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27. そこへ向かう為の機械(金貨260枚)

 はあ!? トリアナが行方不明!?

 俺が負けた言い訳しながら語ろうと思ってたシーンを……アリスに託さねばならねーだと……!?

 俺の用意した大作ムービーをみんなで見れないだと!?



 ……あぁ!? トリアナの心配はしねーのかって!!?

 心配に決まってんだろーが!!

 だが俺を誰だと思ってんだコラ、言ってみろ!


 そう、俺が最悪の奴隷商人マスター=サージェント!


 俺のものは俺のもの。おめーのものは買って俺のものにする。

 それが俺のモットーだ。


 自分の奴隷も守ってやれねえで何が奴隷商人だよ。

 最近焦れてたのは知ってんだ。


 っつーわけでアリス、あと全部任せた。

 アジトの全権限をやる、あと金貨も一割出しとく。


 ……ああ、リンクの必要はねえ。トリアナの場所はわかってる。

 なげー付き合いだしな。


 帝国都市ルード(・・・・・・・)王城魔宮(キャッスルダンジョン)だ。

 ……アイツなら140階くらいまで飛べるとして。

 俺は未探索だし1からだ。地下120階くらいまでは俺だけで行く。

 それまでアリスから話の続きでも聞いていやがれ。






 承りました。全権限委託も久々ですね。

 さて、ロズのためにちょっとだけ、ダンジョンの説明を致しましょうか。


 ルードダンジョンの難易度はトップグレード。発表されている深さは今のところ151層。

 マスターが単騎(ソロ)で潜るとして120階程度までなら3.4日でしょうか。


 ……口伝の昔話になりますが。

 ルードの王城は、元々はダンジョンを制圧する為の拠点でした。

 最初にできたのは城壁です。1階の魔物が外に溢れてこないように作られた囲いが今のルード王城の城壁なのです。


 探索が進むごとに外に魔物が現れる危険が減ってくると、今度はダンジョンのほど近くに寝泊まりできる建物が欲しくなります。

 そこでできた建物が最初の王城の原型でした。

 一番最初は宿屋もいいところの小さなものだったそうです。

 それが増築改築を重ね、城のようになり。

 百数年をかけて家が建ち街ができ、人が増え都市になり。

 初代探索者のリーダーが最初の王となる事で国にまで発展したのです。


 その為に、ダンジョンの上に城が建っているのです。

 逆でしょうか。城の下にダンジョンが広がっているのかもしれませんね。


 ……先ほどから何回も言っている『ダンジョン』というのは『生きた空間』のことです。


 空間生物が土を掘り抜き岩を貫き地下空間を作るのです。

 そこに住み着く生き物は歪みに似た現象を起こし魔物化します。鼠は巨大になり、蝙蝠は獰猛になり、土竜は人型になり、植物は毒を持つ。

 定型のパターンは存在せず、常識もありません。

 治外法権なのでパーティ同士もぶつかります。


 そんな危険が満載のダンジョンですが、もちろんリターンもあります。

 比較的金貨が発掘されやすいのです。鉱物も出てくるので、パーティに鉱山夫が入る事がよくあります。


 ダンジョンは極まれに存在する魔宮使い(ダンジョンメーカー)という職の人が作る場合もあれば、自然発生的に生まれることもあります。

 歪みから生まれる事もありますが、その場合大体スペシャルグレードになります。


 魔力が豊富なダンジョンは魔法武器が産出されます。それが目当ての人達はこぞってダンジョンへと挑みます。

 魔法武器が現れる理由は4つありまして。


・ダンジョンメーカーが武器屋で購入して、配置した普通の武器が魔力を帯びて魔法武器化する。

・魔物が元々持っている。

・地下の金属と金貨が反応して生成される。

・冒険者の落し物が魔力を帯びて魔法武器になる。


 一番多いパターンは冒険者の遺品ですね。

 全員が全身に装備をつけているパーティが全滅した場合、それだけで物凄い数の魔法道具が生まれうるのです。

 まぁ、一番高いグレードが出るのは自然生成されたパターンのものですから、質と量は反比例しますけどね。


 また、ダンジョンの最奥には守護魔獣が居たり、本体である水晶状の魔石があったりするんですけど、これも作られたダンジョンによってまちまちなので、またいつか機会があれば話したいと思います。


 ご清聴頂きありがとうございます、何か質問はありますか?

