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47. トリアナ(金貨11万2500枚)

 俺の名前はエウリオ・ダージ。ダージの方が名前だ。

 職業は、賭け事師(ギャンブラー)。職業って言っていいかわからんけどな。

 早速だが昔話を始めよう。

 ……あんまり語りたくねえんだがマスターには逆らえねえ。


 俺は、そこそこ不自由のない生活を送ってきた。

 親が賭けに強かったから。金貨1枚持って家を出て、家を買って帰ってくるくらい強かった。

 俺は憧れた。そんな親に。


 だからこそ、そんなぬるま湯のような生活が嫌になった。

 俺も同じく、金貨1枚持って家を飛び出そう。

 そう思って、即実行した。


 路銀はギャンブルでなんとかした。ちょっとずつ貯蓄も作るようにした。

 俺には勝負の才能がある。そう思った。

 そして、旅の中でとある街の話を聞くんだ。


 黄昏の街クィールってところがあってな。

 ほぼ4方を高い山に囲まれた街なんだが。




 そこは日照時間が物凄く短く、常に薄明るいか、夜かのどっちかしかない。

 真昼間になると街の人はこぞって洗濯物を干す。

 まともに日が差すのは3.4時間くらいかな。

 その程度の時間が経つとすぐ薄明りに戻る。


 そのクィールって街は、ここ、そう。地図で言うここだ。見ろ。

 帝国都市ルードが一番近い国になるかな。

 街とか村も含めたら怪しいが、クィールを目指す旅人はまずルードに来る。

 そこから山の麓まで来たら、徒歩で山を越えるかトンネルを通るかの二択。


 山には熊が出る。トンネルには熊鼠の大群が出る。

 獣か魔獣かの差はあるが、強さ的には大きいか小さいかの違いしかない。

 どちらにせよ危険なのだ。


 小型の魔物を一掃できる戦士や魔法使いが居るならトンネルが近道なんだが、俺は一人で山を登った。

 そして、運よく熊に会う事なくクィールに辿り着けた。

 なんとなく、行ける自信があった。勝負師の勘って奴かな。


 山を下りる途中、黄昏に染まる街並みを見た。

 この街の通称は、上から見た景色の事を指すんだなという事に思い至って、自らの選択が間違ってなかった事が嬉しくなったね。

 その光景を見れただけで正解だったと思ったんだ。


 街は、危険な匂いに包まれていた。

 街の入り口って大体自警団とか冒険者の集いとか、そういうのがあるだろ。


 それがなかった。

 林にぽつぽつと廃墟が並び、それが少しずつ増えていく感じ。

 貧民街かよ、とも思ったな。街全体がそんな風だ。


 街の中心近くにまで来ても、治安は悪そうな印象だった。

 それと、調子のいい音楽があちこちから聞こえて来るんだ。


 酒場や遊技場、宿屋からすらもな。


 まだ朝方だったが、歩き詰めだったのでちょっと寝れるところを探した。

 探したんだが……。


 この街の宿は、超高い。

 普通の街なら銀貨40枚くらいありゃそこそこのとこに泊まれるんだが……この街では最低金貨1枚からが相場だった。


 なんでかって言うと、寝泊り休憩時、奴隷の貸し出しをしているんだ。


 ……そう、素泊まりができる店は少なかったな。

 店の入り口には顔写真が貼られていてよ、気に入った子が居たら指名料金を払って、一緒に泊まれるんだ。


 指名しない場合でも一人は絶対借りなきゃならねえ、休憩で入る場合ですら貸し出しがあるんだ。


 正気を疑ったね。

 どこの誰とも知らねえ奴と一緒に泊まらにゃならないんだ。


 ババアと寝るのは嫌だったから、温和そうな子を指名して手を出さず普通に寝た。病気もコエーし。


 抱かなかった事で怒られたんだが、金は払ったんだから文句言われる筋合いはない。その日はそそくさと宿を後にした。


 夕暮れ時のクィール中央広場。

 遊技場が特に多いその広場は待っていましたとばかりに色めき立つ。

 街の人間にとって黄昏は特別な意味があるんだ。


 ほとんどの連中がフードをかぶって足早に移動している。

 肩をぶつけたくらいで殺し合いに発展する事もある。

 全裸の奴隷を連れている者も居る。

 一本路地に入ったら死体が転がってたりする。


 これだ。これを求めていたんだ俺は。

 究極のアウトロー、無法の世界。




 鐘が鳴り響く。

