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53. 値段はつけられないって言うけど(金貨100枚)

「私たちは、正義の味方です」

「何を以て正義と言うのか、甚だ疑問ですね」


 シルキーを守るように立つ私はクロスボウ使いオミッサと向き合った。

 屋根の上、足を滑らせそうな石材が並びます。


 彼女とまともに話をする気はありません。

 私たちは生まれつき、世界にとっての悪なのですから。


「お前たちが自ら命を絶ってくれれば、私たちが手を汚さなくて済むのに」

「それは禁忌の子なんてルールを定めた神様に伝えるべきですね。

 私たちの代わりにあの世へ行って、直談判して頂けませんか?」

「……」


 シルキーへのヘイトがちょっとでも私に向かうように煽る。

 平然としているが、何かを言い淀んでいるようにも見える。

 ……なんか私、マスターと関わる事で口が達者になった気もします。


 ……悪い事では、ないですよね。


 私は素手の状態で光の大盾(ライトデフレクター)を出します。

 クロスボウが得意なのは5.6歩程度離れた距離。

 それ以上離れるとまともに精度が保てないからです。


 付かず離れず一定の距離を保って戦われると不利ですね。

 なので一気に距離を詰めたいところなんですが……。


『おみっさ。たいきゅうりょく1。所じ魔法武器(まじっくあいてむ)73』


 73。73個? ……。クロスボウ……。


 ……彼女の腰についているホルダーに目をやると、50本以上はある太く短い金属の矢(クォーラル)が入っているようです。


 ……あれが全部魔法武器って事でしょうか。

 そう思いながら少し距離を詰める。

 クロスボウを構えたままこちらに睨みを利かせつつ距離を取るその女性。


 一発撃ったところを狙えば問題ない、等と考えるのは浅はかです。

 狩猟者(ハンター)の能力、高速充填(クイックリロード)を技能として持っているかもしれないからです。


「輝け!」

「……っ!」


 光の大盾を一瞬霧散させて、武器を出す詠唱をすると見せかける。

 ノーアクションで発射されたクォーラルを、再び出した大盾で受け止めた。

 水色と青色がまだらに弾けて光る。

 屋根のレンガを蹴り潰しながら跳躍して一気に肉薄し、クロスレンジまで詰め寄った。

 盾目がけて氷塊が4つ降りそそぐ。これが魔法効果ですか? 対した事はない。

 盾を構えた片手で振り払って、右手を突き出します。


「貫け! 千年華の槍(アスフォデルス)!」


 突くアクションを取りながら喚びだしたと言うのに、その一動作中に、腰からクォーラルを取り出し、装填し、構え、発射まで行って私の槍に間に合わされました。


 槍は粉々に砕けます。取消系ではないようですが……。


 驚く間もなく、次の装填が高速で始まります。速すぎる。

 それと同じ速度でルビィが私を突き飛ばします。


 ……貴方も速くなっているんですか?

 いや、違います。


 私が遅くなっている。


 と思った瞬間には屋根から落下し、地面に叩きつけられていました。

 時間の流れが戻ると同時に、一気に痛みが襲ってきました。


「くぅ……」


 いくら身体強化があるとは言え、受け身が適切に取れなければダメージはあります。

 右半身を強かに打ち付けたようです。折れてはいないようですが……。


「ありす! 大じょうぶです!?」


 平気、と返そうとした瞬間シルキーにゆっくり(・・・・)迫るクォーラルが目に入る。

 ま、間に合って!


