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13. 土砂降龍(金貨320枚)




 『歪み』が言った。


「もう無理だ。抑えられない」

「少しずつ吐き出せ。今君を消すわけにはいかない」


 『無』が言った。

 『存在』が続ける。


「顕現を手伝おう。どうせまたあいつだ」

「本当に僕を捻じ曲げるのが好きなやつだ」


 『運命』がぼやいた。




---




「来るよ!左前へだっしゅしてとんで!」

「地面が砂な上土砂降りでグズグズなのにどうやってダッシュするのよ!」


 がむしゃらに足を動かしてどうにか体を前に動かす、そしてジャンプ。

 地鳴りと轟音を立てさっきまで居た地面の下から目の無い竜が飛び出してきた。勢いのままに上空15メートルくらいまで伸び上がる。

 そしてそのま……


「右!」


 そのまま私の方へ食らいつこうとする。顔全部が口でできているみたいだ、と思う瞬間にはもう右へ飛んでいる。

 再び轟音を立てて地面の下へ潜っていった。

 シルキーの指示がなければ今の5秒で2回死んでいただろう。その事実に吐き気がしてくる。

 この人達は、こんな災害級の怪物と戦ってきたのだろうか。


 マスターもシルキーも、私のステージの遥か上で生きてきたのだ。

 剣の腕には自信があるだって?ちゃんちゃらおかしい。

 こんな巨大なものにとっては私の剣なんてつまようじに等しい。


雨の蚯蚓(れいにーさんどわーむ)がゆがんでできた子みたい!名前は土砂降龍(まっどれいんどらごん)でどうかな?」

「この状況で何言ってるの!?」


 避け続けているだけではじり貧だ、いつか失敗して飲み込まれてしまうだろう。

 しかしシルキーは余裕すら感じる……ように見える。対処する方法を知っているのかもしれない。


「私じゃ悔しいけど何の役にも立たないわ!貴女は何ができるの!?」

「ますたぁが来るまで、じょうほうを集めてたえる!の!」


 シルキーの細くて小さな腕に引かれてよろける。

 何するのよ!と言おうとした瞬間に、今まで居た地面の下から砂の塊が上空に吹き上がる。

 土砂降りに混じる砂の量が更に多くなり、吹きつける風で皮膚が痛い。部分鎧(ポイントアーマー)とマントではダメだ。


 シルキーはと言うと、薄手でフリル多めの服を着ていたせいでスケスケになり、肌に張り付いていたのだがそこに砂が纏わりついてなんとも気持ち悪そうだ。

 元から砂漠に来るような恰好ではなかったのもあるが、それに輪をかけて不向きな恰好となっている。


 巻き上げられたのはかなりの量の砂だった、地面の傾きが恐ろしいくらいだ。

 すり鉢状の流砂が生まれ、中央に向かって砂が移動する。

 何故か緩慢な動きをするシルキーを抱えて、急いで岩の上に乗るがその岩ごと流砂に流れていく。


 ふと気づいた。

 シルキーの羽が、露出した肌が、冷たい。半妖精は金貨15枚も持てないほどひ弱だ。

 普通の服を着せるだけでも重みで疲れてしまうらしい。

 そんな彼女に顔を向けるとなんとも難しい顔をしながら笑みを浮かべていた。


「ますたぁ、やっぱり……ちょっといそいでほしいです」


 ぽつりと呟かれたその言葉に、私の不安は一層煽られた。




 数分後、その不安は的中する。




---




 ここは……くらいな。

 でも、大じょうぶ。

 ますたぁなら、すぐに助けに来てくれる。


 わたしの右目には、じょうほうがいくらでもうつる。どんな対しょうものぞける。

 体力、血りょう、せいしんじょうたい、しょじ金、ま力。硬さ、切れ味、おいしさ、つよさ。

 それがすう字でわかる。


 昔ますたぁがこののう力に目ざめたとき。

 じょうほうの海におぼれて苦しそうにしていたから、うばってしまった。


 その時は、すごく、すごくおこられた。

 『うばってしまった』ことではなくて、『わたしが苦しむことになる』ことを。


 半妖精(はーふふぇありー)のじょうほうしょ理のう力のてき正はすごく高い。

 ますたぁが見切れなくて頭が回らないことを、わたしなら全て理かいできる。


 よかろうと思ってやったことをおこられたけど、すごくうれしかった。

 わたしのことを思ってくれたから。

 その上で……わたしを信用して、のう力をあずけてくれている……。


 だから、わたしはそのきたいに……こたえたい……。

 それ……だけ……。




---




「シルキィィイイイィ!!」


 私は叩きつけるような砂と雨の中、いつか裏切る予定『だった』仲間の名前を叫んだ。

 この役立たずを、なんで護ったりした。

 彼女の指示がないまま戦うならば、私も30秒も生きていられないだろうに。


 私をおとりにすれば、ちょっとの時間だが喰われずに済んだだろう。

 その間にマスターが来て助けてくれるかもしれない事を考えれば、攻撃されるのは後の方が生き残る確率は高い。


 だと言うのに、シルキーは私だけを、土砂降龍の外に突き飛ばしたのだ。

 いや、逆だ。自ら口の中へ、飛び込んだのだ。

 しばらくの間私へ攻撃が行かぬように。


「何故、何故だ!!」


 土砂降龍は、頭を中心にして蜷局を巻き、地上に体全体を露出させている。

 温度が低いせいで消化の活動に向かないからか、地下に戻る様子はない。

 私は遂に剣を抜き放った。震える腕で、銘の無いただの鋼の剣を。


「うああぁぁああああ!!」


 雄叫びを上げながら最外周の胴体へ斬りつける。一撃で剣の半分が折れてしまった。

 それでも攻撃をやめない。がむしゃらになって一方的な剣戟を続けた。しかし。


 ピクリともしない。

 こちらに気をやりすらしない。

 鱗一枚傷つける事すらできない。

 それでも、それでも諦める事はできなかった。


「どうして、どうして私は無力なんだ!没落した時だって助けられるだけで!何もできない!」


 自信のあった剣すら、何もできなかった。

 膝を付いて柄しか残っていない剣を取り落す。


「私は……」











「そう落ち込むなっつの、原石が磨かれずに市場に出たところで価値なんかつくかよ」


 バッと振り向く。雨が上がっている。

 なんで!?あんなに土砂降っていたのに。


 龍は、様子が変だという事に気づいたのか、微動を始める。

 頭だけこちらから距離を取って、向き直る。胴体を移動するには時間がかかるだろう。


 マスターは、すやすやと幸せそうに眠る白黒コントラスト肌の、服を着ていない女児を抱えていた。

 その姿は奴隷商人として余りに自然だった。


「マスター!シルキーがあいつの腹の中に……」

「リンクしたから知ってる。まだ生きてる。大丈夫だ。頑張ったな」


 頭をぽんぽんと軽く叩かれる。『安心して見ていればいい』と、そう言われた気がした。

 へたっと腰が抜ける。まだ終わっていないのに、もう立てない。

 でも、マスターがさっき言った通り、見ていれば終わるのだろう。


 しかしそんなマスターは妙な事を言いだした。


「ウインナーカッターって知ってるか?」

「へ?」



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