてきた。


「あの、質問してもよろしいですか?」

「構わんが」

「どうして私を買ってくれたのですか? それと、お金はどこから?」


 そんなん決まってるだろ、と呟きつつ異次元倉庫から1月前の新聞記事を取り出した。


『歪みの国の王女、トリアナ=レグリスがゴールドゲートにて取引される予定

 値段は112万5000チップ。こぞってご来店ください』


「こんな新聞が出回っていたのですね……実際に集まったのは値下がりを待つ弱小貴族ばかりだったみたいですけど」

「金に関しては、主にこれを売った。

 あとは中間業者になって素材を作ったり届け物したり」

「このリングについてる赤褐色の宝石は一体……」

「ダイヤモンドと言う。これはトリアナの分だ。やる」


 まるでワインのような輝きを放つその宝石は、もちろんダイヤモンド。

 狙った色を出すのももうお手の物だ。


「……ありがたいですが、首輪と指輪の二つがありますね」

「好きな方を取りな。どっちも取らないのはなしだ」


 そう言うと、トリアナは迷わず両方を取った。

 ……お前もか……。


「アリスとシルキーが両方つけてますからね。

 私も同じになりたいですわ。私も協力し、隷属し、家族になりたいです」

「わかったよ」


 それを見たフレイとルビィも、物欲しそうな顔になった。

 わぁーーーったよ。マジで。ちょーっと働きゃすぐだ。


「お前らのも作ってやるから! とりあえず今は帰るぞ!」


 おー! とシルキーとルビィが元気よく返事をして、他は簡単な返事。

 城壁まであと少しだ。そのままルードの貴族区へ帰って……。


 とりあえずトリアナの歓迎会かな。

 そんで明日になれば街を巡って、勉強会して、魔法の練習して。

 またいつもの日常が戻ってくるだろう。


「そーだ、肝心な事聞くの忘れてたわ」

「なんでしょうか?」

「お前の職って、何?」


 それを聞いた彼女の態度が変わった。

 おどおどする感じというか、できれば話したくなかった感じか。


「……えっと、……両親ともに逆境使い(アドバーサー)でしたので、私も同じです」

「そんな職業があるのか」

「はい。接敵する相手が強い程、受ける攻撃が強いほど強くなる、というのがこの職業の特徴ですわ」


 ……職業ってなんだっけ?

 まぁ狂戦士(バーサーカー)なんてのも職業だし。なんでもありか。

 同じ職業同士なのに歪んでいるのは両親共に禁忌の子だったからか。

 またはその親から、そのまた親から?

 考えてもわからない。


 ……忍者の系譜と同じか。

 歪みを抑えている最中。

 あと何世代かわからないが目立たぬようにしていれば、忍者のように市民権を得られたかもしれないだろうに。


 あとは、強いっていうのはどれくらいからを指すんだ?

 強さの指標がないからわからない、シルキーなら数値化してくれそうだが。


「……例えば、さっきの洞窟にいた熊鼠は倒せるか?」

「厳しいでしょうね」


 即答だった。

 熊鼠は『弱い』の部類なのか?


「動物ならライオンとか、魔獣ならキマイラは?」

「成す術もないですわね」


 これでもまだ『弱い』の判定なのか。


「……じゃあ魔王とか」

「戦ったことはないですけど、一捻りだと思います」

「じゃあ…………ん? え? 一捻りって、お前がか?」

「はい『私が魔王を』一捻り、できると思いますわ」


 じゃあ。


概念的存在(・・・・・)は、殺せるか?」


 我ながら滅茶苦茶な質問だと思った。

 俺がこれを言われたら、頭沸いてるんじゃないかと返答するだろう。


 しかし、トリアナは。


「……確かに生きていて、一定より強いのなら。

 必要であるのなら、……こ、殺してみせます」


 そう言った。

 理想的な答えだ。

 声がちょっと震えてるのがポイント高い。

 

「オッケー、最高の戦力だ。これからよろしくな、トリアナ」

「ええ、こちらこそ……。

 行く宛がない私を引き取ってくださってありがとうございますわ」


 ぐっと握手を交わす。

 ……なんとなく、興味本位でこんな質問をしてみた。


「俺相手だとどうだ?」

もちろん(・・・・)


 もちろん、どっちなんだよ。

 勝てるのか勝てないのか、どっちの意味で言った?


「もちろんはもちろんですよ」

「なんだよそれ」


 気になるだろー! なぁおい、答えてくれよー。


「こうやって、なんでもない事で興味を惹かせると殿方の視線と興味を釘付けにする事ができるのですわ」

「なるほど、べんきょうになります!」

「ふむ……興味深い」

「マスターのしせんをどく占、一こうのかちがある」

「やれやれです……」


 ……まぁ。なんだ。

 大したことない発言でしてやられた気分だが、馴染めたようでよかった。


 今日は、夜が明けるまでトリアナの歓迎会だ。

 なんでも買ってやるつもりはある。


 そして、これも準備は終わった。

 どんな顔して喜んでくれるのか、楽しみだ。


 俺が隠し持っているのは、赤色と紫色のダイヤモンド。

 火にかけても燃えないように、永久化した炎耐性をつけてある。


 首輪につけて、失くさないようにしてやろう。

 魔人の寿命は長いはず。




 例え俺が死んでも、ずっとつけていてくれたら、嬉しいな。

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