35. ビスチェドレス(金貨22枚)
「絶対殺すぞクソマスタァァァアアア!!!!」
んだよこれ!どこだよここ!誰にキレたらいいんだ!?
……てめえも調子に乗ってんじゃねえぞクソゾンビ!
「だオラァアアァァァ!!」
「ぐァ、アァアあアアぁァァあァァァ!!!!」
渾身の力でグールを地面に叩きつける。
粒子と光子に分解されて地面と空気に拡散していった。
グールが着ていた服に隠れて見えなかったが、腰に下げていたらしいナイフホルダーが、カランと音を立てた。
……殺される相手くらい選べよクソトリアナが。
大体こいつを守るのはマスターだろうが。っこに居んだよ。
「……気持ちわりぃなホント、ドロドロじゃねぇか」
素手で下腹部を内臓丸ごと抉り取った。
胃と食道を千切って吐いた。
口内の肉と歯は全部毟ってポイだ。
噛まれた部位もつまんで削る。
顔の汚れは薄皮一枚剥げば問題ねぇ。
怪我ならすぐ治るが汚れは気になるからな。
帰ったら風呂も炊いてもらうか。
辺りを見回す。
洞窟か?
いや、ダンジョンだ。
ルードダンジョンの奥深く、か。
一度来た覚えあるから特定は容易だ。
服は? ご丁寧に畳んでやがる。死ぬ気満々だったんじゃねーかクソが。
つかこれ着るのか……? 全裸の方が幾分かマシだぜ……。
……治るまで横になって休むか。
て思っていたら人の声がする。
マスター、じゃねえな。あたし一人置いてどこ行っちまったんだ。
情報が入ってくるかもしれねえ。集中して聞いてみるか。
「クレオー……どこだー……?治しに来たぞー……」
「この辺なんだな?クレオが死んだのは」
誰か知らねえがこっちに来んな。
死にかけに見える全裸茶髪のロリが転がってんだ。
っち、……こっち来やがる。
……五人組か。
先頭が汚い金髪。
後ろにリーゼントとアフロ。
三人とも戦士系だ。仰々しい鎧姿をしている。
その後ろに特徴のない気弱そうな魔法使いと……聖職者?
相当やり手だ。
龍の2匹や3匹くらいなら平然と狩り倒しそうな程。
「おーい……お、死体か? 10歳くらいの子供」
「子供の死体ぃ? こんな下層に?」
「内臓ぶちまけられてら」
「うぇ、グロ」
死んでねぇ。
「見た目結構可愛くね? やっちまうか」
「君、いくらなんでも……」
「ここじゃ倫理もなんもねーの。ここどこだと思ってる?」
めんどくせぇ。
「よいせ、おほっ! 意外と綺麗じゃん、傷一つねえ」
「傷一つ? おいバカ、罠じゃねーのか?」
「内臓が散らばってんだぞ、こいつのじゃ……」
「離せ」
うわっとか言う声が聞こえた直後に頭に衝撃が走った。
どこかにぶつけられたのか。
クソが。気持ちいいくらいの外道だ。
まぁ予想してた。
常識持ち合わせてるヤツぁこんな洞窟潜って日銭稼いだりするわけねぇ。
「……頭を狙うのは正解。あたしは死んだら死ぬ。治る前に死んだら終わり」
「生きてるじゃねえか! やったぜ!」
「不気味だぜ、なんで1人なんだ」
鼻血を流しながら言葉を紡ぐ。
冷静にならにゃ、意味ねぇ。
「人が人の形をしているのは、何故だ」
「人の形してなかったら、気持ちよくヤれねえからだよ!」
はははと5人のうち2人が笑い声を上げる。
「人っつー1つの完成された美しい器を持ってて、なんで外道に走んだ」
「何言ってんのか、わかんねえよッ!」
汚い金髪男に、頭を壁に叩きつけられた。
血が流れる。
「……『歪み」は無くても穢れた器は滅びるべきだと思わないか」
「おい、なんか雰囲気がおかしいぞ」
「やめろ、……俺は先に帰る」
もう遅い。
「あたしは、キレすぎると逆に冷静になんだ。
跡形もなく消しちまったら、反省もなんもしねえだろ」
「はぁ?何言って……」
気づいたな。
お前にはもう両腕がねえ。
「は? は? なんで? ねえなんで俺の手が?」
「お前はそのまま生きろ。子供も作らせねえ」
後ろのヘラヘラしてたお前らもだ。
「お、俺も!? これ付け根どうなってんだ!?」
「よくも俺の腕を……ゆるさ」
攻撃しようとした奴は足も消した。
地面に転がるリーゼント頭。
「まるで達磨だな」
「ぐっ……なんで……何が……」
そのジャリジャリした頭を素足で踏みにじる。
感触はいいのかと思ったがやっぱ気持ちわりぃや。
「なんか……俺……股に違和感が」
「削ったから」
あたしは後衛二人に目を向けた。
歪んじゃいねぇし別に原罪以上に穢れてもねぇ。
その二人は恐怖の視線をこっちに向けてきた。
あーあーめんどくせぇ。
……フォローくらいはしてやるか。
「お前らには手出ししねぇよ。こいつら連れて帰れ」
「は、ひゃい!」
「わ、わかりました」
手出しできねぇの間違いだけどな。
まだこっちを見てくる。
あ、さっきのアイツか?
「あとクレオ……だっけ? そいつが盗賊ならもう存在しねぇから諦めろ」
「あ、諦めます」
「わかりました……」
まだ視線を向けてくる。チラチラと。
……。
少しだけ顔が赤くなるのがわかる。
「わぁったらとっとと散れ! 全部消してもいいんだぞ!」
「ひいいい!!」
「行くぞ!!」
ひ弱そうな二人はリーゼントを抱えて。
残りの腕無しはそのまま走って消える。
あいつらあれでどうやって生きてくんだろーな。
死んだも同然だ。
「あ」
気づいた。
「謝られてねぇ!」
イライラしてきた。
腹立つ。
クソマスターめ。
半ギレで着替えに手を伸ばす。
こんなんでもねえよりマシだ。やっぱ肌を見られんのは恥ずい。
着終わったが。
どこが隠せてんだこれ。
『穴』と『先端』くらいしか見えなくなってねぇ。
……全裸の方がマシか?
何回か着たり脱いだりしてみて、まぁ、防御力の差で着る方を選んだ。
ついでになんか落ちてた布を羽織って、目深に帽子を被った。
全体的にぶかぶかだが、トリアナのサイズだからだろな。
……またアイツ、あたしの代わりにでかくなりやがったか?
下着がずり下がるのも気になるが仕方ない。上もブラじゃないだけマシ。
なんだ、そこそこの魔法使いっぽい恰好に収まったんじゃねぇか?
その瞬間、後ろから風が吹き抜けて行った。
「ひゃ」
間抜けな声と共に、マント代わりの布とビスチェドレスが捲れあがる。
後ろに誰かしらが居たら、ほとんど丸見えの尻を見られていたところだ。
か、風が弱点か?
ちょっと嫌な思いをしたが、向かうべき方向はわかった。
風は吹くとすれば下から上だ。
ダンジョンの『口』は下にあるから、モノの流れは下から上になる。
古い宝箱も上層へ流れるもんだしな。
つまり、風が吹く方へ進めば下へ行ける。
「あっちだ」
んなわけで逆境使いトリアナ=レグリス改め、この是正者ティナは、未だ誰も見ねえ最深層へ向かって歩みを進める事になった。
目的はわかんねえ。