 ……大丈夫ですね? 特にロズ、後でマスターと一緒に行く事になると思うのでちゃんと復習してくださいね。


 では、お待ちかね。マスターのお話をしましょうか。




---




「……逃げられました」

「方向はわかる、追うぞ」

「ぐ……承知しました」

「はぁ……はぁ……は…………りょうかいだ」


 相性が悪かった、それに尽きます。

 マスターは手も足も出ず相手に一太刀も入れられず、こちらばかりが傷を負いあまつさえ逃げられてしまった。

 イフリータの二人は遁術の盾になったので、買ったばかりの服がボロボロになっていました。

 体の小さいルビィは息も絶え絶えです。



 純忍者。

 現代でも、戦士と盗賊の間に生まれた子は忍者と呼ばれます。

 しかし、その子は禁忌に触れます。


 純忍者は大昔から代々忍者のみの職を受け継ぎ、二親等の近親婚によって血を濃くしてきました。

 同じ職のみを受け継ぐことで歪みは徐々に収まり、一職業として認められるレベルになったのです。


 魔法は魔力を使う地水火風の四行で成り立ちますが、彼ら忍者は魔力を使わずに木火土金水の五行を操ります。

 遁術という、天候使いと精霊使いと契約者の全てに通じる術をほとんどノーリスク無詠唱で操れる、恐らく最強クラスの汎用性を持つレア職業。


 この付近で現れた歪みは『鵺』『狒々』など『和の地方』特有の伝説の生き物ばかりでした。忍者に会う可能性もあるとは思っていましたが……。


 忍者は詠唱なしで攻撃をしてきます。

 更に、投げた巻物が開ききるまで何が出るかわかりません。

 また、影に入ったり魔力の流れを掴まれて無効にされたりします。


 マスターにも可能な事は多いのですが、詠唱が長いのです。

 金銭術で操れないものは最初に『身分偽装』の詠唱をしなければいけない。


 その影響で、こちらの詠唱を聞いてからの対処も可能な上に、相手からの攻撃には防御が間に合わないというまさに最悪の相性でした。



 しかし、負けたというのに、すぐ次を見据えて行動を始めるマスターは、とても心強かったです。


「酔狂なやつが居て助かった。よくこんなもん作ってるやつ居たな」

「なんですかこれは……馬車ですか?」

「俺の居た世界では飛行機という」


 木枠の本体に紙製の羽。風車のようなプロペラが前後に複数。


「こ、こんなもので飛べるのですか?」

「理論上は可能だ」

「このにく体では何かの力なしにひ行はできない。ふゆうなら……」


 座席は二つ。後部にタンク。石炭か何かだとは思いましたが、マスターはそれをおもむろに放り捨てました。


「……マスター、人数乗れないのは分かりますが動力がなくては飛ばないのでは」

「なーに、こういうのはな、モーターさえ回りゃ(・・・・・・・・・)……飛ぶんだよッ!」


 浮力が買えるならば、回転力も買えるらしい。

 この世界のどこかわからぬところで、穀物を粉にするための風車が何故か故障した事でしょうね。


 エンジンの駆動音なしにプロペラが回転を始めます。

 マスターはイフリータ二人をタンク置場に放り投げてから車輪のロックを外し、飛行機に飛び乗りました。


「目標、47キロ先の建物7階。シルキーの元まで一直線だ! 塵の防御を頼む」

「了解ですマスター」

「……吹き飛ばされぬように気をつけねば」

「これも……けいけんかな」


 元魔神二人は、生まれて初めてするであろう『必死の形相』で飛行機に食らいついていたのでありました。

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