詐欺的後継過去翻弄系超絶最強派遣社員!
一日一筆複数連題です!
お題「ギリギリの作戦」「超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松~NEXT GENERATION~」
「絶対実現自己中心的超絶少年少女達!」の続編です。これ読まなくてもまぁまぁ楽しめますが読んだ方が楽しめます。前言撤回。読んでくださいこっちを先に。
超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松は伝説の五人組。
リーダーの星明星を始め、個性的なメンバーで構成された英雄達。
彼らが伝説であり英雄と呼ばれる理由はただ一つ。
二十五年前、突如世界に現れた怪物『悪意』を数ヶ月という短い期間で掃討してしまったからだ。
世界中は彼らに最大級の賛辞と感謝を贈り続けた。しかし明星の言葉はそんな贈り物を退けるものだった。
「俺らは願いを叶えるために『悪意』を抹殺してきた。実は今までの行動、一つたりとも慈善事業じゃない」
しかし声は止まなかった。
「結果的に人類のためになったとしても、俺らは結局自分のためにこれまで戦ってきたってわけだ」
しかし声は止まなかった。
「だから俺らに贈られるであろう賞は全て、受け取ることが出来ねぇ」
しかし声は止まなかった。
「それに俺らはもう身を潜める」
声はピタリと止んだ。
「敵の居ない世界に、英雄は要らないだろ?自分で英雄とか言っちゃったよ恥ずかしい」
まるで彼ら自身が声だったかのように、跡形も無く五人は消えた。
×××
そして二十五年後の現代。事態は急変している。
二十五年前に物心ついていた人間は皆、あの時と同じ景色を見ることになった。
『悪意』の再来。
人類に再び危機が訪れる・・・筈だった。
「今こそ超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松、復活の時」
かつて五人の少年少女を集め、半ば無理矢理使命を押し付け世界を救わせたきぐるみ(犬)は二代目超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松を発足していた。
発足とは言っても、一人だが。
「なかなか、いいんじゃない?」
犬が選んだ人間は酒巻輝夫四十二歳。冴えない派遣社員で初代の活躍を青春時代と共に過ごした男。
「いい、のか?歩いてるだけで業務上過失致死を訴えられそうな見た目だが・・・」
犬が輝夫を選んだ理由は、可能性。かつて明星達にも秘められていた可能性と同種のものが、輝夫の胸の内には燃え盛っていた。年を重ねようと少年時代を忘れない・・・てアホか。(by犬)
輝夫は超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松として申し分のない格好(つまりは相当奇妙且つ人間として失ってはいけないものも失っている格好)をしていた。
両腕は血管が浮き出るほど筋肉がつき、あるはずの布をブチ破いた形跡が見られる。服の色は主にピンク(犬が言うにこの色はエゴイスティックピンク)で、胸の中心には青い宝石が埋め込まれている。下半身の服は主に黄色(犬が言うにこの色はサディスティックイエロー)に包まれ、レースがついている。首から上は輝夫。
「なぁ、やっぱこの服装はどうかと思う」
四十年以上生きてきた経験から物を言うも二十五年姿形が変わらない犬には効かず、
「初代もそんな感じだった」
と嘘を吐くのみだった。因みに初代は好きな服装で、『悪意』からしてみれば私服で暴虐の限りを尽くされるという地獄絵図だった
なぜ二代目にコスチューム(名前から反映するから仕方ないけどどう考えても世紀末)を採用したかというと、初代ほど脚光を浴びないためだという。
犬は有名になればなるほど動きにくくなると(自論的に)思っており、それを初代の唯一の失敗としていた。その結果がこれだ。
