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ケシゴムマジック

作者: 芝川 千曲
掲載日:2026/04/13

 さっきから、背中や後頭部に小さな礫が当たってくる。おそらく、ちぎられた消しゴムだろう。後方から数人の含み笑いが聞こえる。

 休み時間が終わり、教室へ戻ってきたときには、僕の机の上にはゴミ箱の中身がぶちまけられ、空になったゴミ箱が逆さになって被せられていた。

 真正面から抗議したこともある。そうしてみても、今みたいに完全無視を決め込んでみても、何も変わらず、改善も見られないなら、これ以上一体どうすりゃいいんだ。

 絶え間なく消しゴムの欠片をぶつけられ続けながら、僕は消しゴムの欠片が転がった机の上を、じっと見つめた。

 

『ってぇな』

 

 とても小さく高く、極度にエフェクトのかかったようなその声が、どこからともなく聞こえた。

 後ろからではない。強いて言うなら、耳の中というか、頭の中に直接響いた感じだった。

 声の出どころを突き止めようと、僕は目だけを彷徨わせた。

 

『ここだよ、ここ』

 

 再び同じように声が聞こえる。それと同時に、机の上の消しゴムの欠片が1つ、大きく伸びをして、ぴょんと跳ねて立ち上がった。

 そう、伸びをして跳ねて立ち上がったのだ。小さな消しゴムの欠片に、小さな手足と顔がついていたのである。

 

『あいつら、ひっでぇなぁ。人のことぶん投げやがって』

 

 欠片はそう言って憤慨していた。

 あまりに突然のことに驚きすぎて言葉も出ない。僕は咄嗟に周りのクラスメイトの様子を盗み見た。欠片の声は、僕以外の誰にも聞こえていないようだ。

 

『おい、お前、あいつらにずっとやられっぱなしだな。俺もムカつくから、ちょっと仕返ししてやろうか? こんな感じでさ』

 

 悪い顔をした消しゴムの欠片は、突然トランプ大のカードをどこからともなく取り出し、僕に見せてきた。そこにこんなリストが書かれている。


 ・11トントラックに轢かれる。

 ・通り魔に遭う。

 ・就寝中に自宅が全焼、逃げ遅れる。


 僕は思わず、「いやいやいや」と首を横に振る。どれを選んでも殺してしまうじゃないか。


<死んじゃうだろ、そんなことしたら>

 

 授業中だし、声を出したらきっとクラスメイトに変に思われる。僕は筆談で消しゴムの欠片にツッコミを入れた。ノートに書いた僕の言葉に、彼は不満そうな顔をする。


『死んだほうがいいだろ、あんな奴ら。ひどい目に遭わせられてるってのに、お優しいこって』


<さすがにやりすぎというか>

 

『そうか?』


<本当に死なれたら後味悪いし、訃報を聞いたときに一応クラスメイトとして悲しんでるっぽい反応しなきゃいけないと思うとダルい>


『思ったよりドライじゃねぇか』

 

 消しゴムの欠片は少し考える素振りを見せる。

 

『じゃあ、お前はどんなのがいいと思う? ちょっと書いてみろ』

 

 消しゴムの欠片はもう1枚新しい真っ白なカードを差し出してきた。僕は消しゴムの欠片の視線を気にしながら、カードにこう書き記す。


 ・1日1回、毎日タンスの角に小指をぶつける。

 ・外を歩くと必ず犬のうんこを踏む。


『そんなヌルいのじゃ全然効かないぜ』

 

 ベタながら地味に嫌な "呪い" だと思うんだけどな……じゃあ、これも書いておくか。僕はカードに続きを書き足す。

 

 ・本命も滑り止めも全滅して、受験失敗する。

 ・卒業後はニートになる。

 

『……』


<どうかな?>

 

『なるほどね……ちょっと弱い気はするけどな。ま、いいだろう』

 

 消しゴムの欠片は満足そうに頷くと、スエードのような素材の袋をまたしてもどこからか取り出し、カードをしまった。

 

『仕返しを書いたカードをこの中に入れておくと、カードに書いたことが現実になるぞ。あいつらはこれから毎日タンスの角に小指をぶつけて、うんこを踏む。そして全員揃って浪人するってわけだ』


 その様子を想像して僕は噴き出しそうになりながらも、笑いを堪えた。胸がすく思いとはまさにこのこと。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、教師が授業の終わりを告げる。クラスメイト達は我先にと教室を飛び出していく。

 

『楽しみにしとけよ。それじゃあな』

 

 消しゴムの欠片もどこかへ姿を消した。

 ふと視線を机に落とすと、「タンスの角」や「うんこ」、「受験失敗とニート」が並んだリストのカードが残されていた。代わりに、最初に欠片が見せてきたカードが無くなっている。

 もしかして……欠片が間違ってあの過激な方を袋に入れてしまった?!

 その時、校舎の外から大きな車のブレーキ音が聞こえてきたと思うと、続けて激しい衝撃音が轟いた。

 

 悲しそうに振る舞う心の準備が、必要かもしれない。

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