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34. 二つの宝石

「むー!!むー!!」

「と言うわけで一人捕まえました」

「でかしましたフィル!」


 アジトに、目隠しをされ後ろ手に縛られて下半身を氷漬けにされた、工作員っぽい女性が運び込まれます。

 腰には業物らしき長刀が下げられています。

 流石にこれは……と問答無用で外してロズに片づけさせます。


 口には自決防止用のスポンジが詰め込まれていて、相当えずいています。

 フィルは能力が結構大味なはずなのによく捕まえましたね。


「えへへ、落とし穴に落ちたところをキュッ、とね」


 キュッと……どうしたんでしょうか。ちょっとだけ気になります。

 ……工作員のジャケットを見ると、聖盾の騎士団、つまりイージスの紋章。

 ロズに目配せをします。


「イージスの者か? ……じゃないみたいだ、見たことはない」

「とりあえず凍傷になったら可哀想なので溶かしてあげましょう」


 工作員っぽい女性を椅子に座らせて、暖炉の前に運びます。

 ついでにやかんを暖炉へ持っていき、吊るし棒に引っかけます。


 お風呂に入れた方が手っ取り早いですけど、敵にそこまでする義理はありませんね。


 しかしこのメンバーでは拷問もカード化もできません。

 本当にマスターへの依存度が高い稼業です。

 マスターが居ないと、みんな思い思いに動いてしまうんですよね。


 ……シルキー、回復が使えるのはマスターだけです。そのメスとコッヘル鉗子をしまってください。


 ……フラン、音を立てながらナイフでジャグリングするのはやめましょう。不必要に脅す必要はありません。倉庫に戻してください。


 ……フィル、張り切るのはいいですけど二人このアジトに匿うのはリスクが高いです。とりあえずこの一人で我慢してください。


 ……ロズ、みんなのマネをしなくても大丈夫です。お願いですからあなたは普通でいてください。



 全く。侍女服姿のまとめ役なんて格好付かないでしょう。

 あと1日で戻るはずのマスターの指示を待った方がいいです。


 と、工作員の様子が変わりましたね。


「……おぇ、げっほげほ!」

「あら、スポンジ、吐いてしまわれたんですか。自決されると困ります」

「……自殺は禁止されてる」


 そうなんですか、まぁ仮にも聖騎士ですものね。

 ならば色々とぺらぺら喋ってくれそうな感じですか?


「話す事は何もない。殺してくれ」

「ですって、どう思いますか? ロゼッタ(・・・・)