しかし初代と比べて遥かに勝っているものもある。
それが能力。
初代は一人に一つずつ能力が備わっていたわけだが、二代目は一人に全ての能力が備わり、右手には筋肉、左手にはゴリ松、上半身の服装には美少女、下半身の服装にはプリティ、(見えない)オーラには☆の力が宿り、前回同様それらが全て超絶である。
決して輝夫が超絶筋肉だとか超絶美少女だとか超絶☆だとか超絶プリティだとか超絶ゴリ松だとかいうわけではない。輝夫本人はいたって普通の派遣社員。犬は前回と仕様を大きく変えた。
そんなよくわからない状態の輝夫はまんまと犬の嘘に騙され、
「それならしょうがない」
と戦地に赴くのだった。
町を飲み込む『悪意』。
魚のような『悪意』が大口を開けて建物を次々と壊していく。
ランクで言えば六。非常に獰猛と位置づけられるものだった。『悪意』は犬によって十までのランクがあり、その十は大陸一つを征服する力があるといわれている。
「・・・でかすぎないか」
輝夫はただただ立ち尽くす。空を泳ぐ『悪意』を目の前に戦意を喪失してしまいそうだ。
犬はというと、輝夫より十数メートル後ろの建物の残骸に隠れ、そこから輝夫に指示を出す。
「大丈夫、中の上ぐらいの相手だ!足元の石ころを投げてみるんだ!壊滅的な力を体験できるぞ!」
「いや、なんでお前はそんな後ろに」
「諸々の事情だ!とにかく早く『悪意』を殲滅しなきゃいけない!人類を平和の渦にブチ込むのがあんたの役目だろ!」
輝夫は渋々言われた通りに石ころを『悪意』目掛けて投げつける。
・・・ボゥッ。
小さく爆発するような音がし、思わず目を瞑る。
目を開けると・・・
体の中心に風穴を開け、ゆるゆると墜落する『悪意』の姿があった。
「う、うお、うおぉぉおお!!?」
思わず叫び声を上げる。まさか自分にこんな力が備わるなんて。ここまでなっといてなんだが輝夫は夢だと思っていた。自分がファンキーな色の衣装に身を包み、両腕が異常なまでに筋肉になっているこの姿なんて。しかしこれは現実。
『悪意』が消滅し、『悪意』によってもたらされた被害が修復されていく。
「おぉ・・・」
感嘆するしかなかった。輝夫は自らの体に刻まれた残る力を試したくなった。
×××
「これは、命を削る作戦だ」
時は流れ半年後。初代よりは時間的に劣ったものの超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松の能力を使いこなし、着実に『悪意』掃討を進め、今。残すはランク十の『悪意』だけとなった。
しかしそこで問題が発生する。ランク十の『悪意』には、☆の力が通用しない。
これは初代の時からのネックで、ぶっちゃけて言えば一~九の『悪意』は☆の力だけで事足りた。しかしランク十と遭遇し能力が通用しないと知ると明星は他の仲間と複合能力を発動し、見事『悪意』を滅ぼした。
ではそれがなぜ輝夫に出来ないのか。理由は簡単。
手を繋ぐしかないのだ。違う能力を持った仲間と手を繋ぐことで能力が複合され、最強の能力を発動する。しかし輝夫は一人。結構最初からわかってたけど今思うと無謀な体制。(by犬)
しかしここは四十二年を確実に生きてきた派遣社員、酒巻輝夫。犬には思いもよらない策を口に出す。
「極限まで近づいて☆で降ってきた星を投げて威力を増す」
ギリギリの作戦。ランク十の『悪意』の姿は空想上描かれたドラゴンそのままで、存在するだけで空間を食い散らかすような存在感がある。初代のリーダーである明星も、ランク十の幼体に腰を抜かしたほど。そしてそれが偶然幼体であったから、☆の力が通じた。
しかし二代目が敵とするのは幼体などではなく、成体。
犬が輝夫からその案を聞いたとき、「いける」と同時に「死ぬぞ」の三文字が浮かび、後者が口から出た。
「死ぬぞ・・・!?」
しかし輝夫は薄く笑うのみだった。
