17. 桃源郷(入場料銅貨0枚)
むむむ……光の反射でよく見えん。水風呂だと言うのに水煙が出てるし。
まぁ冷えんのは困るからぬるいくらいの温度調整をしてるししょうがねーか?そういうもんか?
もっと近づけば見えるんだが、外的要因から発見される危険性もあるし、つれーもんだ。
今の俺は『概念売買』で『気配を0まで売ってある』ので、光学的にも物音的にも気づかれる事はない。
しかし、俺の起こす現象……つまり湿ったタイルを歩く事で飛ぶ水などには、気づかれてしまうのだ。
因みに俺の気配を今持っているのは部屋のタンスだ。
タンスと俺の両方の気配を持つ物体が俺の部屋に居るんだ。気持ち悪かろう。
何かの間違いで気配を買い戻す前にタンスが破壊されれば俺は一生透明人間だ。
……それも悪くはねーか?
……本題に入ろう。この異次元倉庫内にある水風呂。
俺の奴隷たちだけならまだしも、ジャゼウェル族の人達も混じって浸かっているのだ。見つかれば叩き出されるだろう。
無理に混浴にすると水着を着用したり、タオルを持ち込む愚か者が現れる。
なので、敢えて男女で分けた後にこうして侵入しているんだぜ。
賢いだろ。
余計な男を弾きつつ無粋な布の防御をも剥がす事ができるのだ。俺冴えてる。
冷えてしまった人用にサウナもあるぞ。
余すところなく褐色美乳な者と、日焼け跡がついた貧乳の者とが入り混じって雑談している。ハクラも縮こまってその輪に居る。
一応ジャゼウェル族は会議の末に、現状維持という結論に達したが族長は投票で決める事になった。力のあるものより人望や賢さのあるものが長になった方がいいに決まってるよな。
俺のように。
うむ、苦しゅうない。
うーん、しかしこうして集めてみると、みんな同じ白髪のように見えてもちょっとずつ色の差がある気がしてくるな。一番多いのは青系か?好みなのは赤系だ。
そこな赤っぽい白髪で褐色肌のお姉さんたち、胸を隠すのは無粋ではないのかね。もっと堂々としなさい。ほら、子供たちを見なさい。両手を広げて元気いっぱいでしょう。
……ガードが堅い。ダメだ。
子供たちの方も……まぁロリコンにとっては桃源郷だろう。
一角には褐色ロリハーレムが生まれている。あそこに飛び込んで死ぬのが本望な人も居るだろう。
だが、そうじゃない。断じてそうじゃねえんだ。
俺は巨乳も貧乳も長身も低身長もロリも、かわいけりゃなんでもいける。
だがいけるかどうかの判断はその辺じゃない。大事なのは……。
『俺の事が好きかどうか』だッ!あと見た目ッ!
最悪だろ?