「へ? 私ですか?」


 ぴくりと工作員の眉根が動くのを見ました。

 咄嗟に気づいたわけではないです。ずっと観察してましたからね。


「そうだな、殺していいか悪いかは『まだわからない』と言ったところだな。人質としての価値があるかどうかが焦点となるだろう」

「そうですね。それだけの思考ができるのならば、ロゼッタには参謀を任せてもいいかもしれません」


 イージス(・・・・)ジャケットの女は、無表情を保っています。

 が、その裏には何らかの思惑が巡っているようです。

 これで死ぬわけにはいかなくなりましたね。情報を伝える為に。


「偽名でもなんでもいいですので名乗ってくれませんか? 呼びづらいので」

「……サーティ……サティン」

「サティンですね」


 普段から使っている偽名の偽名ですかね。

 話す事が何もないなら黙っていればいいのです。精神的な訓練は積んでないようですね、拷問にも弱そうです。


 ……シルキーが上機嫌なのはその光景を想像しての事でしょうか。

 屈曲した趣味を持ってしまった彼女は不憫ではありますが、マスターの傍に居る時は幸せそうなのでまぁ、そういうのもありでしょう。


 夜の生活がどうなっているかは私には与り知らぬところです……。


 とりあえず、私たちはマスターの帰りを待つという事で現状維持に努める事にしました。




---




「むー!!むー!!」


 会話にならなかったので縛ってみたんだけどホントにどうしよーか。

 殴られる蹴られる斬られるで大変だった。



 腕を縛り頭の上に掲げさせ壁に磔にして、両足の腿と脹脛同士を縛る。

 これだけで相当時間がかかった。

 ちょっと汗を掻いたのでスーツとシャツを放った。


 眠らせたり精神を操れば簡単だが、本当の意味でマスターに忠誠を誓わせる為には洗脳などもっての外だ。


 何故なら魔王が施す洗脳は勇者に解かれるのが常だ。

 俺は魔王軍が作りたいんじゃねえ。勇者の天然ハーレムが作りたいんだ。

 俺は調教がしたいんじゃねえ、これは躾だ。仕方ない事だ……。


 等と言いながらテグス結びをいくつも作り、服や体のあちこちに引っかけていく。

 引っかける場所は、シャツの裾やホットパンツの端。

 股の間を通したり、敏感な桃色の先端に巻きつけたり。

 最後に全てまとめて腕の紐に括り付ける。


 暴れればキュッと締まる。

 体のあちこちが同時に締め上げられ、服とズボンがずり下がる。

 仕上げに轡を噛ませてようやくおとなしくなった。


 俺が縛るのに使った白い糸は、俺直営の中間管理商店から買い戻した吸血蜘蛛(ブラッドサカー)の糸だ。そこそこ頑丈で粘り気が少ない。


 何故、通名に蜘蛛の意味合いが入っていないかと言うと、他の魔物の吸血類は大体ヴァンパイア族の配下だからだ。

 吸血蝙蝠(ヴァンパイアバット)とかな。


 ダンジョンは駆け抜けるものだと思ってはいるが、たまにはこういう素材を集める為にゆっくり潜るのもいいな。


 ……さてはて、どうしたもんか。

 とりあえず、謝るのが先だ。

 誠意を見せなければ協力などできまい。


「すまない。お前の気持ちを考えずに行動してしまった。もう元には戻せないが本当に反省している……許してくれないか」


 耳元で囁くように声をかける。

 リタはぞぞぞっと背筋を震え上がらせる。

 身を捩じらせるその動きに連動して、胸が露わになる。

 体中のあちこちが締め上げられ、整った豊満さがより強調される。


 マジシャン紛いの事やっててよかったぜ。


「ふー……ふー……やぇ……」

「ん? なんて言ってるんだ?」


 轡を取ってやる。これで話せるだろう。


「……協力しろって言うなら対等な立場で話せ……よ」

「もう対等じゃない。さっきおめーは俺に隷属したんだ。

 その上で謝ってお願いをしてる」

「~~っうぅ…………」


 耳元で囁くように言うとまた飛び跳ねて視線が中空を彷徨うようになる。

 脳の神経が焼き切れるんじゃないかと思うくらいの幸福物質が全身を流れていくようだ。弱点はこれか。


 何が起きてるかっつーとこれ。


 炸裂快楽(バーストプレジャー)


 俺がパソコンのマクロ的に詰め込んだ快楽の信号を纏めて炸裂させているのだ。恐怖の耐性は高かったがこちらの通りはいい。

 俺のマクロボックスはあと100箱はあるぞ。色々試していきたいぜ。


「こ、ころひゅ……」

「あーらら、強情なやつだ」


 涙をぼろぼろ零しながら脳を襲う神経物質を堪える。

 孤高のライオンだからか? 精神的抵抗力が高いのかも。

 その様子を見て、最悪ともあろうものがちょーっと可哀想になっちまった。


「そこまで言うなら終了だ。あの牛羊野郎は俺だけでなんとかする」


 パン!と手を叩くと、糸から快楽物質から全てがマクロボックスに吸い込まれる。こりゃもう不純物が混ざりまくってるから廃棄だな……。

 真っ赤な顔で喘ぐような息をしていたリタは少しずつ落ち着いてくる。

 と同時に、疑問の顔をこちらに向けた。

 混乱、不満、絶望、悲しみ、そんな気持ちが綯交ぜになった、マクロではない手打ちの表情(コード)だ。


 言葉にはしないが確かに伝わってくる、虚脱感。さっきまで抗っていたのにいざ無くなると、物欲しくなる。物足りなくなる。

 その表情を見て、胸を締め付けられる感覚になったのは俺だ。

 背中にゾクゾクとした寒気が走る。

 これが、優越感だ。何度味わっても甘美なもんだ。


「汗まみれじゃねーか。着替えはまた買ってやるから風呂入れ」

「……ぇ……?」


 真っ白なタオルを買い、それを適当にぶん投げてリタに渡す。

 一瞥もくれずに風呂釜へ。

 薪を突っ込み右手を薪に向けて火を……。


 ……頭を振って火口を作り、買ったマッチで(・・・・)火をつけた。

 間髪入れずに水を買う。

 リタ一人に贅沢だが、そんな事を気にする程度の値段じゃない。


 着替えは……暴れられるのが嫌だから動きづらいのにするか。

 ロングスカートとか。ドレス的な。


「おーいリタ、この辺から好きなの選……うおっ」




 部屋に戻ると流石の俺でも目を逸らしたくなるような感じになっていた(・・・・・・・・)

 咄嗟に身を引いて部屋の陰に隠れて様子を見守る。


 濁った音が響く。


 あー、そんな事しちゃう。そんな格好しちゃうかー。

 ああ、そういうのが好きなのね。マスターメモ帳にメモっておこう。

 肉球か、賢いな!

 え、そこを使うの?痛くないの?

 舌かー……、そうだよね、届かないよね。

 でもジャリジャリして痛そう。

 二本、三本……二本が限界か。

 その指の形、フレミング左手の法則って言うんだぜ。今度教えてやろう。

 あれ、そのシャツは俺の……。

 嗅ぐの? 好きなの? 殺すんじゃないの?

 使う? 使っちゃう?

 あぁー洗濯コースだー。



---





 ……時間を忘れそうになったので急いで外に飛び出した。

 物事にはメリハリが大事だ。今は張る方。


 設置された異次元倉庫の外。

 そこは、何一つ残らぬ闘技場。


 ……本当に何もないのか。

 戦いの痕跡のみが残っている。


 あのふかふか毛皮野郎が生きていたなら、俺が命に代えても神名騙りを使わずに倒して見せる。

 イフリータ二人は、強かった。

 ひょっとしたら倒せてしまうかも、とは思っていた。

 最後の瞬間を、見ていてやりたかった。


 上層にも下層にも歪みの気配はない。


 あたりをくまなく捜索すると、砂に埋もれかけた二つの宝石と、角の欠片を見つけた。

 二つの、赤と紫の宝石は、静かに優しく、光を反射させ続けていた。


 俺はそれを胸に抱いて、少しだけ祈りと感謝を捧げた。

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