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48. 損失(金貨60万枚分)

 トリアナを手に入れる。

 そう決めた俺、ダージは、金を溜める事にした。


 持っている金は金貨で110枚。チップが100枚。

 全額チップにしたところで1200枚にしかならない。不足枚数は……。


『112万3800枚』


 ざっと1000倍にしなければならない。

 技能(スキル)を全開で使っていいのならば可能だろうが、バレてしまっては元の木阿弥だ。


 そう、運だのなんだののたまっていたのはただの拘りだ。

 俺には賭け事師としての能力と技能がある。


 親父が言っていた。


『サマを使って勝てれば半人前。使わず勝てて一人前』


 だからこそ、俺は能力(アビリティ)技能(スキル)も使わずに金を増やしてきたのだ。

 しかしもはや四の五の言っていられまい。

 バレない程度の能力を振るっていくべきだ。


 そこで出番となるのが『先見の明』。

 フォアサイトと言う通名もあるらしいが、賭け事師は通名を好まない。

 『せんけんのめい』と共通言語で発音するのが暗黙の了解なんだそうだ。


 この技能は『現状で確定している未来を視る』のだが、俺は5秒以上先が見えない。


 1秒先を見るのに使う魔力を1とすると、2秒先は3。3秒先は9。

 4秒先は27。5秒先は81。大体そんな計算だ。


 この計算で行くと、俺の魔力は100くらい。

 1秒先でいいなら1日100回は見れるが、5秒先を見るとほぼ魔力が尽きる。


 ま、3秒先を見て別の技能を使うかどうか決めるのが一番効率がいい訳だ。


 ルーレットで使う技能は『揺らし』が主だ。

 目視できない程度の揺れを台に起こしてルーレットの出目をずらす。


 これを使えば一点狙いでも5回に1回は当てる事ができる。

 しかし、同じ店で狙い続ければ最悪バレる。

 バレなくとも出入り禁止を食らう可能性がある。


 というわけで、ゴールドゲートのルーレットで稼ぐのは最後にする。

 資金が貯まるまでは、例えばバカラとかで稼ぐか他の店へ行くか。


 ダーツやビリヤードですら賭けが行われているから、どの店に入っても金稼ぎができる。これは便利だった。


 問題は護衛が居ない事。稼げば稼ぐほど危険が増していく。

 そこで、信用のできる用心棒を雇う事にした。


「シラセっす。いやー、若く見えるのによく金用意できたっすね」


 金貨100枚払って、世界で一番有名な(・・・・・・・・)用心棒を呼んだ。

 有名であるという事は、即ち信用があるという事だ。


「俺はこの街で、12万枚の金貨を貯めなければならない。

 1日金貨100枚契約で、全ての危険から守って貰えないか」

「ちょっと安いっすね。うちの日収、150~300はカタいっすよ」

「なら200出す。それで受けてくれないか」

「いっすよそれで。しっかし12万枚とは豪気っすね」


 仕方ないんだ、トリアナがチップ112万枚もするのが悪い。


 とりあえず、呼び出し料を払ってしまってほとんど所持金が無くなったので小さな宿屋のダーツから資金集めをする事にした。




*




 それから、毎日毎日イカサマで金を稼ぐ日々が続いた。

 目立ち過ぎないよう少しずつ、かつ時には大胆に儲ける。

 大勝した時はしばらくその店には近寄らないようにした。


 時々、逆恨みした店員やならず者から襲撃を受ける事があった。

 しかし、あっという間に『世界一の用心棒』が片づけてくれた。


 彼女は色々気を使ってくれた。


「トリアナの護衛もした方がいいっすかね。

 ぶっちゃけ金貯めるより襲った方が手っ取り早いっしょ」

「それもそうかもしれないが、俺は正規の手段で助け出したいんだ」

「無法のこの街で、っすか? 筋金入りのバカ真面目っすね。

 ……嫌いじゃないっすよそういうの。」


 トリアナの護衛はお願いした。

 俺が手に入れる前に襲われて持っていかれたらつまらないし。

 追加料金は取られなかった。

 サービスの一環っすよ。とか言ってたな。


「サービスついでに『溜まってたりとか』しないっすか?」


 とか言われたが、丁重に断った。

 そういう事もよくするのかと聞いたら、ジョーダンっすよと言われた。


「ま、気分次第っすね」


 そういうものだろうか。




 金貨が7万枚ほど貯まったとある日。

 火の魔人や半妖精の奴隷を4人もはべらせた少年が街へやってきた。


 どう見ても金持ちのボンボン、勘違いヤローだ。

 案の定街のならず者が少年を囲った。

 俺は、成り行きに興味があったので見守る事にした。


 シラセは助けに行こうと言ったが、その義理はないし護衛に集中してくれと頼んだのであっさり折れてくれた。

 サバサバしていて助かる。

 こうやって『話がわかる』からこそ一流なんだろうと思った。


 だが、俺にとって予想外の展開が起こる。


「フレイ、ルビィ。ひとりふたりくらいなら殺してもいい。見せしめに頼む」

「了解した」

「イエスマスター」


 炎を纏った少女二人は詠唱をして、それぞれ左手と右手を掲げ振り下ろす。


火炎地獄(インフェルノ)