 叫びそうになりながら、大盾をシルキーの方に展開します。


 ――なんとか、なんとか防ぐことに成功しましたが。

 ズキズキと痛みを増す私の右半身を見ると、そこには金属の矢が数十本刺さっていました。


「~~~~~っっ!!」


 声にならない声が漏れ出ます。

 一体、これは……。


追撃の金属矢(パースーツクォーラル)……」


 無表情なオミッサに見下ろされながら痛みを堪える。

 彼女の放つ一本一本の矢が等級の高い魔法武器なのでしょう。


 盾で防いだ事がトリガーになってダメージ部位に追撃されたのでしょうか。

 そして……この傷は……。


「その傷は、治らない」


 その言葉より、その現実より、その痛みより。

 マスターの言いつけを守れなかった事が悲しかった。


 私の体は地面に、うつ伏せに横たわっています。

 少しでも体を捻ると、痛みが走ります。


 このまま立ち上がらなければ、冗談みたいなこの痛みも少しは堪えられるように思います。


 しかし、それは、私には取れない選択です。

 ぐぐっと足に力を込める。

 できないのです。

 膝立ちからなんとか、地面に足の裏を付けます。


 なんとか堪えて立ち上がる事ができました。

 私は激痛に耐えながら、痛みに苦しみながら、再びシルキーの前まで歩いて行きます。

 屋根に飛び乗るのも、少し不格好な着地になりました。


「ありす……」

「……大丈夫です。マスターが戻るまで、耐えましょう」


 半身が針山のようになってしまいましたが、気にしていられません。

 私はシルキーを守らねばならないのですから。

 奥歯を噛みしめながら、光の大盾を展開します。


「そこの半妖精を守るだろう事はわかってた。私にとって防御は無意味よ。

 もっと俯瞰的な、空間的な、時間的な攻撃ができないのなら、抗わずに死になさい」

 

 ……できる。拒絶追放が使えるのなら。

 できる。拒絶追放を使わなくてもいいのなら。

 いくらでもできる。マスターなら。


 でも、拒絶追放は使わない。シルキーも守る。

 もう、絶対に傷つかないって約束は破ってしまったから。

 せめて、シルキーだけは。


 ルビィが猪突猛進的にクロスボウ使いに突っ込む。

 彼女が矢を放つと、水の幕が周囲に張られていきます。

 構わず攻撃を加えようとすると、紫色の炎がその水幕に流されて無効にされました。

 ルビィ本体の攻撃威力など高が知れたものです。


 ステップを踏んで距離を取った彼女に、またも魔法武器による攻撃が降りそそぎます。


 このままではジリ貧です……。


 と思った時点で、私の意識は完全にオミッサに捕られていました。

 この戦場に敵は四人居たのです。


「ありす……だめ!」

「え……?」


 私に迫る凶弾が、なんの能力もなしにゆっくりと、私に向けて進むのが見えた気がしました。

 ずっと、狙っていたんですね。

 これは、死んだかも、しれません。




*




 その銃弾は私に直撃する刹那、何かの影に遮られました。


「ぎっ……ま、間に合った……」


 私を守ったのは、マスター。

 全身かさぶただらけのボロボロのまま、私の前に瞬間移動して来ました。


 左胸を押さえています。

 ……そこに……当たったんですか……?


 マスターは膝立ちになって、少しずつ力が抜けていく様子です。

 私に目配せをします。苦しそうな笑顔で。

 シルキーの赤い瞳に、無言で訴えかけました。

 共有……? 言葉で伝えてくれればいいのに。なぜ?


 マスターはそのまま、私の傍に倒れ伏しました。


 ……え?


 助けに来てくれたと思ったのに、そのまま倒れちゃうなんて、格好……悪い……ですよ……。 

 マスター。どうしたんですか。

 胸に空いた大穴も、早く塞がないと、死んじゃいますよ。

 私はその小さな体に縋るようにして膝をつきました。


 いくらマスターでも、心臓が、心臓がなくては……。


 死。


 ……マスターが、死んだ?

 冗談ですよね。たちの悪い、いつもみたいな。


 だって、死んでも死ななさそうじゃないですか。

 命だって買えるんだ、とか言って。

 早く、早く起きてください。

 私は貴方がいないと。

 駄目になってしまう。




*




『もう5分だけ、シルキーを守ってくれ』



 声が聞こえました。

 ……共有?


「わたしも手つだいます、ので」


 シルキーも、声をかけてくれます。

 まだ、何か、あるのですねマスター。

 じゃあ、私も、頑張れます。

 頑張ります。


 きっと、マスターは大丈夫。

 そう思うだけで、元気が戻ってきます。

 全身はまだ痛いです。涙が出るほどです。

 それでも気力が湧いてきました。


 四の五の言ってられないので、拒絶追放分の魔力を使う事にします。

 いいですよね?


 ふふ、約束を破るのは、これで二つ目ですね。

 でも、シルキーだけは、絶対の絶対に守り抜きます。


 私は、身体強化の能力(アビリティ)技能(スキル)として発動させられます。

 そのペナルティとして、魔力切れを起こすと普段より身体のパフォーマンスが落ちるのです。


 私の器の中にある魔力を全て身体強化に回します。

 人生でこの技能を使うのは二度目。


 昔はただ自分の為に暴れただけだったですけど、今回は守護魔法使いとして。

 その名に恥じぬよう、二人を守り抜きます。

 心して、見ていてくださいね。


 参ります。


歪みの力と過剰な力(ディストーテッドオーバードライヴ)

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