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111. 罰

 完全発揮……なんとなくわかってたけど習得は不可能っすね……。

 圧倒的に時間が足りないっす。


 基本的に旅人は、無駄にでかい器に無駄に長い寿命を生かして、時間かけて技能を詰め込んでいくものなんで一週間や二週間の付け焼刃じゃなんにもなんねえっすね。

 戦士の才能も足りないし。

 ロズなんかは似た技能をあっという間に習得したらしいっすけど……あれはオリジナルらしいっしょ。


 これが才能と適性の差っすかね。まぁしょうがないっす。


 ……ただ、この縮地ってのは便利っしょ

 おぼえていなかったのか、っすか?

 いや長年生きてきたっすけど初めて見たっすよこんな技能。


 体力魔力の消費なしで、短距離の瞬間移動を可能にする技術、それが縮地。

 コスパおかしくないっすか。


 この、世界と整合性が取れない技術を……器が歪んでいないうちやロズが使えると言うのはおかしいっすね。結果の大小に差異はあれど。

 ……若干なりとも歪みが出てるかもしれないっすね。


 うちが縮地を使えば、三メートル程度の距離を行って戻れるみたいっす。

 旅人の能力を使わずに瞬間移動ができるのは戦闘の時に役立ちそうっしょ。


 お、船が到着したようっす。

 降りたら馬車っすよ、通信が行ってりゃーの話っすけどね。


 ……縮地の対価に? 話の続きっすか?


 いやー、馬車は揺れるっすよ、舌噛み切りたくないっす。

 んん? 一週間くらい前馬車ん中で喋ってたじゃんって?


 ……バレたっす。


 えーと、是正者の戦争の話っすね。

 ちっとその前に、能力が暴走した話をするっす。

 時系列的にもそっちが先っしょ。




---




 呼吸と同じように、座標の指定と言う行動は取れるらしい。

 そしてそれは、行った事のない場所、見た事のない場所の座標も取れる。


 人が何も教わらずとも呼吸ができるように、歩けるように、ご飯を食べられるように、眠れるように、それらと同じように職業の能力と技能は使う事ができる。


 じゃあうちも、瞬間移動とやらは使う事ができるはずっす。


 どこへ行くか。

 まぁ、適当にやってみるっすか。


 と、思ってやったのが正解だったやら間違っていたやら。


 当時、うちは座標の指定をしなかったんすよ。

 なんの気まぐれか。幸運か? わからなかっただけかもしれないっすけど。


 気づいたら『扉の世界』に居たっす。

 マスターがよく話すっしょ? あの世界っすよ。

 そんでさ。


『ようこそ、招かれし客人よ』


 そう言ったのは、……なんかよくわからない人型だったっす。

 曖昧な、気体とも固体ともつかない微妙な物質で構成された人間。

 そんな感じっすね。


「ここどこっすか」


 臆せずに言ったつもりだったんすけど、ちょっと声に出てたかもしれねえっす。

 ……なんつーか、怖いって言うか不思議って感情の方が強かったっすけどね。


『ここはどこでもない場所。君が移動した世界とこことを結ぶ力を君は持っている』

『全てを知って、知った上でよりよい世界を作る為に、自由に行動してほしい』


 そんな事を言われて、すぐああはいそうっすねって言える人、うちは見た事ねえっす。


「無茶苦茶言うっすね。それをしたら元の世界に帰れるんすか?」


 まぁ無理だろうけど、とりあえず聞いてみたっす。

 返ってきたのは慈悲も何もない言葉。


『君はもう帰れない』

『帰すわけにはいかない、かな。君はあの世界をよりよく改変する為に輸入しただけのものだ。ほとんど完結してしまったあの世界へ帰したところで僕らにとっての利点は何もない』


 不気味過ぎるっす。

 掌の上で扱われているというより、何をしたところで何にもならない事が、はっきりとわかってしまったんす。

 こういう時の旅人はスポンジみたいなもんで、大体なんでも悟れちまうんすよ。


 ……スポンジがわかんねえ? ……この世界にスポンジないんすか?

