「ヤマカガシの夢」
作龍上天 作蛇入草
『草むらに一匹、ヤマカガシが居りました。
すぐ脇にお地蔵様が佇んでおります。ヤマカガシは頭を持上げ、お地蔵様を眺めました。
遠くで足音が聞こえてきました。段々と足音は近づいて参ります。ヤマカガシは草むらに身を潜めました。
人がお地蔵様の前まで来ました。
手を合わせて、拝んでいます。
ヤマカガシはそっと、拝む人の声に答えてみました。
人は感激してお地蔵様を見つめます。その笑顔にヤマカガシも心が和みます。
そっと、ヤマカガシは草むらから頭をもたげました。
人は驚愕して、逃げていきます。
ヤマカガシは焦って人を追いかけます。
人の表情から笑顔は消えておりました。
ヤマカガシは追いかけるのを、やめました。
じりじりと、日差しが道端に出たヤマカガシを焼いていきます。首を下げて湿気の伴う草むらに、ヤマカガシは戻ろうとしました。
その目の前にカエルが居るのを、ヤマカガシは見てしまいました。
反射的にヤマカガシはカエルに噛みつきました。カエルは呑み込まれまいと、必死に腹を膨らませて体を大きくします。
ヤマカガシは口一杯にカエルを頬張りました。そして我に返りました。
ほろり と心が零れます。
ごめんなさい。
カエルの命に、ほろり と心が零れます。
ごめんなさい。
でももう毒牙がカエルの喉に刺さっている。吐き出してもカエルは助からない。
ごめんなさい。
ほろり とヤマカガシの心が零れました。
ヤマカガシはカエルを呑み込みました。
静かにヤマカガシは項垂れました。
頭上ではトンビの鳴く声が響いています。見上げれば、くるり 輪を描く影姿が眼に映ります。
ヤマカガシは思います。
トンビに攫われて、空高く上れば龍のようになれるだろうか。
けれど所詮ヤマカガシはヤマカガシ。蛇は龍ではありません。
それでもヤマカガシは思います。
トンビに攫われてしまいたい。
その嘴が、その鋭い爪が、ヤマカガシの体を突つき裂いても。
地上を這うばかりの今より、違ったモノになれるような、そんな気がするのです。
暗くなる空を見上げて、ヤマカガシは思いました。
冷たくなる空気を感じながら道端の石の上、ヤマカガシはくるり と蜷局を巻きました。そして静かに眼を伏せます。
何も思わなくていいように。
何も感じなくていいように。
深々と夜気が降りていきます。ヤマカガシはひっそり眠りにつきました。』
私が読み終えるのを待ち兼ねた様に、彼は笑って言った。
「この話が分かる馬鹿なんていないよな。」
「そうね。」
なるべく感情を入れない様に、私はだるそうな笑みを浮かべる彼に返した。そんな答を待っていたと、彼は情けない程に頷き、ただ「有難う」とだけ言葉を発して眼を閉じた。
でも。
本当は何より、分かって欲しい、と望んでいるのではないの?
"だから云ったろ"
"人間なんざろくでもねえ、て"
かつて彼が見せたもう一つの話の導入部が、私の頭を過ぎっていく。
同じ韻で、同じ詞で、想う姿が裏返る。
さめざめとした哀の色が、黒く紅く嘲りの色に変わるのなら。
「もう、何も想わぬ…か。」
私も静かに眼を閉じた。
2017/04/24 11:29 考
2017/04/25 約…仕上げ
でもこれ「ゆたり」と同じじゃないかw




