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50. 特殊な銃創を治すには(金貨20枚)

「うわあ……」


 シルキーが感動の声を上げた。アリスも呆気に取られている。

 二人のイフリータは、まぁ、こんなもんかって顔してる。


 シルキーは平気そうだが、アリスは風で髪が靡くのが少し気になる様子。

 あとは、炎を巻き上げながら物凄い勢いで轟々と音を立てている二人。風を受けると力を増すようだな。


 俺たちはルード城砦(じょうさい)の一番高いところ、門の上に聳える時計塔の一番上に居る。

 立ち入り禁止区域。


 平気でこういう事やってっからまともな知り合いもできねえし、行く先々で最悪最悪言われて追い出されんだ。

 反省はしねえ。好き勝手やって生きて死ぬんだ、なんて。


 ……人生の目的とか、こん時は全く考えてなかったな。


 まぁなんでこんなところに居るかっつーと、ただ位置交換法でどこまで移動できるかの実験をしてただけだったんだよな。

 広いところだとやっぱ見える限りどこまでも移動できるっぽい。

 遠隔売買(リモートディール)の発揮度の高さを感じるな。


 ぱたぱたとはためくアリスのスカートを凝視していると、アリスは目を細めてから、両手で真っ白なエプロンごと足の間に押しつけて風に抵抗した。

 その行為そのものに興奮する。わかってねえよなー。


 そも、スカートの中くらい映像を購入すればいつでもどこでも見る事ができる。

 まーったく無駄な抵抗ですこと。


 それどころか、位置交換法を応用すればこんなこともできる。

 風に靡いてちらっと見えた瞬間にこう。


 ぱっ、と手の中に現れたのは、シンプルなパンツ。下着。真っ白である。

 アリスが怪訝な顔をする。見覚えあるだろ? これは誰のだー?


「……ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」


 片手でスカートを押さえたまま片手で取り返そうともがくが、万全の状態ではないので思うように動けない。あぁー愉快愉快、楽しいぞ。

 因みにこれ、通行人のパンツを盗む事も一応可能だが、それはもはやただの下着泥棒だ。そっち方面に堕ちるつもりはねえ。


 んま、返してやろうか。あんまり虐めても可哀想だし。

 下着を渡すとアリスはあわあわと受け取って、物陰に走ってった。

 別にここで着替えてもいいんだぞーと言うと、アホですかマスターはと返された。

 アホではない。


 しかしそれは置いといて、ここからの眺めは本当にいい。

 同じくらいの高さの建物がほとんどないし、レンガでできた家々が連なる街並みはヨーロッパのようだ。

 そういえばゾルあたりまでは和風だったな。




*




 等と考えながら広がる赤い家の屋根に視線を流していると。


「ま、ますたぁ! てき!」


 共有によって映像が流れてくる。

 どこかの屋上からこちらを筒のようなもので狙っている?


 ……鉄砲! ヤバイ!


「フレイ、ルビィ! 伏せろ!」


 シルキーを抱いて地面に伏せようとするその刹那、肩と脇腹を金属製の何かが通り抜けていく。

 肉がはじけ飛んで背中側に血がぶちまけられる。大穴が空いた。

 狙いは、俺?


 想像を絶する痛みが走る。呼吸もまともにできないくらいの痛みだ。

 全身から脂汗が滴る。


 くそ。

 折角フレイとルビィに服買ってやるついでに新しくしたばっかりなのによ。


 ……治療師を身分偽装で名乗る事はできるが、治癒促進と裁断縫製だけで銃創が治るかわからない。

 とりあえずやるだけやってみる……がやはりと言うか。


 以前リザンテラに斬られた時と同様に、治るのに時間がかかりすぎる。

 金貨20枚ぶちこんでようやく血が止まった。痺れも痛みも残っている。

 前は金さえ継ぎこめば治るとか大見得切っちまったけどさ、なんでかわからんけど治りが悪い。

 早いところ治療魔法が使える誰かしらと契約しなければ……。


 と、この時は思ってたんだが、結論から言うとこの傷は治癒魔法でも治らない。

 別の理由があったんだよな。


 肩口と脇腹はズキズキ痛むが、この痛みを売るのはヤベぇ。

 いつ気絶するかわかんなくなるし朦朧とした意識を繋ぎ止められなくなる。

 男は我慢だ。


 アリスが屈みながら戻ってくる。

 シルキーは顔を青くして俺の傷を見ている。

 平気だから。心配するな。


 さっきまで吹きつけていた風が感じられない。気持ち悪い空気だ。

 ……追撃は今のところ来ないようだが、ゆっくりはしていられない。


「……一応聞くがお前らって、傷は魔力で治るのか?」


 とりあえずイフリータの二人に確認を取る。

 無傷じゃ切り抜けられなさそうだ。怪我を負わせたら治す責任は俺にある。


「時間はかかるが」

「じゅ肉しているからふつうの人げんと同じ」


 そいつぁまずい。包帯と傷薬でなんとかせにゃならんのか。


 待てよ、……傷は売れる(・・・・・)のか?

