25. 肉塊(一山銅貨50枚)
はい。正解者のロズさんに拍手!
そうだ。
正解は『ダイヤモンドで網を作って上空から落とした』でした。
……へ? ズルいか?
殺し合いでズルいも何もねーし『斬撃耐性』持ってねえ方が悪りぃ。
殺さなきゃ殺されんだ。
相手の最大攻撃を受け止めて倒れて、友情パワー的なので復活して。
プロレスかよ。少年漫画じゃねーんだよ。
今日びそんなんありえねえんだ。一撃で殺すか、一撃で死ぬかなんだよ。
な、そうだろ?
と言うわけで正解者のロズさんにはこのマスターとの夜伽券をプレゼント!
……そんな露骨に嫌な顔するなよ、元々スパイだったっつっても、今はもう俺の奴隷なんだろ?
いやバレバレだから。別に怒ってねーし。
あ、こら捨てるな。ちょ、お前ら取り合うな!
シルキー!お前のはレジストするだけで鼻血が出るからやめろマジで!
あぶねぇバカ!トリアナ!ストップ!出番ねえからってそれはダメだろ!
お前のは本当に危な……。
もうてめーらアジト内で能力を使うなあァーーーーッ!
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……ええ、私です。ゆっくり余韻を楽しむ暇もないんですね……。
部屋中ボコボコだしみんなボロボロな上にマスター死んでますし。
なにをやってるんでしょう。
構いませんけど。久々にマスターに優しくしてもらいましたしね。
ええと、そう。
では異次元倉庫に集まったところから話しましょうか。
異次元倉庫の休憩室。乱雑にベッドが置かれて、観葉植物や椅子が本当に適当な感じでに並べられているところです。
そこのベッドの上に各々が放り込まれました。
紫色のイフリータだけ頭から落下してきて痛そうな音を立てました。
「ど……どうなったんですか?」
「わからない。突然足元に空間ができて気づいたらここにいた」
「……いったいなー……くそ」
「おかえりなさーい、しん入りさん?」
紫の子はお腹をさすっています。赤く腫れていたように見えましたが、じわじわ治っています。『自然回復』か『魔力置換』でしょうか。
シルキーがお茶を淹れて持ってきてくれています。
マグカップ一つ持つだけでふらふら、重たそうです。
シルキーはフェアリー族の特徴、一種の呪いのようなもので、基本的に重いものが持てません。
例えばマスターはシルキーに金貨を14枚持たせていますが、もう1枚増やすと動けなくなります。
服も込みでの重さなので、シルキーの服はとても軽いのです。
私ですか? ……ちょっとその服は透けすぎで恥ずかしくて着れませんね。
シルキーから順番にお茶を受け取りながらマスターを待ちます。
幾何もしないうちに、血の滲む冒険者服姿の男の人が入ってきました。
もちろんマスターです。
「ただいま、多分終わった」
みんなびっくりしていましたね。イフリータの二人もです。
「終わったとは?」
「狒々は多分死んだ。今から確認しにいくところだ。みんなも行くか?」
マスターはお茶を受けとりながら淡々と言った。
あれほど強かった鵺を手掴みで齧る狒々を、我々が倉庫に引っ込んだほんの一分足らずで殺したと。
「どうやって……たおしたのか?」
「まぁ、外出てみりゃわかるよ」
紫の炎を纏ったイフリータは、首を傾げながらマスターの開けた出口へ向かいます。
シルキーまで含めた全員が外に出た時、その光景に目を疑いました。
「……ガラス?」
「いーや」
そこは。
砕けたダイヤモンドが舞い散る、幻想の世界でした。
呼吸に気を付けてとか目に入ると危険だとか、そんな事を言うのも無粋な綺麗さだったので私の守護魔法防塵外套をこっそり全員にかけました。
「まず、ダイヤモンドでうすーくて長い刃をいっぱい作って、それを1000個くらい並べて、クロスさせるようにして同じく並べて網みたいにしたやつをくっつけて。
んで上空から一気に落とした。でかく作ったのは逃げられないようにする為と、まっすぐ落とす為」
そんな攻撃方法が取れたのは、ここが平らな草原だった事と、草木を全て鵺がなくしてしまった(食べたのでしょうか)為に、地面に余計な凹凸がなかったおかげだという話でした。
確かに屋内や丘陵では不可能ですね。運も味方したのでしょう。
まぁマスターならどんな条件が加わっても、やるべきところではやると信頼しております。全く、いいご主人に出会えたものです。
「あー……グロ注意」
「……これは刺激のある」
「……そうでもないかな」
