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14. ドラゴンディゾルバー(時価)



「戦の神ジョ……あー……これ使ったら本末転倒だな」


 あぶねえあぶねえ、神名騙り(ゴッドインポスター)をまた使ったらもう一匹増えちまうかもしれねえ。

 出てきた歪みをまた神名騙りで倒して……じゃ無限ループだ。

 身分偽装(ディスガイズ)の範囲内で使える金銭術で倒さなきゃな。まぁそれはわかってる。こういうのも初めてじゃねえ。

 蛇に強そうな契約冒険者は……何人か居るな。

 んーと……、じゃあ剣で行くか。後ろにロズも居ることだし。


 ふと、腕に掻き抱いたフランカレドの事を思い出す。

 服着せてる暇なかったからそのまま連れて来ちまったけど……ぐっすり寝てっから大丈夫か……。

 空も晴らしたから寒くはねーだろ。


 さて。

 異次元倉庫(アザーディメンジョン)から剣を取り出す。

 空間から剣が生えてくるように見える。段々重みが増してきて持っていられなくなる。めちゃなげえんだよなこれ。

 全体が顕現した時切っ先は地面に埋まっていた。

 あー、こりゃ倉庫に砂入っちまったかな、あとで掃除しねえと。

 そう言いながらバックパックを倉庫に放り込んだ。ドズッという重たい音が聞こえてくる。

 バックパックの中身がなんだったかって?


 鉄の粉。重くて暑くて最高なんだこれが。




 『龍を解体するもの(ドラゴンディゾルバー)


 ドラゴンディゾルバーは一等級(トップグレード) 魔法武器(マジックアイテム)だ。さっきからルビばっかですまねえな。

 堅い鱗を破砕し、締まった肉を切り裂ける。打撃と斬撃を一挙に行え、刃渡りも嘘のように長い。爬虫系や魚系にも恐らく特効はある。

 説明ついでに記すと、等級は特等から始まり四等まであるんだぜ。

 スペシャル、トップ、ハイ、ミドル、ローグレード。昔は下三つしかなかったって話だ。


 つまり何を言いたいかっつーと、ドラゴンディゾルバーはかなり価値ある品だってことだ。ただの一人語りの自慢だ。


 んで、このまま俺が戦っても蹴散らされて命が一個減るだけだ。

 なので剣士の技術をパクって戦う。


「メサイア=メダエンジの名に於いて、我が生涯を賭けた技術の貸与を許可す!

 龍殺し(ドラゴンキラー)の名の元に、氏の剣技を借り受けん!」


 自演(チート)だ。


 身分偽装で貸し付けをし、身分偽装で借り受けをする。

 契約さえしてあって、契約相手さえ死んでなければ対象がこの場に居なくとも、どんな技術でも振るえる。

 名無しで振るえる技術もあるが、等級が下がる。当然だわな。

 因みにメサイア=メダエンジが封印されたブロマイドカードは手元にあるぜ。

 まぁこれだけ条件を揃えてもな、金は減るんだ。


 当然だ、金は俺にとっての魔力だし。

 今ので金貨10枚くらいか?


 二車線道路を遮る踏切の、遮断機のような長さの剣を軽く振りながらロズの方を見ると。

 あんぐり口を開けていた。まぁそうだろーな。


「そんな詠唱……あっていいの?」

「多分この世で俺しかできねーから大丈夫だ」


 フフンと自慢げに言ったところで、包丁(ディゾルバー)を構えて(ドラゴン)に向き直る。

 お料理の始まりだ。


 手持ちの金貨を上空にばらまく。俺の、ギリギリ歪みが出ない程度の最大威力、受け止めてみやがれ!


「我が身は上位に存在す、次元に過干渉せよ!『多重(マルチプル) 存在(イグジスタンス)!』」




---




「むやみに僕に干渉するのやめて」


 『存在』が小さくぼやいた。




---




 それは、マスターにとってはただ朝食を取り分けるが如くの作業に等しかったのかもしれない。

 私が手も足も出なかった龍は、数十から数百に分裂したマスターによって一瞬で輪切りになった。

 ウィンナーカッターでバラバラにされた腸詰めのように。


 シルキーごと切断してやしないかとひやひやしたが、剣豪の技術とレア職種の技術と金銭術のトリプルコンボにかかればそんな心配は杞憂にしかならない。

 ひゅるひゅると落下していくドラゴンディゾルバーというらしい武器が、地面に刺さ……らず異空間に消える。

 どうやらシルキーを助け出して両手が埋まってしまったお蔭で剣が持てなくなったみたいだ。


 一等級なのに扱いがぞんざいに過ぎる。

 ……と言うかこの人は片手に女の子を抱えたままあんな長剣で戦いを?

 本当に常識知らずだ。悪い意味でもいい意味でも。




 マスターが私のところへ戻ってきた。

 こんな最強クラスの実力を持っているなら……この人に付くのも悪くないか、いやむしろイージスに比べたら待遇も含めて最高なんじゃないか?


 しかし、二人の全裸少女を両手にそれぞれ抱えて空を飛びこちらへ来る様を見て、評価を完全に塗り替える事になった。

 シルキーの服がないのは、砂嵐でボロボロだったのに加えて胃液の染み込んだ布をいつまでも肌に纏わせておきたくなかったからだとあとで聞いたが……。


「最悪」

「ありがとう」


 その光景の感想が口をついて出た。マスターは照れ顔だ。

 褒めてない。


「さ、長のところに戻って最後の処理をしよう。経費も物凄く嵩んだし搾り取らなきゃ。足りなきゃ体で払ってもらう」


 私は奴隷商人全部がこんな感じなのか、特別マスターだけがこうなだけかはわからないが、底知れない恐怖を感じる。

 この人との関係を切るのはもはや不可能だが、少なくとももう他の奴隷商人とは関わらないで生きていきたいと思った。


「あ、その前に」

「……なんです?」

「鱗と牙を全部引っぺがして行こう。あと肉も少し。金貨300……320枚くらいにはなりそうだ」


 こ、この量を全部!?






 と思ったがマスターは少女二人を抱えたまま40秒くらいで全部剥がし終えた。

 ニンジンの皮をむくみたいにして。


 なんなのよ。

 もう驚き疲れた。


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