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放課後の魔少女――十年の孤独  作者: 結城コウ
第二幕「詩都香の部屋」
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序奏 相川魅咲

 高原詩都香(しずか)は生死の境をさまよっていた。

 後は本人の気力次第です、などと医者は言うが、それこそ最も怖い話だった。今の詩都香にはいかなる気力もないはずだ。

(だからアレはやめろって言ったのに……)

 救急集中治療室の前の長椅子に座ったまま、相川魅咲(みさき)は右手を握りしめた。いつかこんなことになるんじゃないかと危ぶんでいた。

 今日、ひとりの人間が死んだ。魅咲にとっては大切な幼馴染だった。

 そして今、もう一人が死にかけている。彼女の親友が。

 ぎりぎりっ、と拳が軋んだ。

(……伽那(かな)、どうしよう。誠介が死んじゃった。詩都香も死んじゃう……)

 彼女が心の中で呼びかけたもう一人の親友は、同じ病院に収容されていた。重傷を負っていたが、生命に関わるものではないらしい。今は多分、眠っている。

 魅咲の怪我が一番軽かった。それがなんとももどかしかった。

 隣には詩都香の弟の琉斗(りゅうと)が座っていた。放心状態だった。

 無理もない、彼にとっては母親代わりでもある姉が死にかけているのだ。

 琉斗の右手を魅咲の左手が握っていた。いつの間にか、どちらともなく、そうなっていた。

 魅咲も注意してはいたのだが、時に不安と後悔のあまり、ともすれば相手の手を潰しかねないほどの握力を込めてしまう。しかしそれでも、詩都香の弟は反応を示さなかった。

 向かいの椅子では、担任の若い女性教師が顔面蒼白で頭を抱えていた。

 受け持ちのクラスから死者が出た。もうすぐその数が二になるかもしれない。しかも、授業を受けているはずの時間にだ。担任にとってはありうべき最悪の事態だろう。

 詩都香の父親の姿はまだない。今は大慌てでこちらに向かっているはずだ。

 魅咲は、血の気を失い、真っ白になった右手を見た。鍛錬のせいで、女子にしてはごつごつしたその拳を。――この拳で何ができるというだ。

(これからどうしよう……)

 誠介と詩都香が死んでも、彼女の戦いは終わらない。終わりにさせてもらえない。

(詩都香ならどうするだろうな)

 ぼんやりと考えてみる。なんとなく、予感があった。詩都香はたぶん、帰ってこない。

 幼馴染の死を悼む余裕はなかった。むしろ、そちらに思念を向けることを意図的に避けていた。

 ……だって、そのことを考え出したが最後、魅咲は壊れてしまう。

 治療室の扉がゆっくりと開いた。

 ――待って! まだ心の準備ができてない!

 魅咲そうは叫びたかった。

 しかし、それに頓着することなく扉は開き切り、中から薄い青の衣装に身を固めた医師が姿を現した。

 ……結局、彼女の予感は半ば当たった。

 彼女の親友が帰ってくることはなかった。

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