37. ルードルールルルルードダンジョン70891階(4512151024554......)
10時間ほど休んだ後に会議をした結果、部隊を分ける事にした。
今出せる戦力は以下の通りだ。
マスター。俺。
遠近火力も肉盾もこなす。って言うかなんでもできる。
できればシルキーとセットで情報集めしたい。
アリス。
遠近火力。物理ならなんでもござれ。防御性能高し。まとめ役にも。
シルキー。
完全後衛情報抜き。精神鍛錬をされていない者なら無力化もできる。
フィル。
妨害員及び探索要員。まぁダンジョン班で確定か。
フラン。
近距離火力。実力は未知数だが武器次第で化けるんじゃないか?
ロズ。
まだ原石。ダンジョン班には入れたくないな。
トリアナ(ティナ)
恐らく150階近くには到達してるだろう。
何事もなく合流できればミッションは完了だが……。
……ちょっと心許ないな、シラセやハクラに声をかけるか……。
ま、シラセかな。ちょちょいと金銭術でメッセージを送ろう。
上位精霊をつけるのは、今はあんまりしたくない。
しゃあない。
……金が減るなぁ。どっちかを短期決着させにゃ。
そうぼやきつつ詠唱をする。
「我が身は上位に存在す、次元に干渉せよ!『二重存在!』」
「それを使うんですね」
「わぁ~!」
「ま、仕方ないか。早いところ決着つけるんだよ?」
「ぶんしんのしかたがきもい」
「……ホントになんでもアリだな」
俺を増やせばいい。
ぐにゃりと体が歪んでいく。その不定形空間から二人の俺が抜け出る。
思い思いの感想が聞けてマスター冥利に尽……今フランなんか言ったか?
……この分身はどちらも俺の意思で動かせる。
動かす肉体が二つになっただけで、どちらの視界も別個に見える。
二人を動かすのだからどちらかがおろそかになる、という事もない。
片方に集中する、とか言う概念もない。集中するなら両方共集中できる。
ただこのスキルは金の消費速度が半端じゃない。
ドラゴンを解体する為31人に20秒分身する程度なら金貨1.2枚で済むが、常用となると話は別だ。
「……予算は金貨5000……いや、4800枚。24時間で片方決着つける」
「了解です。片方と仰るのはレクティフィアーの方ですね?」
その通り。
しかし、仲間の為に『4800万円』もぽんと出せるようになるなんて、少し昔でも昔々でも考えらんなかったな。
それとチーム分けは戦力が偏らないようにしねえと。
何が起こるかわかんねえし。
んじゃあと俺その1が口を開く。
「ダンジョンチームは俺、シルキー、フィル。命名『チームすなお』」
俺その2が口を開く。
「レクティフィアーは俺、アリス、フラン、ロズ。命名『チームつんけん』」
「ネーミングは元よりダンジョン側が少し不安です」
俺2人が同時に口を開く。
「「その点は大丈夫だ」」
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「……全く人使いが荒いっす」
エレニアの『ディロウホテル』11階にある自室。
トレーニングを終えシャワーを浴びていたところ、呼び鈴が鳴った。
なんすか、この夜更けに。
タオルを適当に頭にかぶせて服も着ずにそのままドアを開ける。
ちょっと寒いっすね。
「あーい、どーかしたんすか?」
「あ、えっ!?」
「いーから。早く用事言って」
ホテルマンは俯いたまま要件を伝えてメモ書きを渡してきた。
そのまま、失礼します! と裏返った声で叫ぶと、走り去ってしまった。
二秒くらいしか会話時間なかったっすね。
「なんでえ、ウブすぎっしょ」
黒くてぼさぼさな髪を適当にガシガシ拭きあげる。
ボロボロなジーンズ生地のパンツを穿き、胸の大きさを押さえるコルセット風の下着をつけ、柄物のシャツを着て皮のジャンパーを羽織る。
靴はサンダル。戦闘時は裸足だから脱ぎやすい方がいいっしょ。
一応鏡を見る。いつも通り長い睫毛に黒い瞳。
目にゴミとかはついてない。歯も磨いた。
「ま、突然呼び出してくるのはいつもの事っすね。そろそろ行くっしょ」
相棒、骨喰いを背中に担いでメモ紙を確認する。
【RD直 300G MS】
「ルードダンジョンっすね」
窓を全開にする。屈伸をする。足を曲げ伸ばす。
腕をぐるぐる回して体をほぐす。右へ左へ腰を回す。
外を見る。真っ暗だが木々の隙間から街灯が見え、ほのかに明るい。
人々の温かさと自然が融合した感じられるからこの街、好きなんすよ。
「移動も……楽っす、よね!」
目標をつけたら部屋の中をぐるっと一周走り回って……。
星々の瞬く空へと、飛びこんだ。
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149階。
「……流石にスプライトがいねーと何も見えねえ」
トリアナめ。ちゃんと契約し直しとけよ。
あそこで死んだトリアナがクソなのか?
