表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後の魔少女――十年の孤独  作者: 結城コウ
第六幕「瓜生山 その二」
PR
99/106

17-2

「今井さん……?」

 一条を軽くあしらっていた高原も、この新たな参戦者に警戒の目を向けた。

「……久しぶり、高原。てゆーかこの姿なのによくわかったね」

「そりゃあ、あなたの〈モナドの窓〉を感じてたもの。それに、魅咲(みさき)がいきなり二人になったら、あなたくらいしか考えられないでしょ」

「さっすが、あたしを騙して〈リーガ〉をも騙し通した女。頭いーんだ?」

「馬鹿にしてるの? 魅咲の姿でそこにいるってことは、あなたもわたしの敵に回るってわけ?」

「敵に回ったのはあんただよ、高原。全世界の敵にね」

 この言葉に、高原は納得したように頷いた。

「そうね。それじゃ、敵同士、やることやっちゃおうか。今度こそ手加減しないよ」

「手加減、して欲しいなあ」

 相手の力量がわかっているのだろう、保奈美(ほなみ)は腰が引けている。

 と、

「よそ見してんじゃ——」

「してたって一緒よ」

 保奈美に気を取られているかに見えた高原の死角から魅咲が飛びかかった。

 しかし高原は振り返ることなく念動力を行使し、その動きを固める。

 ほぼ同時に一条が高原めがけて赤い光線を放ち、時間差を置いて保奈美が駆け出した。

 だが、

「ぎゃっ!」

 高原は動きを固めた魅咲の体を自分の正面にめぐらせ、一条の攻性魔法への盾にした挙句、念動力で射出。

「ぐえっ!」

 突っ込んでいった保奈美がまともにそれを食らった。

 同じ姿をした二人が絡み合いながら、ゴロゴロと俺のところまで転がってきた。

「いたたたたた……。ちょっとあんた、なんで不意打ちの前に声かけてんのよ」

 保奈美がもっともな文句を言う。

 魅咲も呻きながら言い返した。

「あっ、つぅ……。あんたこそ、あたしに変身しておいてそれ? 今のくらい避けてよ」

「うっさいな。経験や力の使い方はコピーできないんだからしょーがないでしょ。てゆーか、この体全然じゃない。接近戦タイプだって一条から聞いてたのに」

「あー、そうか。あたしの力の使い方はできないんだ。それじゃさっぱり戦力にならないじゃない」

 なぜだろう、ほとんど誰とでも仲良くなるのが上手い魅咲だが、たまにものすごくウマの合わない相手がいる。例えば昔の吉村先輩だ。だけどそれでも、初対面からこんなに喧嘩腰というのは珍しい。

「あのさ、魅咲。保奈美も遠路はるばる助太刀に来てくれたんだから、そういう言い方は……」

「何? 誠介ってばその子の肩を持つわけ? 昔恋人やってた仲だから?」

 なぜか俺が睨まれた。理不尽にもほどがあるぞ。

「ヨユーのない幼馴染ですこと。てゆーか背が低い。体しか変われないから、動きにくくて仕方ないわ」

 今度は保奈美だ。余り気味の服の袖をヒラヒラさせる。仲裁役を買って出た俺の顔も立ててくれよ。

「あんたがデカいだけでしょ。あたしが平均なの」

「ふんだ、セースケは背が高いから、あたしぐらいがちょうどいいの。セースケだってあたしの身長好きだって言ってくれたもん」

 げ、覚えてたのか。あのときは怒ったくせに。

「ふーん、そんなこと言っちゃう? そう言うわりにボトムスの方はそれほど余ってないみたいだけど?」

「ひっ、ひとが気にしてることをっ!」

 さっきまでのシリアスさが嘘のようだ。戦力としてはやや残念なようだが、保奈美の能力はさすがで、どこからどこまでも魅咲と同じ顔である。おかげでこうして二人が言い争っている光景はギャグにも見えてしまう。