「マ、マスター」
「うえー……」
そこに転がっていたのは、棒状の雑多な肉の山。
内臓や脳まで綺麗に斬られて、臓物の切断面が輝いています。
マスターに命令され、溶岩のような炎を出して焼き始めるイフリータ二人。
耐性に阻まれる事無く燃えていく、黒き大猿の肉塊。
どんなに強く思えるものでも最後には灰になるのです。
焼くのを続けながら、赤くて大きい方のイフリータが話し始めました。
「……歪みというものは、主に禁忌の子が大きな力を手に入れたり、それを振るったりする事で起こる。
禁忌というマイナスの力を打ち消す為に、歪みというプラスの力が発生し、打ち消し合ってバランスを保つのだ」
「歪みがプラスというのもおかしな話ですね」
「方向の違いを比喩しているだけだ。実際には、平穏である事が世界にとっても、我らにとってもプラスであろう」
イフリータは、知識の泉でした。これまで世界と触れ合ってきたからこその知識量。田舎で檻に囲まれて育った私たちには興味深い話が多かったです。
「今回はマスター達が残ってしまった。これから世界中に小さな影響が出るだろう。それが寄り集まってまた大きな歪みになるかもしれない」
「俺たちは生まれつき禁忌の子だ。普通に生きたくても生きられねえのは……、わかってるさ」
マスターは、笑っていた。楽しそうに、愉快そうに。
退屈を嫌う、奴隷達の王。
そうなる未来を予感して、身震いしました。私もちょっと愉快でした。
大体予感は当たりましたね。楽しく生きられている事を幸せに思います。
「私たちもマスターへ隷属します。呼びはマスターでいいのですね」
「ボクも、ちゅうせいをちかおう。マスター、なまえがほしい」
ああわかった、と返事を返すマスター。
「しかし、魔神が隷属契約なんてできるのでしょうか」
「普通は不可能です」
「きいたことはない」
隷属すると言ったのに余裕そうな表情です。
しかし、我らがご主人は意に介さず詠唱をします。その成否はもちろん。
「契約者の名の元に、汝らの未来を買い受けん!『絶対 服従!』」
元魔神相手でもお構いなし。
首輪がばっちり巻き付いて契約が行われました。
二人は驚愕の表情を浮かべます。
どこかで契約するのは無理だと思っていたのかもしれませんね。
「やはり、権限が高すぎる」
「『そんざい』の介入を感じる」
窮屈そうにして首輪に小指を引っかける赤くて大きいイフリータ。
紫の方はというと諦めたように腰に手を当てて頭を掻いている。
「名づけを行う、赤い方の君!燃えるような炎からフレイと呼ぼう」
「ありがとうございます。このフレイ、仮初めの人型なれど命に代えてもマスターの助けとなる事を誓おう」
首輪から指を離して自然体になる。これが敬意の証らしい。
「紫の君、その暗くも美しく輝く炎色からルビィと呼ぼう」
「ありがたきしあわせ。宝石のようなこの名にはじぬよう生きて見せる」
そのルビィも姿勢を正して返答する。
『命がある』という事はやはり二人にとって特別な事なのかもしれませんね。
「さて、人のいいところ、あとで教えてやると言ったな」
いつものやつですね、呆れ半分で見守ります。
「……わかっているつもりですが」
「せけん知らずと思わないでいただきたい」
ちょっとズレた回答。
そうじゃないんです、うちのマスターはもっと最悪なんです。
「子供を成すという行為に興味はないか」
ニヤつき顔でそう言いました。
いつものやつでしたね。反対に私は疲れ顔になるのが自分でもわかりました。
「少しはある」
「ないと言ったらうそになる」
そして、こっちも素直なんですよね。
全部が全部マスターに噛み合っていっているようで、なんだか。
誇らしいんだが嫉妬してるんだかわからない気分になりました。
私の事を忘れなければ、誰をどう何人愛そうが問題ないと思っています。
だからこそ私はちょっとだけ口を尖らせながら、見て見ぬふりをしました。
シルキーは、それを見て声をかけてくれました。
「明日は、きっとありすのばん」
にこっと笑って、くしゃっと髪を撫でてくれましたね。
ありがとう、シルキー。
こうして世界と同じように私たちもバランスを取っていたのです。
その晩、ゾルの街にはダイヤモンドの砂嵐が襲い家々を傷つけ、商人たちは口々に『最悪だ!』と叫んだそうです。
そして元々草原だった更地には、二人分の嬌声が一晩中響いたそうな。
わざわざ異次元からの入口を繋げておいたんですね。
本当に最悪だな、と思いました。