 そっか、フランはマスターに助けられるまで砂漠の民だったっすもんね。

 水っぽいものなら大体なんでも吸う、吸収力に優れたふわふわの素材の板を言うんすよ。


 ……え? ……まぁ砂でもいいっすよ……。


「……帰れないのはなんとなくわかってたっすけど。君らは何がしたいんすか。うちをよくわかんねー世界に連れてきて、能力だのなんだのって。目的が知りたいっす」


 それを言うと、そいつらは捲し立てるようにしてこんな事を言ったっす。


『目的かい? ……例えばさ、君は何もない部屋に閉じ込められるんだ』

『何もないっていうのは嘘。部屋にはとんでもない数の水槽や虫かごがある』

『それを管理する為のものはなんでもある』

『さあ、好きな事をしろ』

『どうする?』


 その例は確かに理解しやすかった。

 同時に、なんか可哀想だなって思ったっす。

 その時はっすね。


『別に不憫に思われることなどない』

『僕らは好きでやってる事だし』

『元はと言えば僕らはみんな(・・・)どこかの世界の人だった』

『君の今居る世界出身の概念も居るよ。そう、例えばそこの、運命とかね』


 多分指かなんかで指されたその先に居たのは、他の連中と同じような人の形。

 ただ……なんてーか。


『……』

「……?」


 雰囲気が違うって言うか、……よくわかんなかったっす。

 そう、そいつ一人だけまるで……顔見知りみたいな。

 『人っぽい感じ』を受けたんす。

 あれは一体なんだったのか……。


 そいつらは、聞いてもないのに情報をどんどん与えてきたっす。

 うちがこの世界に影響を与えるならなんでもいいって事なんすね。

 知識は行動源っすから。


『これからあの世界では戦争が始まるだろう。神々は恐らく滅んで、我々も何人か無に帰すはずだよ』

『運命の指針によれば、罪や罰が消えると出ている』

『それは残念だが、今回のあの世界は見所がある。是正者は次も居る(・・・・)だろうし、楽しみな展開になりそうだ』

「……君ら、仲間が死ぬってーのに楽しそうなんすね」


 その問いには、さも当然だろうと言うように、声色だけ楽しげな返答をされた。


『籠の中のペットが全く動かなかったら、面白くないだろう』

『退屈は神をも殺すって言うけど、神はもっと簡単に死ぬ。僕らこそが退屈で死ぬんだ』


 神って死ぬんすね。

 ……さっき神は滅ぶって言ってたっすけど……。


「リオンも死ぬんすか?」

『この先二年以内に、多分死ぬ』

『今のうちに世界を廻った方がいい。君はここに来れたんだからどこにでも行けるはずだ』

「いや、リオンを助ける方法を知りたいっす」


 それは本心だった。命の恩人だからだと言うのもあるけれど。

 誰も居ない世界で初めて会えた人だから。

 ほっとした、安心した、この世界の心の拠り所になったから。

 生き残ってほしかった。


『ない』

『不可能だ』

「嫌っす!」

『……旅人はもう一人居る。お前は運命を変える為に足掻けばいい。だがどちらにせよ世界は回らねばならない。それが、お前が物事を成す為の大前提だから」


 能力も知識も時間もなくして、何もできるわけがないんす。

 んなこたーわかってたんすけどね。


「ここで君らを皆殺しにしたら、世界って終わるんすか?」

『終わりはしないだろうけど、誰が観測するんだい』

『世界に意味がなくなるよ』

『血気盛んなのはいいけどね。まずは身の程を弁えた方がいい』


 うちは、杖を構えた。

 そして、詠唱をした。


 少しだけ教わっていた炎の呪文を。

 何もかも勝手に決められていて、しかも自分たちは見てるだけなんて、理不尽だしムカついたっす。


「自然の大火よ、その姿をこの世に現し力を振るえ! 炎嵐(ファイアストーム)!」

『君に精霊魔法は使えない』


 杖から放たれようとしていた炎は、蝋燭の先に灯るような揺れる明かりに変わって薄れている。

 リオンは、精霊魔法によって起きる結果にブレはないと言っていたが……これは成功しているにも関わらず結果がおかしい。

 前も、成功したはいいが何故か現象がついてこなかった。

 その理由は。


『君は、過去、現在、未来に於いて精霊魔法が使えないと定義された。今と言う時間に近いほど、この定義は強固となる。これは罰だ(・・)

『君の心はわかった。でも、先に世界へ行け』

『餌が入っているのに、それに手を付けず暴れる鳥籠の中の鳥のようだ。」

『聞きたい事があればまた来ればいい』


 片っ端からパッシングされた上に、余計なペナルティを背負っちまったんすよね。

 リオンに魔法を教わった時使えなかったのは、まさか未来に原因があるなんて思ってもみなかったっす。


 更に、そこから離れようと思う気持ちが能力に乗って、世界へ向かって暴走を始めたんす。

 洋上を駆けて、北東大陸を渡り、空から西大陸へ落ちて……。


 着いたのは確か、小さな村だったっす。







次回更新は7/6(水)の朝か夜です。

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