もしかして死んだのは不可抗力だったんじゃねーのか?
「あたし一人でどーしろっつーんだよ」
声を出して寂しさを紛らわせる。
トリアナはまだ死んでる。マスターの命みてーに万能じゃねえ。
正真正銘独りぼっちだ。
ついでにそう、多分スプライトの寿命も切れたようだ。
いつの間にか消えちまった。
完全に何もない真っ暗。深淵。
その中を、極稀に吹き抜ける風だけを頼りに手探りで進む。
その心細さたるや、押し入れに閉じ込められた赤子など比べものにならないほどだろうよ。
狭い。暗い。怖い。
隠密が得意な人間とか、暗闇でも平気な歪みや穢れの少ない生物に襲われれたなら、それこそ何も気づかずに死んじまうぞ。
マスターもトリアナも、会ったらただじゃおかねえからな……。
あたしをこんな目に遭わせやがって。
なんとかなると思ってたのか。
買い被りだ。
高々11歳の、歪んだ是正者に何ができると思ってんだ。
クソ。
床が硬てえ。
でも立つのは危ねえから這って進む。
もう膝が痛てえんだよ。
でも止まるのは怖ええ。
止まっちまったら、もうこの暗闇から動けねえ気がした。
怪我は治る。傷も消える。
でも汚れはしばらく残るんだ。
だから汚いのは嫌いだ。
「オーマエ、も、ヒトリ、か?」
「ひっ!?」
不意に耳元で、低い声が囁く。
何も見えない。何かが居るかもしれないけれど、気配もなかった。
「ヒトリで、ヒトリじゃない。オーマエ、マヨイこんだ?」
「……」
敵意は感じない。歪みも穢れも感じない。
……嘘を言っても仕方がない。今のあたしはまな板の上の鯉だ。
「気づいたらここに居た、というのが正しい……ぜ?」
「ハホーホ! ソンナ、わけない」
……怒らせたか? 奴から笛の音のような声が一瞬出た。
何を意味するのかはわからない。
「……オウに、ヨウがある?」
「オウってなんだよ」
質問が通るとは思っていない。
投げやり半分、話が通じる安堵感半分で話している。
「オウはオウ、ワレらーが、オウ」
「王か。王に会うとどうなんだ」
……。
……。
勿体つけるな。何か喋れ。
「……オーマエ、やっぱり、キャクじゃない」
暗闇が明ける。
バッと辺りの景色が変わる。
星空を落下していくような。
下から上へと光が上昇する。
赤青黄色の光が舞い散り、狂気的な世界を成す。
幾何学的な人の顔の模様が空中に映っては消え、浮かんでは消える。
そこには、土偶に白色の仮面を被せたような人型の何かが無数に居た。
半分安堵していた精神に、一転巨大な恐怖が押し寄せる。
「これは!?」
まずい
考え得る最悪の現象が起こった。
対応できなければ死ぬより酷い消え方をする事になる。
「70891階へようこそ。ようこそ。ようこそ」
「ここは、ルードルールルルルードダンジョン70891階です」
何かが話しかける。あたしはそれが何か理解できない。
それは確かに存在している。同時に、存在していない。
その意味はわかる。言葉にはできねえ。
『扉の世界』の出来損ないだここは。
「ようこそ」
「お待ちおまままままちまままお待ち」
「していました」
何か達が話している。その言語は、理解できる。
ただ、どの言葉かは理解できない。
「あなたは、7人目の、招かれざる」
「招かれざる」
【招かざ
キ」ャ