 これで服装までいっしょだったらまったく見分けが——そうだ。

「だいいち、あんたはそんなんだからセースケから——」

『こらあッ!』

 考えにふける俺をよそに保奈美がさらに何事か言い募ろうとしたそのとき、強烈な思念が飛んできて、俺たちは弾かれたように飛び上がった。ひとりで高原の相手をするはめになっている一条だ。

『ふたりとも何やってんの! わたし死にそうなのに!』

「ご、ごめん!」

 一斉に頭を下げる俺たち三人。そうしてから、保奈美が怪訝そうに俺の顔を覗き込んだ。

「ってゆーか、なんでセースケまで反応してんの?」

 魅咲もハッとした。

「ほんとだ。今まで気づかなかった。たしかに今の伽那(かな)のは指向性の高い精神感応だったけど……」

 一番驚いたのは俺である。

「そういえば。少し前からイヤリングなしでもテレパシーが拾えることがあったな」

 俺自身そんなもんなんだろうと思って気に留めていなかったが、ふたりの反応を見ると、本来はありえないことのようだった。もしかすると、俺の異能は少しだけ強まっているのかもしれない。

「誠介、あんたもしかして異能者? ——って、いい加減伽那がヤバい!」

 魅咲が跳躍する。

 その先では、一条が高原の念動力で二度、三度と地面に叩きつけられていた。弱った虫を弄ぶかのような残忍さだ。

「ほんとに変わっちゃったんだね、高原……」

 悲しげに吐き捨てた保奈美が後を追おうとする。

 俺はその背に呼びかけた。

「待て、保奈美」

 呼び止められた保奈美が足を止めて振り返った。

「何?」

「お前、今の高原に触りさえすれば変身できるのか?」

「そりゃあ、まあ。〈モナドの窓〉と〈器〉は同等になるよ。あの異才は使えないけど、それ抜きでもとんでもない力を使えるようになる。使いこなせないこの体よりはずっとマシだし、高原とも渡り合えるようになると思うよ。……でもそれは高原もわかってるから、触らせちゃもらえないだろうけど」

「俺に考えがある」

 俺は保奈美にマントを差し出して、作戦を説明した。

「……なんかズルい作戦だね」説明を受けた保奈美の評価は辛かった。「……でも、うまくはいきそう」

「俺だって情けないとは思うさ。高原の気持ちを利用するんだからな」

「まあ、いいか」と頷いた保奈美だったが、「でもさぁ、セースケに頭脳プレイは似合わないよ」と付け加えた。

「お前といっしょにすんな……と言いたいところだけど、それは自覚してる。あいつらにも作戦を伝えてやってくれ。それから——」

 言おうか言うまいか迷った。

「どうしたの?」

 正面からそう問われ、結局俺はその言葉を口にした。

「……俺とお前ってさ、違う出会い方してたら、お似合いだったのかもな」

「残酷だね、その言い方は」

 保奈美はそう呟いて口をへの字に結び、マントを折り畳んだ。大きなマントだが薄作りなため、畳めばどうにかポケットに入る。

「ま、でもそーかもね。……ほんと、あの行動もなかったことにできたらいいのに。そしたら、あたしは胸を張って誠介の前に立てた」

「それだと出会ってなかったかもしれないけどな、俺たち」

「あー、そうなるのか。難しいもんだね」

 保奈美は俺に背を向けた。

「んじゃ、やってみる。高原にひと泡吹かせてみせるよ」

「ああ、頑張れ」

 保奈美は片手を軽く上げて飛翔した。


 戦いの場は再度空中に移った。

 保奈美が魅咲の体を使いこなせないというのは本当のようで、散発的な攻性魔法を放つに留まっていたが、魅咲と一条はそれを巧く援護として利用しながら高原に攻撃を仕掛ける。