 奔放に地面を走る炎が人にぶつかる度火柱が上がる。

 人間大の黒き塔がいくつも立った。


 阿鼻叫喚の様相を呈した。

 蜘蛛の子を散らすよう一目散に逃げていくならず者たち。

 大通りには、誰も居なくなった。


「……守るどころか殺さなきゃなんないくらい危ないっしょアレは」

「……どうする、もし殺したら俺たちは目立っちまうぞ」

「見なかったフリするしかないっすね、勝てるかどうかもわかんねっす」


 余裕そうな表情を見るに、勝つ自信はあるだろう。

 だが、手出しをする意味がない。

 そう思って見送ってしまったのが俺の間違いだったんだ……。






 ゴールドゲートで、その少年を再び見かけた。

 俺は所持金をほとんど全部チップに変えて、最後の仕上げをしようとしていた時だった。

 メイドと半妖精、炎の少女二人に少年というメンバーは否が応にも目立つ。


 その少年は、大量の金貨を受付の机に出していた。

 金貨100枚の塔が10、20、30……。

 100、110、120……。

 200、210、220……。


「オイオイ、ありゃまずいっしょ。どーすんすか」

「お、俺と同じ目的だったのか?」


 あのペースで出すなら5分とかからずに12万枚は現れるだろう。

 5分では、ルーレット1回が限度だ。

 ここに来てオールインをしなくてはならないのか。


「ディーラー、60万チップの勝負をすぐ受けてくれ!」

「60万ですか、わかりました」


 受けた。つまり、イカサマが来る(・・・・・・・)

 このディーラー、肝心な時に00へ確実に放る技術を持っている。

 こいつが00へ入れる時はいつも、同じ調子で回転させたのちに2週待ってから赤32で弾く。


 必ず00に入るならば、1つ前後にずらす事ができれば確実に赤に入る(・・・・・・・)

 00の両隣は赤の1と赤の27だからだ。


 つまり、赤32で放ったのを見届けたら『揺らし』を使って1つズラせば。

 念には念を入れて先見の明も使えば。

 ディーラーは必ず赤に入るボールを投げる事になる。


 俺の勝負を受けたディーラーはいつもの調子で盤面を回転させ、2回転待ってからボールを赤32で弾いた。

 来た。


 ここで00に張るのはリスクが高い。

 何故ならディーラーも『揺らし』を持っているからだ。

 余計な事はしない。


 ちりん。


「赤に60万」


 俺は発声しながら1万チップ60枚をテーブルに置いた。


 この数週間、血の滲む思いで貯めたチップが、ほぼ全て盤に乗ったのだ。

 首元がちりちりする。

 心臓がバクバクする。

 ミスは許されない。


 ディーラーがほくそ笑むような表情をした。

 お前の60万はパァだとでも言うような。

 俺が今まで戦ってきた相手でその表情をした奴が勝ったところなど一度も見たことがない。

 今のうちに笑っとけ。


 ボールの回転がだんだん弱まる。


 ちりんちりん。


 ベット終了の合図だ。ボールがだんだん内側へ下がっていき、カンカンと音を立てながら跳ねはじめた。

 あと3秒くらいだ。恐らく00で止まる。


『先見の明』


 やはり真っ直ぐ00に入るだろう。

 ならば勿論。


『揺らし』


 ほんの少しだけ、盤面からボールにエネルギーが伝わる。

 ボールは00に突っ込まずにほんの少しだけ延び、赤の27に入った。


「……は?」


 ディーラーの間抜けな声が聞こえた。


 盛大なセレブレーションが始まる。

 トランペットによるファンファーレが、聖歌隊による歌声が。

 使用人たちのおめでとうございますが、他のディーラーによる拍手が。

 そして、天井からは金銀色の紙吹雪が吹き荒れた。


 ディーラーは、屈強な白いタキシードの男に連れ去られ、裏口から消えた。

 そいつがその先どうなるのかは知らない。


 俺は別のディーラーからチップを受け取ると、全力で走った。

 俺の人生でこれほど走ったのは初めてだったかもしれない。

 少年と俺が景品交換所へ辿り着いたのは同時だった。


 勿論、発声も同時だった。



「「トリアナをくれ!」」

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