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序奏 高原詩都香
サブタイトルと章タイトルをミスっていたので修正します。
「本気で言っているんですか……?」
詩都香は目を伏せたままそう言った。目の前の二人が、何か得体の知れない別の生き物のように見えた。
一人暮らしを始めた矢先に、父の元同僚を名乗る二人の男性から訪問を受けた。弟の結婚式にも来てくれた二人だった。
そのお礼も兼ねて精一杯のもてなしを、と久しぶりに気合を入れてお茶を出した詩都香に、彼らは予想外の要請を切り出してきた。
「――本気です。あなたのせっかくの力を有効に使わないのは、我が国と国民にとっての重大な損失です」
片割れがそう断言した。
手をつけられもしなかったティーカップの中で、紅茶がみるみる冷めていった。
「それに、室長もきっとそう望まれたはずだ」
もう一人は、よりにもよって亡父を引き合いに出した。
呆然とする詩都香の胸の内に、どす黒い闇が生じた。