 その三人と相対する高原の動きからは、うんざりといった様子が伝わってきた。この戦いにとっくに飽きているようだった。

 高原には魅咲たちを殺す気はないのだろう。適当にダウンさせて戦意を奪いたいのに、魅咲たちがなかなか諦めずにいるもんだから苛立っている。

「ったく、もういい加減にしなさいよね」

 高原がピストルの形を作った指先から無数の氷の塊を放った。標的となった魅咲はそれを避けようとしたが、この散弾は近距離で次々に爆発した。

 魅咲は悲鳴を上げて落ちてきた。

 えげつねえ。氷の魔法に見せかけた榴弾だったのかよ。

 次いで、気を逸らした保奈美が餌食になる。魅咲が落とされて攻撃の間が空いた隙に、高原は念動力で保奈美を捉え、地上へと叩き落とした。

「よっと、あとはあんた」

 最後は一条だ。高原が家一軒分くらいありそうな大きな火球を放った。

 だが、

「うりゃあああぁっ!」

 ここ一番とばかりに魔力を高めた一条が、前面に巨大な防御障壁を理想的な傾斜角で展開、高原の攻性魔法を跳弾させた。

 何の気なしに撃った魔法だったのだろう、高原は特に慌てた様子もなく、次の魔法を準備しながら、流れ弾の行方を目で追う。

 その双眸が、驚愕と絶望に見開かれた。

 俺と高原の視線がかち合った。

「誠介くんっ!」

 高原がこっちに飛んでこようとする。

 だけど、間に合わない。

 流れ弾となった魔法は、俺めがけて飛んできたのだ。

 馬鹿げた大きさの火球に迫られ、俺は一歩も動けなかった。

「うおおッ!?」

 ものすごい衝撃が体を襲い、俺は気を失いかけた。



「誠介くん! 誠介くんッ! いやっ! こんなのって……! いやああぁぁッ!」

 目を開けると、爆発でできた窪地の真ん中で、高原が泣き叫んでいた。

 その足元に力なく倒れた体を抱き起こそうとしている。

(わりーな、高原……)

 俺は痛む体に鞭打って、身を起こそうとした。

 ぴくぴくと動いた手に頬を撫でられ、高原の顔に安堵が広がった。

 俺の心がチクリと疼いた。

「うそ……? うそみたい。……よかったぁ。誠介、く——!?」

 ばっ、と高原が飛び上がる。

「ごめん、高原」

 俺の姿をとっていた保奈美が、のそり、と立ち上がった。



「だあっ、痛え……!」

 俺は藪の中からどうにか抜け出した。

「お前、加減しろよな」

 ぎろり、と横を睨む。

「ごめんね。思ったより魔法がデカくて、つい力が入っちゃった」

 俺の傍にいた魅咲がしゅんとなった。

 着弾の直前、魅咲が俺を念動力で退避させていた。おかげで俺は命拾いしたわけだが、自動車にでもはねられたかというくらいの勢いだった。

「ったく、ほんとにお前は昔っから……」

「いいじゃん、こうして生きてるんだから」

 大雑把な性格も変わっていない。

「しっかし、まさかあんたがあの詩都香(しずか)をハメるなんてね。あまり褒められたやり方じゃないけど」

「ああ、まったくだ。でもわかりそうなもんだけどな、さっきの魔法を食らったら、俺みたいな一般人は粉々だろうって」

「そういう心理的な余裕はもうあの子にはないんだよ。それがわかっててこの作戦立てたんでしょ?」

「まあ、な」

 俺は渋々同意する。

「嬉しいんじゃないの? ずっと好きだった相手に、そこまで想われて」

「馬鹿言え。俺は……」

 と言いかけて口をつぐんだ。こっちのこいつに言っても仕方がない。

 そんな俺たちの視線の先で、保奈美は再び姿を変えていた。

 ほっそりとした体に長い髪——高原の姿へと。

「よ、よくも……」

 高原が怒りと屈辱にわなわなと身を打ちふるわせる。

 保奈美は服装を隠すために身にまとっていたマントを脱ぎ去り、俺の方まで念動力で送ってよこした。

「あんたがやろうとしてるのはこういうことなんだよ、高原。いつセースケや、他の大事な人を死なせるかわからないの」

 保奈美があらためて〈モナドの窓〉を開いた。魅咲の姿のときとは比較にならない巨大さだった。

 そこに一条も降りてきた。魅咲と保奈美に交互に視線を遣る。

「魅咲、今井さん、やるよ。ふたりともわかってるよね?」

 ふたりは力強く頷いてそれに応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