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105. デリカシー(銀貨81枚)

「……どこだここは」

「お、やっと起きたっすね」


 日差しと潮風が吹き込む船室。

 フランカレドは横になっていたベッドからガバッと起き上がるが、全身に痛みが走った様子。

 彼女にしては珍しく顔を顰めて体を丸め堪える。


「あ、いっ」

「全身火傷っすよ。うちが助けなきゃ死んでたっしょ。感謝して欲しいっす」


 痛みが落ち着くのを待つ為、なんとなく船室を見回す。

 さっきから飽きるほど見ているが他にすることもなし。


 なんつーか味気も素っ気もない、ベッドが二つとクローゼットが一つの狭い部屋。

 壁には申し訳程度の救命道具と錨のような飾りがある。


「……なんでシラセが、いや、この……ふねか? どこへむかっている」

「まぁ、西大陸っす。マスターの為にしなきゃならない事があるんで、勝手ながらに手を借りようと思ってるんすけど……別にいいっしょ?」


 恩人っすよ? なんて、言うつもりもないっすけど手を貸して貰えないと困るっす。うち一人じゃどうしようもない。


「……それはかまわないが、なにをするつもりかききたい」

「お、話が早いっすね。……うちらでマスターの障害を先に片づけようと思ってるんす。あのメンバー全員で行ったら弱点を背負ったまま戦う事になるっしょ。ギャランクだって馬車を狙ったっす」


