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127. 好転

「おう、トリアナ。直接会うのは……久々になるのか?」

「ティナ……どうして?」

「さあ? マスターが来たら聞いてみたらいい」


 ティナが来た。

 トリアナと二人が並んでいる光景をボクは、生きてるうちに拝めるとは思わなかったよ。


 ボクはそれを見て、ここに来てよかったと少しだけ思った。


「んんー? あそこのうぞうぞした人型はなんだ? 穢れすぎて本体が視えやしねえ」

「それが敵ですわ。トワという名の『全て』の概念」

「うぇ、またそういうやつか」


 ティナは左手でカリカリと頬を掻いた。

 右手部分は、肘辺りから存在ごと失われている。


 トリアナがそれに気づいて声を上げた。


「ティナ、その右手は……」

「あ? あー……そうだな……じゃあ、猫に食われた(・・・・・・)……とか?」

「ええ?」


 マスターみたいなブラックジョークを飛ばしたティナは、トリアナとの話もそこそこに空を見上げる。

 視線の先にはトワ。

 ボクから見る彼はとても憎々しげな顔をしているように見えたが、ティナからはどう見えているのか。


是正者(レクティフィアー)……」

「そういうお前は、概念使われ(サーヴァント)


 途端にトワから発せられる怒気で、大気が震える。

 あ、……煽ってる。


 あんな小さくて、ボクらの中でも一番若い子が……怖いもの知らずにも程があるよ!


「猫道っつー概念使い(コンセプティスト)が居てよぉ、戦って危うく死ぬところだったんだが、そこで閃いたんだ、あたしでもこの力が通じる相手なら負けねえってな」

「歪みと穢れにしか通じない……はずでは?」


 ティナはぶんぶんと首を振って否定する。

 こういうところは子供っぽいですね。


「『全て』には歪みや穢れも含まれているぜ」

「あっ!」


 ボクは声を上げたが、アリスやシルキーは毅然とした表情を崩さない。

 トワはと言うと……よくわからない。表情は見えない。


 ……え? ティナが決め手になるかと思ったのに……。


「僕を消そうって言うの? それはバカだよ。僕を消したらここを含めて全世界全人類が消滅するよ」

「全てってそういう事かよ、ズルいぜ……」


 犬歯を剥き出して敵意を露わにしながらぼやくティナ。

 怒っていたはずのトワは、逆に嘲笑うような態度へ変わった。


「ククク、やっぱり何もできないじゃないか」

「運命の指針が見れるんだっけか。どうしてそんなに畏れる必要があるんだ? お前も一人じゃ何もできねえじゃんよ」


 ティナが煽る煽る……怖くて見てられない。

 何故? 世界を消せる上にこっちから攻撃もできない相手を怒らせる意味なんて……。


「はぁ? 僕はずっと一人だ。味方だった人などいない。一人でここまでやってきたんだ! それを……」

「寂しい奴だな、あたしが慰めてやるよ。ママのおっぱいが要りまちゅかー?」


 ない胸を突き出してセクシーポーズをする。

 ティナ、やりすぎだ!


「お、お、……クソ、お前だけは先に殺す!」


 上る血も血の上る頭もないトワが逆上して、光より速く思える速度でティナへと接近した。

 トワには槍だってさっきの虹色の輝きだって、攻撃手段はいくらでもあるのにわざわざ接近攻撃を選んだ。

 これが狙い!?


歪みの是正(レクティフィケーション)!」

「! ……ちっ!」


 ティナの左手が光を放つ。

 神々しい、聖なるとも言える是正の光。


 必要なのは、距離だけだった。


 煽って煽って怒らせて、物理攻撃に訴え掛けるように誘導したんだ。

 トワは、体を覆い顔を隠していた歪みの一部を引っぺがされた。

 全身の歪みが消えたわけじゃなくて一部分だけだけど、髪色はハッキリとわかるようになった。金色だ。


口喧嘩(・・・)は、魔王ともした事がある! 得意分野だ!」

「くそ、くそ! ……クソが!」


 トワは汚い言葉を吐き散らしながら光の槍が短くなったような、細かい光弾を無差別に放つ。


「ト、トリアナ! 盾を!」


 概念の攻撃を防げるのはトリアナしか居ない。竜巻のような防護壁を出してもらって、全員一箇所に固まった。


「ティナ、なんであんな無茶を……」

「一矢報いられただろ?」


 得意げな顔をされた。

 ……納得いかないけど……まぁここからだ。

 次々に飛来する光弾は風の壁に遮られて、後ろに流され扉へと次々にぶつかる。

 扉は無傷のようだけど……あれ一つ一つが別世界に繋がってるんだよね? なんか怖いな……。


「そろそろ次が着く、歪みの子じゃなきゃ転送は早く済むって言ってたからフェイト以外はすぐ来るだろ」

「着く、……って、誰がどう送ってるんですか?」


 アリスがティナに聞く。

 そう、ボクも知りたかった。


「マスターが拒絶追放(リジェクト)で送ってるんだよ。アリスの技術(スキル)だろ?」

「え、ええ!?」


 アリスは一回つかうだけでへとへとになるっていうのに、マスターは何回使ってるんだ?

 やっぱりすごいや、マスターは。


 ふと、霧状に粒子が集まって、竜巻の盾の内側に人の形が二つ形成される。

 来たのは……、ロズとフラン。


「……戦況は?」

「ロズですか。……そうですね、トリアナのみ攻撃を防げる。ティナが敵に若干のダメージを与えた。殺すことはできず、敗北は全世界の消滅……と言ったところですか」


 アリスが端的に答えた。

 ロズは、もう一人の小さな人型に声をかける。


「師匠、どう思われますか?」


 人型は少しずつ形を成して、その柔らかな白髪が質量を持つと同時に返答した。


「やまいにおかされ、ただしをまつよりいいじょうきょうにおもう。ぜつぼうにはまだまだはやい」


 幼い口調から心強い言葉。

 フランは両方の腰から地面を引きずるほど長い刀を二本とも抜き放ち、自然体に構えた。


「私も、師匠には及ばずながら手を貸します。みんな、生きて帰りましょう」


 戦う準備ができた。

 光弾は止んでいる。

 風の盾を解除して、攻勢をかけるならば今だ。


 殺すことはできない。世界が終わってしまうから。

 だから、時間を稼いでマスターの到着を待つか、……誰かが隠し技を持ってるのに期待するしかないかな?


「解除します。皆さん、気を引き締めて!」

「おー!」


 新たな人型が現れる、それを待たずに風の盾は掻き消えた。

 全員が駆け出す。

 トワへ、また、辿り着けぬかもしれない明日へ、向かって。

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