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24. その仕掛け(金貨5万枚分くらい)




 俺は、その瞬間を見た。

 世界の歪みが寄り集まって、一つに重なる瞬間を。


「また歪みか」

「ゆがみだ」


 イフリータ二人が交戦していた鵺から離れ、見事なバック転を決めて俺の隣に着地した。


「鵺ならまだしも、狒々(ひひ)か」

「ひつじなんかからけんげんしたの?ゆがませすぎ(・・・・・・)だよマスター」


 ……俺?俺か?

 俺が何をしたって言うんだ。


「禁忌の子同士で繋がったり、神の名を騙ったり」

「ボクらにも『げんざい』がついちゃったじゃないか」


 繋がっただなんてそんな直接的な。確かに経験はあるけどそこまで日常的には……。

 ってああ、契約の事ね。


 二人ともぷりぷり怒っている。

 上位存在である炎の魔神に、騙った神の祝福を与えた為進化はしたが存在階級が落ちたらしい。


 何言ってるかわからんだろうけど俺もわからん。

 簡単に言うと、神に近い存在だったのに人に近くなってしまった、どうしてくれるんだ!と言って怒っているのだろう。


「まぁなんだ、人にも良いとこあるからさ、あとで教えてやるよ」

「……御意」

「……わかった」


 素直だよな。思うところはあるだろうけど。


 さて、と狒々に向き直ると。



 そいつは鵺を手づかみにして食らっていた。



 山のようなサイズの猿が、今まで苦戦していた鵺を取っては食いしているのだ。

 それを見てアリスは、戦闘どころじゃない!とダッシュでこちらに戻ってくる。

 ……おかえり。


「はぁ、はぁ……なんなんですかあれは」

「狒々という。見ての通り獰猛で真っ黒な大猿。猛獣を手掴みで食らう」

『たいきゅうりょく45、まほうたいせい』

「相手の思考を読む。風や雲を操ることができる」


 聞いたことのない声が響く。


「おい、今喋ったの、誰だ」

「わしだ。ひひひひ……ひひひひひひひひひひ」


 ひひだけにひひひってか。


「つまらない事を思うやつが居るな」


 バレてら。

 すげー笑ってやがる、ムカつく顔だぜ。


「えっと、魔人様方に自己紹介をするのは後として、どうしましょう」

「どうもこうも」

「たたかうしかあるまい」


 イフリータ二人は手刀を構える。

 いや真っ向から戦わなくても俺が絶対服従を使えば……。


「わしの存在階級を超えるほど金貨を積むつもりがあるならやってみろ。わしが奴隷落ちしたところできさんは死ぬがの」


 かもなぁ、あんなでけえなら指先で突っつかれるだけで死ぬだろうし。

 禁忌の主人殺しをしたところであの狒々が自ら強化されるだけだ。

 なんだそれ。ふざけんな。


「わしは久々に顕現できて血が滾っておる。憑代が羊だったのには驚いたが。

 だが、戦うだけが選択か?わしを解き放ってはどうじゃ?」

「そんな事してはこの世界が終わるだろう」

「ゆがみはゆがみをよび、ほろびへとつながる」


 ほっとくのも手かと思っていたがそうか。

 俺らでなんとかできなきゃ是正者が出てくると思うが……あいつら俺にも手こずるくらいだからこいつは無理だろうな。


『シルキー、俺の思考を読み取るのを防げないか』

『共有のぎゃく。楽しょうです』


 シルキーの『情報妨害(インフォジャミング)』が発動したところで狒々を倒す算段を立てる。

 彼女からの声も聞こえなくなるのは寂しいが仕方ない。


「イフリータの二人は自由に戦え。逃げようとしたら止めろ。アリスは俺を守ってくれ。あとは全部やる」

「了解」

「イエスマスター」

「わかりました」


「……ふむ、情報流出を防ぐのは対わしの基本戦術だの」


 ひょいひょいとイフリータ達の猛攻を躱しつつ、たまに彼女らを全力で叩きつけようとしてくる。

 炎の魔人娘二人も、何事もないかのように軽く避ける。

 このクソ猿、何上から目線で盤を見ていやがる。上に立つのは俺だ。


「あいつってどうやったら殺せんだ?」

「100分割くらいしたら死ぬ」


 赤くてでかい方が返答してくれた。

 おいおい。そんなんどうやってやんだよ。ぜってー無理だよ。

 クソ、なんで

『禁忌の子二人と繋がって』

『上位精霊を二人人間化したくらい』

 でこんなインフレした野郎が出てくるんだよ。

 ……こんくらいの奴が出ないとバランス取れないのか?もしかして。


「ひひひひひ、表情だけで考えがわかるぞ。わしを倒すのは無理だろう。

 加えてわしには魔法が効かぬ。きさん等ではわしを殺す事は絶対に不可能だ」


 絶対とか言われると否が応にもなんとかしたくなるな。

 死の線を見えるようにする何かを買うとか……うーん思いつかん。

 即死チートつきの包丁を……いやそうじゃねえ。


 もっと単純に考えろ。俺はなんでも買える。距離は関係ない。

 ……いや、そもそも異次元倉庫内のものでなんとかできないか。


「あ」


 そう、それは、本当に単純な事だった。



 とりあえず雲から『浮力』を買った。雲は落下してどさっと地面に落ちた。

 別に音は鳴ってない。




---




 戦いが続く。

 イフリータ二人の手刀によって、狒々の皮膚が少しだけ裂かれる。

 そこに、溶岩のような濃密な炎が降りそそぐ。

 大半は無効化されたが、傷口のみ、煙を上げて焼け焦げるような音がする。

 上手く行ったと、少しだけニヤっとする紫色の小さい方。

 それが癇に障ったのか、今までより加速した腕の振り下ろしが紫の方を直撃して地面に叩きつけられた。

 腹のあたりが腕に引っかかって地面と挟まれる。あれだけの大質量を受け止めたら千切れて死んでしまうかもしれない。


「げぅっ……」

「ひひひひ!ひーひひひ! いい声じゃ! 受肉した甲斐があったろう?

 どうじゃ!『痛い』という気分は!」 


 狒々は連続攻撃の体勢に入る。こいつはヤベぇ。


「ちょっと入ってな」

「ぅ……え?」


 紫の娘の下に異次元倉庫の扉を開いてさっと格納、すぐ閉じる。

 じたばたしてたから上手く着地できねぇかもしれないけど知らん。


 中にシルキーが居るから倉庫自体は動かせないとは言え、ここら一帯はどこからでも中に入れる。

 準備はできたし撤退だ。


「へ?」

「お」


 俺を含めた四人が足元に空いた異次元倉庫への穴に消える。

 中に入る直前、俺は『浮力』を『ソレ』から雲に売り戻した。


「じゃあなおっさん」

「なんだ逃げるのか」

「いや、今生の別れだ」

「何?」


 マスターが倉庫に消えた直後に、光る何かが、


 ザギッ


 という音を立てて、狒々の体を通り抜けた。


「な……ァッ…………」


 声を出した衝撃で、狒々の肉体はバラバラになった。




 実にあっけない幕切れであった。

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