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103. 世界と概念

 『死』


 それは、全ての終わりを指す。

 『自分』という細胞の集合体、それが生命活動を停止する事で起こる現象。

 脳の細胞が全滅してしまえばそれは本質的な死となる。


 フランカレドは、彼女自身の能力で全身の細胞が焼け焦げ、脳は現実に沸騰して脳細胞は全滅した。

 これは、彼女自身の本質的な死である。


 先程まで死んでいたフランカレドは考えた。


『いちどしんでしまったわたしは、いぜんのわたしとおなじものなのだろうか』


 と。


 今生きているフランカレドは考える。


 さっきまで体を動かしていたのは、ギャランクの能力。

 意識は途切れていた。


『あやつられるいぜんのわたしとそのごのわたしでは、ちがいがあるのだろうか』


 と。


 彼女が考えているのは、自我の連続性についての問題。

 もしかしたら、ソリテスに負けた自分はそのまま死んでいて、今生きている自分は『これまでの記憶を持った別人』なのではないか。


 マスターとのオビーディエンスは切れていない。

 だが、だからと言ってそれが彼女の不安をかき消す事はなかった。


『いぜんとおなじからだ、いぜんとおなじきおく、いぜんとおなじけいやく』


 だと言うのに、フランカレドの自己同一性(アイデンティティ)は満たされない。

 魂が変わっていないのだから、別人はありえないと言うのに。


 彼女は不安に思いながらも、生に縋って戦うことしか残されていない。

 フランの往く道は一度、途切れてしまったのだ。




---




 禁忌の子は繰り返す。

 生と史と、性と死を。


 それを自覚できる人間はもはや誰一人居ない。

 それを知覚できる人間は『君』ただ一人。


 幾度となく繰り返される世界の中で、彼らは器に染みついた記憶を元に知能を進化させていった。

 それと同時に、魂は劣化の一途を辿る。

 劣化した魂は擦り切れて、消滅していく。


 それを恐れる者が、神や概念に戦いを挑む。

 敗北したならば『終わりの世界』へ飛ばされる。

 概念になろうとしたものも同様だ。


 穢れた魂を持って生まれてしまう運命を持つ者を、ループによって魂の消滅に追い込む。

 魂の死は、存在の死。世界から虚無への移行。

 『無』に飲み込まれるのだ。

 それが、『原初』の制定した世界の自浄作用の法則。


 マスターが元居た世界は、その法則によって人間以外の全ての存在が滅びた末期の世界だった。

 生き残った魂を一周に数十ずつ救済して、誤魔化し誤魔化し世界の形を保っている。


 マスターはそんな中、救済に選ばれたと言うのに運命を逆向きに動かしてしまった。

 彼に影響を受ける存在、彼から生まれる存在、彼が作る未来。

 それが全て消滅してしまったのだ。

 マスターを経由して概念が世界に与えた『歪み』は、計り知れないものだった。


 その埋め合わせをする為に、マスターの魂は他の世界へ飛ばされ、なんとかバランスを保って事なきを得た。


 飛んだ先のその世界。

 浄化作業は正に完了しようとしていたところだった。


 旅人も一人しか現れず、ループを知覚できる存在はフェイト一人。

 そのフェイトも、一つ前のループで概念化した。


 マスターは一週のみ、埋め合わせの為禁忌の子『マスター=サージェント』として生まれた。

 ループはしない。穢れた魂を持っているわけではないから。


 勿論、前の週にもマスターは居た。


 しかし、フェイトの概念化で魂が擦り切れてしまった。

 つまり今回の週に、マスターは生まれてこない予定だったのだ。


 『運命』に能力の大半を持たせつつも、フェイトの魂は擦り切れなかった。

 旅人の血の能力は運命に取られ、記憶を引き継げなくなったからだ。

 あんなに愛したマスターが生まれてこない世界に転生すると知ったら、マスターと一緒に擦り切れて然るべきだっただろうに。


 更に、この週にパック=ニゴラスが生まれたのは偶然だった。

 ループしていないと言うのに、大半の力を失ったフェイトと『君』から世界の真実に迫ったんだ。


 『原初』の制定した自浄作用を超える法則を制定し、魂の救済をする。


 マスターとパックの勝利条件は、そういう事だ。

 わかったかい?


『最初から来ればよかったのに。僕がここに居るのはその為なんだから』

「……やれやれっすね」




---




 暗闇の中で『悠久』との会話を思い出す。

 うちがこの世界に来たのは2030年前。


 前回のループに『シラセ』はもちろんいなかった。

 フェイトを産むことになる別の旅人は居たかもしれないっすけど。


 この世界に来た時は、混乱しかなかった。

 落ち着いてきた頃、無限の寿命を持てあまして色々調べて回ったっす。


 この世界の法則だの原理だの成り立ちだの。

 ついでに、元の世界への帰り方。


 まぁ、無いらしいって事しかわかんなかったっすけどね。


 この先、マスターとパックのどちらが概念に挑戦する権利を得るかはわからないけど、どちらが概念になったところで違いは殆どない。


 だから、うちはマスターを応援してるっす。


 うちの愛した唯一の人、ジョニーの子だし。

 うちとジョニーの子のフェイトも、マスターの事好きだし。


 ウラリスでマスターがパックにしてやられた時、終わったと思ってたっす。


 けど、うちにはどうする事もできなかった。

 パックとフェイトに介入するって事は、そこから先の舵取りができなくなるって事っすからね。


 マスターとフェイトが記憶取られたまんまパックを倒したりすれば、概念になりうる者は居なくなる。そうなったら禁忌の子たちやマスターは死に損っす。

 概念達に恨み事を吐いて死んでいった神々にも申し訳が立たないっす。


 フェイトを取られたマスターに付くわけにもいかず、かと言ってパックに完全に付くわけにもいかず、どっちつかずの時期は大変だったっしょ。

 だから必死に堪えながら両方の手伝いして、金だけは溜めておいたんす。


 ……この世界で最後にものを言うのは金っすからね。


 さ、そろそろ起きれるっしょ。

 フランもギャランクもちょっと強すぎっす。

 流石のうちも勝てねえっすよ。


 そりゃま置いといて、さっきちょっとだけ死に触れたフランが心配っすね。

 禁忌の子は、生死に触れるとそっちに吸い寄せられちゃうっすから。

 とりあえずあとで話してみよう。

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