49. ゴールドゲート(金貨6万枚ちょっと)
「ほぼ同時でしたので、より多くの金貨を積んだ方に売りたいと思います」
「そうか、じゃあ俺は15万枚出そう」
この少年、金ならいくらでもあるとでも言わんばかりの態度だ。
悔しいがもう貯蓄はない。ならば。
「いや待て、ここはカジノだ。お互いチップを112万5千ずつ出して、勝った方がトリアナをいただくというのはどうだ」
「店に23万金貨入るという事か? なら俺は25万出してもいいんだが」
底なしか。化け物め。
と、思っていたらメイド服姿の奴隷が少年に進言した。
「流石に25万は痛いです。素直に受けては如何でしょうか?」
彼女は、受けたとしても負けはしないでしょうけど、と付け足した。
俺はその言葉に、燃え上がった。
持てる技術全てを費やして、絶対に勝ってやると。そう誓った。
賭け事師の能力を持ってさえすれば、絶対に負けるわけがない。
「……これは勝てない流れっすね。見届けはするっすけど」
「バカ言え、俺が負けるとでも思ってるのか」
「さっきアンタが負かしたディーラーと同じ顔してるっすよ。
絶対に負けるわけがないって顔っすね。油断だらけの」
はっ。
……いや、そんなはずはない。
俺の主観で見る者のみがそれに当てはまっていただけだ。
俺が負けるわけがない。
「ルーレットがいいんだろ?」
声をかけられる。
相手の土俵で勝ってやるとの自信の表れだろうか。
「何が言いたい」
「お前ルーレットが得意なんだろ、俺は台を選ぶのが得意だ。
だから俺が座る場所は決めさせて欲しい」
賭け事師に台の制約などない。
だから、少なくとも賭け事師ではない。
それなら、負ける道理はない。
「俺はここにする」
「じゃあ俺はここだ」
受けて立とう。
「どうベットしてもいい。当てた方が勝ちだ」
「わかった」
ディーラーが目配せをしてくる。
俺と少年は、無言で頷いた。
特にタイミングを計る事もなく、ディーラーは自然にボールを弾き入れた。
ちりーん。
「赤だ」
「黒の17」
……。
はぁ?
何を言ってんだコイツは。
黒の17に入ると思ったなら、単に黒に賭けるか前半に賭けるか奇数に賭けるか、広く構えればいいだろ。
金を持っているだけの、自信家な子供だコイツは。
これだけ広く構えてれば、どこからでも赤に入れる事は可能だ。
揺らしの精度も多分俺の方が高い。
何もしなくても18/38の可能性で勝てる。決まっていた勝負だったな。
しかしその時、世界一の用心棒は。
「はぁ。日付、変わってるっす。契約更新はなしで」
ため息を吐きながらそう言った。
なんだよ、勝負の熱が逃げるだろ、てか日を跨いでからもう大分経つだろ。
今言うなよ。
ボールの速度が遅くなる。跳ねるように動く。そろそろか。
『先見の明』
5秒先を見た。
黒の17に入るところが見えた。
ふざけんなよ。そんな、運命に定められたかのように物事が進むもんか。
『揺らし』
揺らしを使っても、確定した未来が変わったように見えない。
もっと強く! ……いや、動いたように見えない。
頼む、動いてくれ! 何故発動しない!?
まずい、入ってしまう。
と思った時にはもう遅かった。
カランカランと鐘の音が鳴り響く。
先ほど祝われた俺へのセレブレーションが、今度は少年に向けてされる。
「少年の勝ちです。チップはお互い全て没収させていただきます。
その上で、トリアナ=レグリスはそちらの……」
「マ……チェシャ=クロックだ」
「チェシャ様のものとなります」
何故。
何故黒の17に入るとわかっていた。
何故揺らしができなかったんだ。
「……何故なんだ」
「おめーバカだろ」
バカだと。俺がバカだったのか?
何か、根本的な勘違いをしているのだろうか。
「教えてくれ。何故俺は負けたんだ」
「金がねーからだ」
……何?
「おめーさ、自分が金持ちだったら、勝負を挑まれたらどう動く?」
……っ。
そうか。
……もし金があれば。
ディーラーを買収するだろう。
「ディーラーを」
「そんなんだから負けんだよ」
この時は全く意味がわからなかった。必死で頭を悩ませた。
答えは出なかった。
何故。何故なんだ。
何故負けたんだ。
ありえない。ずっと使えた揺らしが使えなかった。
自信を、失った。
自暴自棄になった俺は、全てを投げ出して答えを聞いた。
この先の人生よりも、その理由の方が大事だと思った。
死んでもいいと思った。
「俺はどうなってもいい、何故負けたのか、それが知りたい」
少年は心底つまらなさそうに、一枚の書類を見せてきた。
それは譲渡証のようにも、領収証のようにも見えた。
ぐらぐら揺らぐ視界の真ん中に映ったのは。
【ゴールドゲート所有者名義 マスター=サージェント】
「こういう勝負は、店ごと買うに決まってんだろ」
そう、戦う前から勝負は決まっていたんだ。
しかも、店の所有権があるんだから、戦う意味すらなかった。
じゃあ何故勝負したのか。
……俺の心を折るためだ。
「気づいたか? 賭け事師なんて歪んだ職業、滅多に見れるもんじゃねえ」
少年、いやマスターは、トリアナも俺も、大きな収入源になるカジノすら。
いとも簡単に手に入れて行った。
「お前は、最悪だ」
「よく言われる」
膝をついた俺にマスターは無慈悲な詠唱をした。
そして、俺の人生は、実質幕を閉じた。
「契約者の名の元に、汝の未来を買い受けん!『絶対服従!』」
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こうして俺は安定した収入源を手に入れつつ、トリアナという重要戦力と、なんかよくわからん歪んだ職業のダージを手に入れたんだわ。
なんで揺らしが通じなかったか語られてないって?
ヒラでできる台だったからだよ。基本的に揺らしに似た技術はディーラー全員が持ってるし。台を見ず人しか見てなかったダージが悪りぃ。
じゃ、ダージ君はブロマイドに戻りましょうねー。
そう、……どんな能力を持ってても、金の前にはひれ伏すしかねえんだ。
こうやって、歪んだ職業の男はカードにしてコレクションしてんだ。
なんで男にはそんなつめてーかって?
そりゃ男はいらねーが好みの女ははべらせたいだろ?
…………おめーらの事だよ。言わせんな恥ずかしい。
そりゃ好みじゃなきゃカードにしてるわ。一生一緒に居てくれよ。
おめーらだけでもな。
そうそう、メサイア=メダエンジの話とかしようか?
……おめーに聞いてんだよロズ。
どうやって龍をバラバラにしたかとかさ。知りたくねーか?
それよりトリアナの話が聞きてえって? まぁいいけど。
ん?
そうそう。シラセとトリアナは一度ニアミスしてんだ。
当時のトリアナの見た目は今のティナと一緒。
ティナの話もしてえけど、出てくるのはまだちょっと先だな。
シラセがティナに向かって『アンタがトリアナじゃないんすか?』
って言ってたんだって? そいつはちょっとおもしれえな。
今度会う事があれば説明してやんなきゃな。
……いやいや、シラセはあんくらいで死ぬタマじゃねえよ。
近いうちひょっこり顔出して、次の仕事まだっすかとか言ってくるぞ。
話の繋がりがよくわかんねえって?
仕方ねえなぁ。まぁ飛ばすにしては惜しいエピソードがいくつかあるから、ちょっと戻ってルードでシルキーを助けた後の話をするか。
アトラタ城を貰いに行きすがら話してやるよ。