 広場の人々はこぞって建物へと入っていく。


 一番大きな人の流れは王宮のような巨大な施設『カジノ・ゴールドゲート』へと流れ込む。


 俺もその流れに乗って、魅惑の世界へ足を踏み入れたんだ。

 入口でチップを買う。

 銀貨10枚で1チップだ。とりあえず100枚買った。


 このチップは魔法で色づけされている。

 各々が全員違う色のチップを持つのだ。


 魔法でなんらかの変化を加えようとすると、爆発する。らしい。

 不正はできないんだよ。


 俺の専門はルーレット。このカジノには3台ある。

 別にポーカーとかも勝てなくはないが、狙い目に入った時の焦がれるような感覚が好きだからよくやるのはルーレットだ。


 君らルーレットは知って……知らなさそうだな。教えてやろう。

 まぁ種類は色々あるんだが、そこに置いてあったのはこう言う奴だ。


 まず、円盤があるんだ。それは中心が金属の棒で固定されていて、手で回転させるとしばらくの間回り続ける仕組みになっている。

 その円盤は、丸いケーキを切るみたいな感じに38分割されていて、その一つ一つのピースは枠で区切られている。

 区切られた枠には赤と黒に色分けされた1~36と、緑色の0、00の数字が刻まれている。

 円盤自体には縁があって、鼠返しみたいな構造になってんだ。


 この装置で何をするかって言うと、まず円盤自体を回転させるだろ。

 そうしたら逆回りにボールを弾いて投げ込んで、ぐーるぐーる回転しているうちにどこに入るかを予想するんだ。


 ボールを投げ込む人をディーラーって言う。

 こいつがベルを鳴らしたらベット開始の合図だ。

 数字を直接指定したり範囲を指定して、声を出しながらテーブルにチップを置く。

 ディーラーがベルをもう一度鳴らしたらベットタイム終了。

 あとは運を天に任せて祈るだけだ。


 賭け方にも色々あるんだが、俺は一点賭けしかしない。

 何故かというと、赤や黒に張る場合当たれば配当は2倍なんだが、当たる確率は18/38だ。

 0と00がある分俺らに不利なんだよな。長くやればやるほど負けるんだ。


 だから俺は一点。当たれば配当は36倍。

 チップ100枚賭けて、もし当たれば3600枚。

 金貨360枚分だ。普通の人なら3年分くらいの生活費に該当する。


 そんなバカみたいな賭け方するのは、絶対に行けると思った時だけだがな。


 ルーレットの下見をしたところで、俺は換金所へ向かった。

 交換のレートを確認する為だ。

 そこの掲示板には以下のように書かれていた。


 チップ1000枚で金貨100枚。

 チップ105枚で金貨10枚。

 チップ11枚で金貨1枚。


 そう、少額で勝負しに来る者に不利なようにできているんだ。

 ここは貧乏人が夢を叶える場所ではないというのを肌で感じられる。


 その換金所の横には景品交換所がある。

 貴重なアイテムから嗜好品まで様々なものが置いてある。

 ペットや奴隷すら居る。




*




 そんな中、俺は人だかりに気づいた。

 一番目立つショーケースが人ごみで埋まり、一番目立たなくなっている。


 なんとか割って入りガラスの向こうを見た。

 そこには、……なんて事だ。


 茶髪のロングヘア、大きめの胸、キラキラした黒い下着姿の美しい女性。

 端正な顔立ちと強い知性を感じさせる瞳の煌めき。

 一目で惚れた。


「この女が景品なのか……」

「チップ……112万5千枚だと? ふざけてるのか?」

「1万やるから抱かせろー!」


 やいのやいのと野次が飛ぶ。

 暴動にならないのは、もっと恐ろしい警備員達が抜身の剣を構えているからだろう。


 俺は彼女に近づいた。

 彼女の視線がふわりと動く。

 時間が止まったような気がした。


 その茶色い瞳と目が合った。

 じわりと潤んで、涙がこぼれる。


 助けて、と訴えかけている気がした。

 だから、わかった、と目で応じた。


 そのまま離れようと思ったんだが、名前くらいは憶えておきたいと思った。

 だからショーケースに向き直って、遠目から景品名を確認したんだ。


『トリアナ=レグリス』


 それが彼女の名前だった。

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