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放課後の魔少女――十年の孤独  作者: 結城コウ
第一幕「瓜生山」
9/106

2-5

 その次の日、高原は学校に来なかった。まあ、昨日の今日だ。傷はもっと腫れているだろうし、クラスメートにそんな顔を見せたくはないだろう。あるいはひょっとして、俺のケアが足りずにまだ落ち込んでいるのか。

 前の晩からこのときまでの間に、保奈美から二十回近く電話があった。俺はその全てを無視した。

『今は話したくない』――散々焦らした末、始業前の教室でこれだけのメールを送信。ディスプレイの「送信完了」の表示を見届けてから携帯の電源を切り、どっと脱力した。

 そこへ魅咲がやって来た。

「その様子だと、いよいよ大詰めみたいね」

「たぶん、な。高原はそのつもりみたいだ」

 魅咲は一つ前の席の松本の椅子を勝手に借りて、俺と向かい合って座った。

「そういえば詩都香(しずか)は? まだ来てないみたいだけど」

「休み、だろうな。結構怪我してたし。主に顔面」

「はぁ!?」

 魅咲は素っ頓狂な声を上げて詰め寄ってきた。どうやら俺は言わなくてもいいことを言ってしまったらしい。。そのあまりの勢いに、ヘッドバットでもされるのかと思わずのけぞった。椅子がガタンと音を立てて傾ぎ、危うく後ろに倒れかけた。

「お、落ち着いてくれ、魅咲……」

「あああ、ああ、あんたがついていながら、どっどうして詩都香に怪我なんてさせんのよ。そっ、そそれも……それも、顔!? 詩都香の唯一無二の取り柄なのにっ! あんた、どうやって責任取んのよっ!」

 動揺のせいかひでえことを口走る魅咲。なんだか知らんが俺の襟首に伸びてくるその右手を、俺は必死に押しとどめた。

「お、お願いしますから落ち着いてください、魅咲さん! これも高原さんの作戦なんです!」

 俺は半ば涙目だった。この手が到達するや否や、俺の首は間違いなくぽっきり逝く。

 必死の説得が功を奏し、魅咲はようやく手を引っ込めた。

 この機を逃してはならじと俺は必死で昨日の状況を説明した。

「……はぁ。あの子、相変わらずバカなんだから」一通り弁明を聞き終えた魅咲は、溜息とともに肩を落とした。「そんな奴、ボコって締め上げて自首させればいいじゃない……」

 後半の蛮勇演説の方は何かの聞き間違いと思うことにしよう。


 昼休みにメールのチェックのために携帯の電源を入れ直すと、うまいタイミングで高原から電話が来た。

「大丈夫か?」

『何が?』

 開口一番怪我の具合を聞いた俺に、彼女はからっとした声で尋ね返した。

「いや、昨日の傷。それで休んだんじゃないのか?」

『ちがうちがう。いや、それもあるけど。わたしがそんなんだけで学校休むわけないでしょ。――それよりも、どう思う?』

 今井さんのこと、と高原。昨日のあの怪我を「そんなん」で片付けていいのか?

『わたしを憎んでるかな?』

 少し考える。保奈美としては、あの場面は何があっても俺には見られたくなかったことだろう。しかも俺は、ぼこぼこにされた高原の肩を持った。

「お前が先に手を出したのか?」

『まさか。出させたのよ。……わたしもかなり酷いこと言っちゃったけど』

「保奈美はお前のせいで俺と切れちゃうのを怖がってるみたいだ。昨日のあれは、ひょっとしたら俺とお前が寄りを戻したように見えたかもしれない」

『お芝居の中で、ね』

 くっ、いらんことをおっしゃる。

『それ以上はどう?』

「それ以上ってのは?」

『わからない? あんな所にあんなタイミングで三鷹くんが来たのは、裏でわたしが仕組んだことだ、なんて考えないかな? わたしが実は事前に「今井さんに河原に呼び出されました。すごい剣幕で怖い。助けて」なんてメールを事前に送っていた、とか』

 ああ、なるほど。その上で保奈美を挑発してわざとボコられて、その現場を俺に目撃させた、と。俺が最初から高原とグルであることを除けば、ほぼ真実に近いわけだが。

「……わからん。保奈美はあまり頭よくないし、そんなシナリオを思いつくかどうか」

『三鷹くんってば、わかってないなぁ。恋する女はそれくらい思い込んだり勘ぐったりしちゃうものよ。わたしというわかりやすい恋敵がいるんならなおさら』

 お前こそ恋する男の気持ちをわかれ、と言いたかった。

 高原との通話を切って携帯を確認すれば、一通だけ保奈美からのメールがあった。こわごわ開いてみると、『昨日のこと、言い訳させてもくれないんだ。全部あの女にハメられたのに』という文面だった。

 ……さすがだな、高原。


 こうして高原は保奈美の憎悪を一身に集めた。その夜、保奈美は来栖のときと同じ手口で高原を陥れようとした。

 ――超能力、〈異能〉の力を使って。

 俺は高原と一緒にその現場に踏み込むことになった。「結末を見届けたいんなら来てもいいよ」と高原に言われたからだ。

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