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表・本匣  作者: R-N
19/21

「花ん粉たまんこ」

…『一年前、北海道の猛吹雪で人が亡くなりました。』

そのニュースを見ていたら、ふと書きたくなったので。

 雪の日に亡くなった人は、雪んこに。

 雨の日に亡くなった人は、雨んこに。


「…姿を変えて戻ってくるって、ばあちゃんが言っててさぁ。」

 巣箱の清掃をしながら、粕辺はいつもの能天気な笑みを浮かべて、共に働く弥生に話しかけた。漸く気温も上がり、春らしい陽気を迎えたビルの屋上で、養蜂作業をしている。

 そろそろハチ達も活動を始める頃だ。健康チェックも兼ねて、出入りするハチの動きも見ている。

「ふーん。」

 素っ気ない相槌を弥生は返した。粕辺の気持ちは知っているけれど、やっぱり付き合う気は、弥生には無い。

 共にこの仕事をするようになって、早半年。秘かに恋心を抱きつつも、粕辺の想いは一向に報われず。未だに仕事を共にする以外、何一つ進展していない。

 今日は風の少ない珍しい日で、粕辺も弥生も少し汗ばみながら、一通りの作業準備を済ませた。

 意外と街中のビルの上でも、蜜は採れるのだ。これからは春の花も彼方此方で咲き始める。ただこの時期は、同時に郊外から杉花粉も飛んでくるから、街中でもマスクは必須だ。

「花粉症持ちじゃなくて良かったよな。」

「そうね。」

 感情の無い返事は、速攻で粕辺に返された。冬の乾燥にも、引けをとらない乾きっぷりだ。粕辺はそれでも、弥生に向けて笑みを返す。

「今度の日曜日、河川敷に菜花の開花状況見に行かない?」

「私はパス。予定あるし。」

 それでも粕辺はめげない。

「じゃあさ、」

「はい。これで終わり。」

 箱の最終チェックが終わって、弥生は一方的に会話を打ち切った。さっさと帰り支度を始める。

「え、ちょっと待って…」

 らしからぬ動作で、粕辺は巣箱を引っ掛けてしまった。その衝撃にハチ達が大童で騒ぎ出す。幸い巣箱は数センチ動いた程度だが、ハチが落ち着くまで二人とも身動きが取れなくなった。

「…ばか。」

「ごめん。」

 しおらしく、粕辺は謝った。項垂れる粕辺に弥生はそれ以上追及せず、後は羽音が落ち着くまで待っていた。

 粕辺も余計な事は言えず、黙ったまま立っていたが。

「あっ」

 弥生の動揺が発するのと同時に、それは粕辺の眼にも止まった。どういうわけか、密集めから戻ってきたハチの後足の付け根でもぞもぞ動く。

 動いているのは黄色の塊だ。花粉玉がこの状態で動く理由を、咄嗟に粕辺は考えたものの、何も思い付かない。

 更に、花粉玉はミツバチの足から外れ、転がるよりも跳ねるように、二人の間を行き来する。

「…お父さんね、杉の木の下敷きになって死んだの、話したよね。」

 唐突に、弥生は亡くなった父の話を粕辺に振った。生憎、二人とも視力は頗る良い。

「あれ…ちょうど今頃だったんだ。」

 皮肉にも、その花粉玉の細かな凹凸まで、くっきりと見えてしまった。少しはにかんだ人の顔が、回転しながら二人を見ている。げっ、と不気味がる粕辺以上に、弥生の顔は凍りついてそれを見ていた。

 花粉の舞う日に亡くなった人は、花粉玉になって戻ってくる。

 そんな事があるだろうか。

 言葉を失くす二人の間を、その小さな玉は行き来した。

『…戻ってきてさね、傍で見護ってくれるんよ。』

 ふと、祖母がそう言葉を続けていたのを思い出し、粕辺は何とはなしに弥生へ向けて口にした。

「親父さんさ、お前の事がよっぽど心配なんだろうな。」

「ナナナっ!!なんで!?そんなこと…」

「いや、だって。親父さんなんだろ? この顔って。」

 ぽよーん。そんな擬音を立てていそうな花粉玉の黄色が、視界を横切っていく。メルヘンチックな世界が目の前に広がっている。


 と、決して和んではいられなかった。


 花粉玉は緊張感の無いまま、照れ笑いながら弥生の顔へと舞い上がった。

 そして、二つある穴の中へ入り込もうと、顔の中心へ近づいた。

「き………ぎゃあああああっ!!」

 雄叫びに近い悲鳴を上げ、弥生は全身に鳥肌を立たせた。腰を抜かす勢いで仰け反る。粕辺は呆気に取られ、ただ見ていただけだ。

 花粉玉は懲りずにひとり嬉しげに、ぽよーんと弥生に向かっていく。

「来ぉないでぇぇぇっ!!」

 弥生はその小さな玉を、全力で拒絶する。

 けれど虚しく、玉は弥生の鼻の穴に深く吸い込まれていった。

「ぃぃぃ…ぃゃあああはははあっっっくしょん!!」

「弥生っ!!」

 盛大なクシャミを連発する。それでも弥生の症状は治まらず、みっともなく顔を崩して号泣する。

「…れ? 弥生、花粉症だったっけ?」

 顔をぐしゃぐしゃにしながら、弥生は否定していた。

「ぉ、ぉおどう、ざん、の、ぶあがあぁ、」

 ずるずるの鼻を垂らし、間違いなく他人に見られたくない顔を晒して、弥生が文句を言った。

「がずべがべんなばなじおずるがらっ」

「へ?弥生、何言ってんのかわかんないけど。」

 どうぢでぐれんのおっ、と弥生は粕辺の胸を叩いた。



 春は遠くにあるようで、意外と近い…かもしれない。


2014/03/27 23:12 考

2014/10/27 17:39 仕上げ(とりあえず…諦めました(泣)

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