ま、いかに女を囲ったとして、その視線が俺以外を向いていたらつまらないじゃねーか。
つまり、俺が近づくべきはこっちだ。
「はぁー、今回もいろいろありました」
「シルキーはいつも大変ですよね。情報能力を持ってるから大体いつもマスターに付きっきりですし」
「大へんもあるけど、ずっとますたぁのとなりにいられるというのは、うれしいですよぉ?」
「羨ましい限りです」
「えへへぇ」
いい。いいぞ。こういうのを求めていた。
シルキーもアリスも自然体だ。和んでいる。
いい!いいぞ!惜しげもなく晒されるその肉体美。ジャゼウェル族にも教えてやりたい。『こうだ!』と。
スレンダーな中に確かな主張。背中を反った時の、腰と胸のライン。素晴らしい。
「そ、それでどうなったんですか」
「わたしとますたーは、のうみつなじかんをすごした。たがいにもとめあいむさぼりあって、てんへとはてた」
「は、はぁー……大人の世界ですね」
「あのけいけんは、いっしょうわすれられないたからものになった。」
「そ、そうなんですか……」
ロズがフランにある事ない事吹き込まれている。
脚色しすぎだろ、俺はそこまでやってねぇ。
触りだけだ、触りだけに。
「最近マスターが構ってくれなくてさびしいよ……」
「あー……けれどいいダンジョンが見つかってしまえば出番もありますわよね、フィルは……」
「……トリアナは魔王でも発生しないとお仕事ないじゃんね……」
「ですわね、マスターに黙って封印されてる魔王でも探しに行ってしまおうかしら?」
「じゃあぼくはダンジョン探しに行こうかな」
おう、じゃ次は魔王が封印されてるダンジョンを三人で探しに行こうか。
何かしら発掘されれば収入にもなるしな。
こういったストレスを発散させるのも、主人たる者の務めだ。
後で話をまとめに行くか。
しかしこうして全裸の奴隷たちを見回すと、ロズの胸が最も大きい事に気が付く。
着やせするタイプなのか、ポイントアーマーのせいで押さえられているのか。
両手で収まりきらないほどのその甘そうな二つの果実は、輝き出さんばかりのハリとツヤだ。
枕にして眠りたい。
いやー、いい掘り出し物をしたもんだぜ。十分に拝んでおこう。
見た目で気に入って買おうと思ったところ、まさかシルキーから助言が入るとは思わなかった。素晴らしい先見の明があったもんだわ。
……ところでそういえば、さっきアリスから収支報告を受けた時、何か違和感を覚えた。
計算より少しだけ金貨の減りが激しいのだ。貯蓄が吹き飛ぶという程ではないが……。
「キュイキュイ」
風呂場に、光る精霊が飛び込んできた。
その場に居る全員の視線が空中に集まる。
一頻り飛び回ると、精霊はこちらに飛んできて……。
……あれ?そういえば俺、命じた『絶対防御』解いたっけ?
いくら買い切りとは言え、特殊命令は時間で金を使う。
俺が直接与えないと消費されないとずっと思っていたが、異次元倉庫からでも勝手に消費されるものなのか……?
相当権限が高いようだ。まぁ精霊は神の使いだしな……。
などと考えていると、周囲が暗くなる。なんだ?異次元なのに夜か?
「マスター?」
「どうした?」
あ。いっけね。声出しちった。
囲まれている。頭の上を光の精霊が飛び回っている。
『主人』からの『視線』攻撃を防御するか否かの判断に困ったわけか。
で、バレたと。
なるほどな~。また一つ賢くなった。
「シルキー、フラン、ちょっと押さえてくださいね~」
「りょうかい!です!」
「しかたない」
ふお!左右から暖かい体温が伝わってくる!
俺自身は見えないけど、気配もないけど、確かに存在するのだ。
左からはシルキーの低い体温。ひ弱で病弱で、けれど精一杯生きている生命の陽。命の灯を感じる。
柔らかでほんのり暖かで、ちょっとだけ冷たい。羽が。
右からは高い体温。『寒冷耐性』のお蔭で高くなってしまった体の熱が今は冷えた肌に心地いい。燃える情熱。主人に対する忠誠と愛。全力で求め、尽くし、燃え尽きる生命の花火。命の炎を感じる。
そして、当たっている。小さなプリンの中の確かな主張。
赤い実をつける、甘酸っぱさの象徴。若さの比喩。未経験であるという事。
それが、左右から。更には視界いっぱいに咲き乱れる薄ピンク色の花。
ここが、日本か。
「言い残すことはありますか?」
「一句できました」
「どうぞ」
異次元に
乱れ咲きたる
桜かな
吟じ終えると同時に4回ほど死に、俺の意識という薄桃色の花は華麗に、見事に、散っていった。
余談だが後の話によると床には真っ赤な彼岸花が咲いていたという―――
あとがき
次話は一、二章のあらすじ及び時系列順に並べたネタバラシとなります。
何かのお役に立てられれば。
そして、引き続き三章もお楽しみいただけたなら喜びの至りです。