19. 地図(金貨110枚)
……なんでおめーら言わないんだよ。え?恥ずかしい?
それじゃシルキーが恥ずかしい子みたいじゃねーか!
全員言うまで続き話しませんからね!先生許しませんからね!
ほら行きますよ、せーの!……できるじゃない。ほらもう一回!
そう、いえすで一旦区切るんだ!ちょっと猫かぶる感じで!
もっと顔を赤らめつつ!そう!声に色気を出して!いいぞ!
喘ぐように!繊細に、かつ大胆に!そうだ!指も咥えて!その調子だ!
いいねお嬢ちゃん!もっとはだけてみようか、そう、チラッと!
ちょっとでいいんだ!いやフラン、出したらダメだ!ダメなんだ!それじゃ映像使えないよ!
ぐへへ……そう肩を突きだして、手は膝に!上目使い、そう!
顔をちょっとだけ横に傾けてカメラ目線!できてるよ!
ギャー!!
頭は!頭だけは!いきなりかよ!
痛い!痛いだけならいいんだけどグラグラするから!!やめ!!
行ける流れだったでしょ!?みんなノリノリじゃん!アリスだけじゃん!
見ろよロズもやっ……ぎえええええええ!!
なにその武器!俺知らないんだけど!?
大丈夫!?こんな刺さって蘇生できるかな!?元に戻れるかな!?
あっ、ぐりぐりしたらダメ……。
―――俺は21歳にして、血だまりの暖かさを知った。
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付き合ってられないので続きをお話しします。
朝起きた私は、目が点になりました。
マスターが女の子を連れ込んでいたのです。
わ、『私と言うものがありながら』とか『私一人では満足できないのかしら』など様々な葛藤が脳裏を過ぎったものです。
事情を聴くと、とりあえずは納得しました。
最初からこれを狙ってたんじゃないかという疑心は残りましたけど。
……薄水色の髪の、シルキーと名乗ったハーフフェアリー。
この子も、マスターも、実は私も、職種違いの親を持つ禁忌の子です。
ええロズ。察しの通り。
『マスターも、私も、シルキーも、フィルも、トリアナも、そしてフランも禁忌の子』です。因果を感じますね。
仲間外れだと気に病む事はありません。私たちはマスターを通して繋がった仲間なのですから。これもまた因果です。
それに……いえ、なんでもないです。
ロズ、あなたは、全てを知って、全てを見届けてほしい。
この中で一番大事な役割を持っているのは、あなたかもしれないから。
何故かって?……『そんな感じ』がするからです。
「さて、事情も説明したところで移動の準備すんぞ」
「えっ……あぁ……」
寝ぼける頭に驚きと納得が同時に浮かびました。
是正者が再び迫ってくる可能性がある事と、街中で大魔法を使った犯罪者がパーティに居るのでゆっくりしている暇はありませんでしたね。
しかし適用されるのは無許可の改築と爆発による安眠妨害罪くらいなもんでしょうね。お金がなかったので罰金で払うそれが痛かったわけなんですけど。
是正者は禁忌の子を狙うらしい、という事は私も殺害対象ではあるんでしょうね。うかうかはしていられません。
マスターの受けた傷は、治癒促進と裁断縫製によって元通り……とはいきませんでした。
お金をつぎ込めば前と全く変わらない状態にでもできるのですが、コストがかかりすぎるらしいのです。
そういうわけで傷は治りかけ程度、服装はお金があった時に作った、今では血まみれで裁縫跡が残った専用の冒険者服の上から茶色のマント……と言った格好になりました。
その時の私はというと、ズボンは似合わなさすぎた上にロングスカートでは旅に向かなかった為、白と青が基調になった薄手の使用人っぽい服を着ていました。
「シルキーです、よろしくおねがいしまぁす!」
「アリスです、行くあてが無い者同士、仲良くしましょう」
「改めて、マスター=サージェントだ。よろしくな」
「えっ、名まえ……?」
シルキー、びっくりしていましたね。
ご主人様じゃなくてそういう名前だって事に。
いきなり主人呼ばわりさせようとするのもありえない話ですし、それを了承しちゃうシルキーも面白いですよね。
「そう、名前は親父がつけた。もうこの世にいねーから俺の名前に文句あるならあの世の親父に言え」
「文くなんてないですよぉ?」
そんな会話をしつつ、マスターは地図を広げました。移動の為の目的地を定めねばならなかったので。
シルキーの目がまた輝いたのを覚えてますよ。
透明な樹脂でできたカード型の地図なんですけど、畳んでも折り目がつかず、広げようと思えば部屋を埋めるほど大きくなり、指の動きで左右に見ている位置が動かせ、更に現在位置や方向まで表示されている地図なんです。拡大と縮小までできます。
え?大言壮語じゃないですよ、ほら、これがそれです。
……すごいでしょう、まるで異世界の魔法のよう。
因みにロズ、それは時価ですが大体金貨110枚の価値があるそうです。
ついでに、落としたら割れます。
そうですね、小さい家が買えますね。手が震えていますよ、ロズ? フフ。
「俺たちが入ってきた北東入口は魔法の跡の調査で通れない。魔力紋を調べられたら俺だと判明してしまう。よって近づけない。
戻る方面のルートはないと考えて、南方面へ進むか西へ行くかだが…」
「マスター、西へ行けば大きな街があります。そこへ……」
「いや、大きな街は待ち伏せの可能性がある。俺たちが向かうのは南東の森。
神託の泉ってとこがあるからそこへまず寄る。そこから南へ抜けて……ゾルの街へ行こう」
神託の泉。神に背きし我々禁忌の子達が寄るようなところではないと思う。
その旨をマスターに伝えると。
「別に何をしようってわけでもないし、リザンテラってやつが待ち伏せするとしたら候補からまず真っ先に外すだろう場所へ行きたいだけだ。
ついでに、禁忌を犯したのは俺らじゃなくて親だろ。俺には関係ない」
尤もです。
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「おれのなまえはりざんてらである」
「その主であるわたしの名まえはすとりがぞ」
「ぐぐぐ、ますたーにまけてけがをおってしまった」
『りざんてら』が大仰に苦しそうな態度を取ります。
それに対して『すとりが』は注射器を取って、彼の胸に刺しこみます。
「ぐわー!!」
りざんてらは叫び声を上げます。
勿論針は取ってあるので大丈夫です。
「きずがなおっていく!」
「今どは油だんするでないぞ、じゅう者も二人つけようぞ」
「ははー!」
大仰にお辞儀をします。普段着ですけど、魔法使いの格好をした茶色の髪のトリアナと、盗賊のような恰好をした赤髪のフィルが『りざんてら』の後ろに立った。
少しだけ呆れ顔をしている。
「しるきーが行きそうな方向にはけんとうをつけてある! 南の大きなまち、るぅどへ向かおう!」
「くれぐれもたのんだぞ」
「はっはっは! いいぞいいぞ」
マスターは拍手しています。
私も拍手をしますが、その顔はきっと途轍もなく疲れた表情をしていた事でしょう。
ロズはポカーンとしていました。