「考えてもみろ。私が超絶筋肉美少女☆プリティゴリ松になる前はただの派遣社員として金を稼ぐだけで、誰も救うことなど出来なかった。でも今は違う。今までの半年間でいくらの人を救えた?それは、私が選ばれなければ成しえなかったことだ」
このとき感じた違和感。犬は直感した。
この男は、自らの生に見切りをつけていると。
「全世界からしたら私は詐欺的後継者だ。彼らに足ほども及ばない。しかしな」
ドン、と机を叩く。どうでもいいことだが彼が机を叩くと茶が零れる。
「私は私の過去を、翻弄したい」
犬は零れた茶の温度よりも遥かに熱い、輝夫の心を感じ取り、その策に乗ることにした。依然として犬は『悪意』に近づけず、乗ろうが乗るまいが関係ないのだが。
×××
空間が張り裂ける。目そのものが逃げ出しそうなほどの殺気。
『悪意』が、輝夫に牙を剥く。
「負けられないな」
この場に犬は居ない。犬はランクが上がれば上がるほど『悪意』の近くに居れず、初代のときも犬を除いて闘いが始まっていた。
半年慣れ親しんできたこの全身。首から下は自分のものでは無いと言っていい。しかし自らの意思で動かしてきた。輝夫は、(コスチューム以外の)この体に自信を持ち始めていた。
だからこそここで、命を懸ける。
ギリギリの作戦を、今ここに。
「一瞬で終わらせるぞ・・・う、おぉぉおおおおおおおぉぉぉおおお!!!」
プリティの力で浮き上がり、やっと『悪意』と同じ目線に立つ。そして両手を天に掲げる。
「お、ち、ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
今までで最上級の星をイメージして、☆の能力を使う。
天が煌き、雲を割り、轟音を高鳴らせ星が降ってくる。
その巨大な見た目に合わないスピードで『悪意』を貫かんと降ってくる。
「うおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」
輝夫はその星ギリギリまで近づき両手を一瞬だけ添え、ただでさえ早いその星を、加速させた。
高速から光速へ。星が駆ける。命を、懸ける。
『悪意』の爪が迫る。それを避け、最早祈るしかない星の攻撃力に全てを込めて。
「終わりだ、『悪意』」
目に見える全ての空間が、白に包まれた。
×××
結局英雄は増えなかった。
今まで通り五人のまま。
五人の銅像を目の前に寂しそうな目線を送るきぐるみ、犬。
(・・・)
犬だけが、その後の顛末を知っている。
犬だけが、輝夫の今現在を知っている。
輝夫は、『悪意』に勝てなかった。
(輝夫・・・)
しかし今この景色に平和が広がっている理由、それは。
「俺らが来るのが遅かった。ごめん、犬」
現在英雄と称される初代が、潜めた息を吹き返し、戦地へ戻ってきたからだ。
「いや、悪くない。誰も、悪くない」
犬は振り返る。そこには二十五年前、世界を救った五人の姿。全員年相応の見た目だが、瞳の奥に英雄たる由縁、可能性が垣間見えていた。
二十五年の内に五人は世界を違えていた。
彼らは皆、あれで『悪意』が根絶やしにされたとは思っていなかった。
そのためあのスピーチの後、美少女の能力で時間制限つきの異世界修行を行っていた。
制限時間はちょうど輝夫が星を落としたその時まで。
彼らは強くなったが来るのが一足遅かった。星を跳ね返された輝夫を守ることをできなかった。
「明星・・・いや、今は彗だっけ」
「・・・あぁ」
明星の名前が変わっているのには一つの理由があるのだが、それはまた別の話。
犬と彼らはただ五人しか並んでいない銅像に六人目を想うことしかできなかった。
ギリギリの作戦に身を投じ、怯むことなくやりぬいた、一人の男の姿を。
詐欺的後継者ながら過去を翻弄し、超絶なまでに最強を誇った派遣社員の姿を。
如何でしたか?
これ一つ書き上げるのに四時間かかりました。難題すぎて何度頭を抱えたことか・・・
でもこれで成長できた気がします。これからも・・・いやたまにで充分ですこういうお題は。