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放課後の魔少女――十年の孤独  作者: 結城コウ
第一幕「瓜生山」
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第一幕への前奏曲 三鷹誠介

 週二回程度を目安に更新していきたいと思います。

「俺とお前は未来を共にする宿命を背負っている。過去に、転生の度にそうして来たように。今生でもまたあの災厄が繰り返されるのだろう。人類の命運になど興味はないが、二人でこの世の終わりを見届けるのも一興。だから――」

 言を継ごうとして、三鷹誠介は口を噤んだ。

 相手の顔に戸惑いと、ほとんど嫌悪に近い色が浮かんだのがありありと見てとれたからだ。

 六月七日金曜日の放課後、彼は一世一代の舞台に立っていた。

 相手は待ち合わせ場所である裏門脇の桜の樹の下に時間通りに来てくれた。その清楚可憐な姿を前にすると、彼の胸は高鳴りを抑えられない。

 先日は彼女の部屋で中間考査のための勉強会もした。マンツーマンでこそなかったものの、誠介は手間のかかる教え子だったので、彼女もほとんどつきっきりで世話を焼いてくれた。

 さらに、試験明けにはクラスメートを窮地から救うために二人で奔走することになった。

 二人の距離は確実に縮まっているはずだった。勝算もそこそこあった。

 そこで先ほどの台詞と相成ったわけだが、こうなっては返答はもはや火を見るよりも明らかである。眉根を寄せ、口をぽかんと開けた彼女は、それでもやっぱり魅力的であったが、常になく細められた目は、軽蔑の念を隠そうともしていなかった。対象物を凍てつかせる超低温メーサービームようなその眼光から、誠介は思わず目を逸らしてしまう。

 途端に死にたくなった。消えたくなった。

 しかし、そんな彼の内心を慮ることなく、彼女は澄んだ声で止めを刺した。

「……頭おかしいんじゃないの?」

 彼女が踵を返す。それと同時に誠介はがくっと膝を折り、毛虫の死骸だらけになったレンガ張りの地面に手を突いた。その耳朶を打つ足音が、カツカツと遠ざかっていく。

 三分もそうしていただろうか。誠介はやおら立ち上がり、頭上の桜の樹を仰いだ。

 当然、花はとうに散ってしまっていたが、幹も枝も、彼女と初めて会った日と変わらずそこにあった。

「年々歳々花相似たり」そっと呟く。「……歳々年々高原(たかはら)(また)同じ」

 字余り、と意味もなく心の中でつけ足してから、誠介はだっと走り出した。

 春先の身体測定で出した五十メートル走のタイムは六秒三。学年二位である。見る見る内に裏門内のスペースを抜け、校舎の表の昇降口に至り、靴をしっかり履き替えてから、二段飛ばしで校舎を四階まで駆け上がった。

魅咲(みさき)いぃッ!」

 求める人物は教室で自分の席に座り、友人と談笑していた。

「ありゃ。早かったね、誠介」

 驚きも悪びれた様子もなく、誠介の幼馴染は笑顔を向けてきた。

 相川魅咲、芳紀まさに十五歳。活発で社交的。男女問わずクラスの誰からも慕われる女子生徒だ。

「やっぱりまたダメだったんだぁ」

 魅咲の後ろの席に座っていた女子も、にこにこと笑顔を向けた。

「やっぱり、じゃねーよ、一条! おい魅咲! お前、あれでいけるって言ってたじゃねーか!」

「言ったっけ、そんなこと?」

 魅咲は首を傾げた。トレードマークの、右側頭部でくくった長い髪がぷらんと揺れた。

「『――あの永遠の契約を再び交わそう』だっけ? アドバイスしといてなんだけど、あんたもよくあんな恥ずかしい台詞考えられたわね。そっちの才能あるんじゃないの?」

 ありえない追い打ちだった。思い出したくもない。だが一晩かけて推敲した台詞は、容易に頭から抜けてはくれず、誠介は頭を抱えてしゃがみ込んだ。机や椅子といった障害物が無かったら、そのまま床を転がり回りたい気分だった。

「やめてくれよぉ。大体お前が言ったんじゃないか、高原はああいうのが好きだって……」

 誠介が自分で思っている以上に湿っぽい声が出てしまっていたのか、魅咲は席を立つとその横に中腰になり、ぽんぽんと子供をあやすようにその肩を叩いた。

「ごめんごめん。でも、詩都香(しずか)がああいうのが好きっていうのは本当だよ」

「いや、まあ知ってはいたけどさ」

 誠介はめげずに立ち上がる。そこへ、

「詩都香の方向性とはズレてたのかなぁ。これで三回目? あれ? 四回目だっけ?」

 予想外の方角から再び追撃された。誠介はそちらの女子生徒を上からねめつける。

「一条、お前ほんと自覚なしにひとの傷口に塩コショウを塗りつけるのが好きだよな」

 六回目だけど、と誠介は心中密かに補足した。言われた女子は胸の前でぶんぶんと両手を振った。

「そ、そんなつもりじゃないよぉ。わたしが悪いみたいに言わないでよ、三鷹くん」

 この女子生徒は一条伽那(かな)。小学校時代からの魅咲の親友である。

「こら、伽那をいじめんな。……しっかしこの作戦も失敗かー。どうしたら詩都香に振り向いてもらえるんだろうね」

 頼りにならない幼馴染は、同じく立ち上がってふるふると首を振った。

「やっぱ脈がないんじゃない?」

 伽那は懲りていないらしい。

「前回の『僕は死にません!』もダメだったしね。そもそも裏門のとこ車通らないし」

 魅咲から「もし轢かれてもちゃんと死なないで言うのよ」と言われて実行に移そうとした告白だったが、車が来るのを待ってる内に相手は帰ってしまった。それを思い出して、誠介はまた死にたくなった。


 ――いったいどうすれば意中のあの子、高原詩都香(たかはらしずか)をものにできるのだろうか。

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