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44. 型取り料(9万エリー)

「わりーなフランキスカ。ちゃちゃっと直すから待っててくれや」

「突然だったから驚いたが、敵だったか。いや、礼を言うのはこっちだ」


 へらへらと話すでけえオヤジのウェンド。

 さっきの戦いで店がボロボロになっちまった。

 フランのせいで壁から天井を通って反対の壁まで風通しがいい。


 しかし、誰一人の犠牲も出す事なく籠絡部隊に勝利できたし……。

 壁や屋根くらい直るからまぁよしだ。




 さ、こっちは片付いた、修理終わったらダンジョンへ加勢に向かうかな。

 あ? どーした酒場の客人たち。戦ってるところ見たかったって?

 おめーの後ろの壁見ろや、ギャラリーしてたらみんな死んでたぞ。

 異次元倉庫に突っ込んでやっただけありがてーと思え。


 戦いを肴に酒飲もうなんざ、趣味悪いとは言わねーが闘技場でも行けや。

 俺はおめーらの娯楽の為の安全なんか保障してやれねーの。


 しっかし、この戦いで8人も上玉の奴隷を手に入れたからな。

 記憶を買って、技能も買い取って、あとはカスタマイズして売ろうか。

 理性を奪ったり快感を増したりとかどうだろう。

 猫耳を生やしたり両手両足を奪ったりとかは基本すぎて面白くねえ。


 予想外の実力を見せたこいつらにも何かしら褒美をやりたいな。


「アリスも、フランも、ロゼも強かった。スゲーわおめーら」


 心からの激励だ。

 ありがたく受け取るがいい。


「いいえ、全員制圧に4分もかかってしまいました。まだまだです」

「つよかろう! わたしはマスターのためならばかみでもなできる」

「いえ、この細剣のお蔭です。マスター、感謝します」


 特に、アリスの強化が著しかった。

 こいつは事あるごとに俺を殺す。

 まぁ俺の行動が目に余る時は殺せと命令してあるからなんだが。


 主人殺しは禁忌に触れる。

 禁忌に触れると歪みが増える。

 歪みが増えると禁忌の子は強化される。


 という理由でアリスはもはや、そん所そこらの連中には負けなくなった。


「リタは、大丈夫なんですか?」

「あーあー、心配とかそういうの全く無意味だ。アイツは強いぞ」


 アリス、おめーがわからんのはちょっと問題あんぞ。


「いいか、あいつはダンジョンの中で俺を10回くらい殺した」

「それはすごいですね。

 私でも相当強い武器を出さないと死んで頂けないと言うのに」


 ……変な言い回しだな。


 それでな、あいつの職業に付随してた能力なんだが。

 これがおもしれーんだ。

 んでな、俺との契約でついた能力も、スゲー傑作なんだ。


「おもしれーと言いますと」

「聞いて驚くなよ、あいつは……」




---




 首が転がっていた。

 私は今何をした?


 ベッドから移動する。絨毯に倒れ込みそうになったがなんとか立つ。

 千鳥足で歩く。模造刀フランキスカの装備が外れた。


 憔悴し切った獣のような表情が壁掛けの鏡に映った。


「え、エイト……!?」


 扉の外には似た顔の女性が5人。

 全員殺すのは今の俺にとっては、赤子の手を捻るようなものだ。

 私の姿は彼女らの目に映っていないようだから。


 全員から得物を奪って無造作にホールに投げた。

 そのリアクションすら許さず部屋に全員を放り込む。


 続いて部屋に入る。

 ドアノブを外し、引っ張って伸ばした。

 扉と壁を繋ぎ止める巨大な錠を作って、打ち付けた。


 ここまで4秒くらい。


「何、何が居るの」

「何が起こってる」

「怖い、怖いよ」

「お母さん……」


 転がるエイトの首と、起きる不可解な現象。

 更には脳を焦がす香りで恐慌状態になったのが見て取れる。


 地面に転がる、小さなナイフを拾った。

 鹿の皮でも剥ぐように、女たちのコートを、服を、下着を裂く。


 上がる悲鳴。祈りの声。懺悔の言葉。

 逃げ回ろうとする彼女たちを、絨毯に転がしていく。


 人間なら良心の呵責くらいあるだろう。

 今の俺は獣だ。


 獣なら、本能の赴くままに。


 ぐるる、と唸りながらふらふらの足取りで歩く。


 ……ふと、ピンと来た。

 気づいた。


 模造刀フランキスカの、正しい装備の仕方(・・・・・・・・)に。

 このベルトは付属品なんかじゃなくて、腰に装着するものだ。


 もう止められない。


 強くなるために千仭の谷へ飛び込んだライオンは。

 どこまでも、堕ちていくのだ。




---




「意識レベルが下がるほど、強くなる?」

「そう、ケモノになるほど強くなり、ケダモノになるほど歪んでいく」

「それは、危なくないのですか」

「そんなこたーない」


 世界の歪みと、人の持つ歪みは違う。

 人の持つ歪みが大きくなったところで、そこから歪みを生む行動をしなければ何も影響はない。


 世界とはしゃぼん玉みたいなものだ。

 そこに大きな歪みができると、割れてしまいそうになる。


 だから、その歪みだけを切り離して新たな存在を作る。

 切り離した歪みが強くなって例え鉄の玉になろうとも、しゃぼん玉に干渉しなければ割れる事はないのだ。


「なんかあればトリアナに『裏返って』貰って、ティナに調整させればいい」

「……それには一旦トリアナを殺す必要がありますね」

「それなんだよなぁ……」

「マスターを殺すのとはわけが違います」


 ティナが生きている時にトリアナは死ねばティナと入れ替わる。

 トリアナが生きている時にティナが死ねばトリアナと入れ替わる。

 死んだら再度復活には12時間を要する。


 二人はちょっとした事情により一つの体に二つの器を宿しているのだ。

 俺の命はいっぱいあるが、トリアナ達は一つの命を折半して使っている。

 俺を殺すのと違うってのはそこの差だ。


「ま、その為にはとりあえずトリアナを助けに行かなきゃならん」

「そうですね、では早速行きましょうか?」


 行くか。

 俺がもうすでに(・・・・・・・)140階まで降りてるから、140階から入れる。

 近道も知ってるし、そこから先も俺が通った道を辿れば大丈夫だ。


「あー……なんか必要なもんあるか?」


 フランキスカに声をかけられた。

 んー、今更個人に売ってもらうものなんてないが……。

 あ、そうだ。


「例の模造刀、スゲーぞ。流石ウェンド族のモノ(・・)だな」

「その話は本当に内密にな、マスターの頼みでなければ……」

「わぁってるよ、でもフランカレドも悦んでたんだぜ?

『あぁっ……おとうさま……おとうさまので……お腹の中がい』」


 俺のお腹の中身があたりにぶちまけられて死んだ。

 アリス、居合なんて教えたっけ俺。

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