 まぁうちらに弱点がないっつったら嘘になるんすけどね。

 うちは単純に超実力がある人には勝てない。マスターとかフランとかギャランクとか。あとは弱みっすか。フェイトはマスターんとこに居るしまぁ平気っしょ。

 フランは……精神性っすかね。戦闘面では右に出る者は居ないはずっす。


「……なるほど。マスターにれんらくは?」

「したっすよ。旅人に距離は関係ないっすからね」


 流石にあんな気まずい部屋に突撃する事になるとは思わなかったっすけど。

 我が子フェイトが義子のマスターとそんな……。


 腹違いの兄妹だから親等的にはセーフなんすけどなんか。

 立場的には止めるべきだったんすかね。


「ならばもんだいない。そのしょうがいとやらをとりのぞきにゆこう」

「かたじけないっす」


 船はあと6日間で到着する。

 それまでに傷を癒して、フランにうちの持ってるスキルを詰め込めるだけ詰め込む。

 時間が足りなきゃガルアに着くまでの馬車の中で話せば口伝でも習得できるっしょ。


「そうだな、いちわりでもききかじればしゅうとくできる」

「うちには完全発揮を教えてほしいっすね」

「たびびとのうつわならばしゅうとくはかのうだろうが……まずかんぜんとはなにかというところからはいらねばなるまいな。すこしじかんをもらってもいいだろうか」


 ……ただ船に揺られるだけよりはマシっすけど、この話超長くなりそうっす。

 寝ない自信がないっすね。


「なあに、つきがのぼってしずむまでにははなしおわろう」

「冗談きついっすよ!!!!!」




---




「あー、えー、お邪魔するっす」

「シ、シラセ」

「お、おかーさん」


 何用ですかお母さま、僕は今大人の階段を昇っているところです。

 いや嘘です。


 実際問題登りきって久しいんだがこんな経験何年ぶりだろうか。

 母親が部屋を勝手に掃除して、隠していたエロ本を机の上に並べられる感覚に似ている。


 さっきまで鬱々した態度で息を押し殺しながら声を上げていたフェイトが、別人のように顔を真っ赤にしている。演技だったのかよ畜生。

 いやでもこれはこれで。


「アリスたちはカントカンドへ戻ってくるっす。合流してあげるといいっすよ。うちとフランだけちょっと先にガルアまで行くつもりっす」

「いいけどなんでフラン?」


 と言いつつフェイトに目を向けると、布団をもぞもぞと引っ張って顔と一緒に全身を隠そうとしている。

 その布団を丸ごと異次元倉庫に突っ込んだ。


 トマトみたいに真っ赤になったフェイトと目線が会った。


「ばか! ばかばか! おかーさんの前でこんな! もうばか!」

「さっきまで演技までしてノリノリだったじゃな……痛い!」


 シラセはと言うと、視線を泳がせながら言葉を探している様子だ。

 フェイトのついでにちょっとからかってやるか。


「お前も混ざってく?」

「あー、アリスには許可貰ってるんすけどね。今日のとこは遠慮しとくっす」


 許可ってなんだ。いつ許可出したんだ。

 アリスも意外とやる事やるのか。


「伝える事は伝えたんで先行ってるっすよ、3週間くらいかけてゆっくり来てほしいっす」

「行くとなったら1時間もありゃ着くぞ」

「……ずるいっすよねそれ。ほんじゃ、二人とも仲良くするっすよ。……一応兄妹なんすから」


 それだけ言うと、ふっとどこかへ消えてしまった。


「兄妹だってさ。今や道を違えてるし前までのおめーと違うし、何よりこんな事してんのにな。パックに躁は立ててねーのかよ」

「……パックの指示だし」


 未だに真っ赤な顔をして、上目使いでこちらを見てくる。

 そそるな。

 にやにや釣り上がった頬を自覚しながらフェイトに覆いかぶさる。


「って、ちょっ、このまま続ける気?」

「そのつもりだが?」

「最悪! サイテー! デリカシーない! だから失敗するんだよ!」


 デリカシーってなんだよ、どいつもこいつもよくわからねーもん求めやがって。

 デリカシーあったらモテるのかよ。買えるなら買いてーよ。






 買えた。

 ……理解できない概念だった。


 すぐ売った。




---




「……だからして、ていぎよりかんぺきであるということはかんぜんであるということでもありつつ……」


 ホントに夜までかかるとは思わなかったっす。

 火傷の具合も悪くなさそうっしょ。スッゲー勢いで治っていくっすね。


「シラセ、きがちっているぞ」

「……この話、ホントにパーフェクションに繋がってるんすか?」


 疑わしいっす。

 このペースで行くと一から十まで全部解説するつもりみたいっしょ。


「ぶをおしえるもせんしのつとめ。わたしのしじにしたがえばふかのうということはない」

「もっと楽して覚えたいっすよー……」

「つべこべいうな! いまはわたしがししょうだ」


 あ、これ、ロゼッタで味をしめたやつっすね。


「べつにしめてなどいない」


 このコンビはちょっと、先が思いやられるっすね……。




---




「結局、戻ってきてしまいましたね」

「マスターが居れば船を使う必要ないですし」


 カントカンドの商館に集う一行。

 シラセとフランが離脱して、シルキーはリタの背中で死んだように眠っている。

 リタは疲れた顔であやすようにおぶっていた。


 イレブンはメイドの仕事に戻ると、いそいそアジト行きの扉に入っていった。


 私、ロズ、トリアナ、カシューは、フィルが戻ってくるのを待っている。昔からちょくちょく居なくなるのだ。


「街にはね、神が眠ってるんだ」


 優しげな声で語りながら、入り口から館内に入ってきたのはまさにその噂の人。


「フィル、戻りましたか」

「うん。カントの神様に報告してきた。今回も無事でいられました、ありがとうってね」

「神様ですか。フィルの言う昔の友人?」


 フィルは、およそ2035年前から生きているらしい。

 その頃には神が生きていた、とか。


『久しいな。その名を聞くのはいつぶりか』

「リタ?」


 リタはきょとんとしている。

 今の声は、リタの方から聞こえた気がしましたが。


「……神獣さま?」


 自分の掌の肉球を見る。特に何も変わった様子はないようですが。


「……思い出した、や、これは神獣さまの記憶?」

「どしたのリタ。ちょっと興味あるからあとで話してほしいな」

「うん、いいけどとりあえず、マスターに会いたいや」


 それはみんなそうでしょうね。


 ぞろぞろと扉をくぐり、数日ぶりの城に戻ってきました。

 3階に来ると、マスターの寝室から人の気配がします。


 なにやら争っている様子。

 一大事でしょうか。

 急いで入らねば。


「マスター、ただいま戻りま……し」

「ばか! 近寄らないで! 不潔!」

「このままじゃ収まりがつかねえよ! 最初に誘ったのはお前だろうが!」


 枕や家具を投げて逃げ回る、……あの髪色はマスターの妹のフェイトですね。それと、マスター本人。


 二人とも一糸纏わぬ姿で向かい合い追いかけ合いしていた。


「マスター?」

「げっ、アリス」


 げってなんですか。


「判決死刑でいいか?」


 リタが呟いて、全員が大きくうなづきます。

 フェイトすらもこくこく首を縦に振っています。


「待て、俺は悪くねえ。話せばわかる」

「聞く耳持たねえ! 10ぺんくらい死んどけ!」

「待って、命残り6個しかないから」


 じゃあ5回は死ねますね。










8章はここで終わりです。

明日から9章に入っていきますが、3本上げたら毎日更新は終了して週2ペースになります。


エンディングまであと30話程度かと思われますがどうか最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。


また、7/1朝7時から時系列順に進行するリライト版最悪の奴隷商人を1章ずつ隔週で新規連載するのでそちらの方も宜しくお願いします。

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