 肩口の銃創を床に押しつけてみる。


 ……痛みと銃創の半分くらいが地面に移動した。

 売れたは売れたが、何かしらに阻害された。

 どうやらさっきの銃弾には能力が付与されている。


 そして。


「今襲ってきている奴は、俺と同じくらいの実力なんじゃないか……?」


 そんな不安に襲われた。 

 膝をついて痛みに呆ける俺をシルキーはそっと抱き寄せる。


「ますたぁ、大じょうぶです。みんな一しょです」

「そうですね。五人で力を合わせましょう」

「何とでもなる」


 励ましてくれた。心から嬉しかった。……余計な気使わせちまったな。

 調子づけられた俺は、もう気遣わせなくてもいいように軽く言った。


「そーだな、俺に買えねえものはない。おめーらの安全は俺が買ってやる」

「そのいきだ」


 ルビィに頭を撫でられた。ビックリして彼女の顔を見る。

 自分でも不思議な事をした、と言った表情で頭を撫でた右腕を見ていた。


「……なぜ? わからない」


 人らしくなってきたのかな。撫でた理由が理解できないようだ。

 どこかおかしくなって笑ってしまった。

 周囲への警戒は解かないが、そのまま頭を撫で返してやる。


「気持ちいいだろ?」

「……いい、うれしいという気もちがある」

「撫でられたら嬉しいだろ、だから人にも撫でてやるんだ」


 言葉はシルキーみたいに拙いが、確かに伝わってくるその思い。

 人に為って、人に成って、色々学べばいいさ。

 俺が勝手に変えたには変えたが、その行為自体は悪くないはずだ。


 人に生まれたおめーらも、人に生まれなきゃよかった、なんて思う事ないだろ?

 少なくとも今は。


 人に生まれたからには、親に育てられる権利がある。

 だから俺は、こいつらを少なくとも一人前の人間になるまで面倒を見る。

 色々教えていかにゃならない。産みの親として。


 そう決意したんだ。




---





 この後俺らはリザンテラ一味4人に国中を追い回されんだ。

 街から街へ、区から区へ。飛び回って隠れても見つかっちまう。

 戦おうとすると逃げられる。

 ……今思い出してもムカつくぜ。

 そんな俺たちはどんどん疲弊していき、俺の傷は日に日に増えて行った。


 大変だったぜ。リザンテラ達は歪んでいない(・・・・・・)とは言え是正者だから。


 本来その歪みを直すのが是正者なんだけどな。ティナを見ているとどーも。

 ……どーしたトリアナ。

 プレイの一環でもなきゃバラバラになんかしねーぞ。


 是正者ってそもそも何なのか説明してやれって?

 あぁー、うーん。難しいところだ。


 俺が元居た世界では『勇者』とか『主人公』なんて言われる存在かな。

 もちろん物語の中にしか居ない上にご都合主義の塊なんだけど。


 でもな、罪とか罰とか、正義とか。

 奴らはそんな概念が失われると共に、物語でよく知られる『勇気ある者』ではなくなって行ったんだ。


 魔物を狩って、魔王を倒して、歪みを直して。みんなから崇め奉られる。 

 民衆は犠牲になって宿を安く提供し、武器を安く売ったり、泥棒されても見て見ぬフリをしたりする。


 その上で成り立っていた職業システム。

 それが形骸化した成れの果ての憐れな存在が、是正者(レクティフィアー)


 この世界で勇者という単語を聞いたことはねえ。

 じゃあ彼らは勇者じゃないのだろう。


 勇気も希望も何も持たず、ただ歪みだけを是正するという目的の為に、ただ世界を廻る。

 何より憐れな奴らだよ。


 ……辛気くせえ話はしたくなかったんだけどな。

 どーしても話しておかなきゃならない事があるんだ。


 もちょっと、我慢してくれ。

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