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君を飼っても良いですか?  作者: 黒井みやこ


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5-これからのこと


 その後、事前に買っておいた私セレクトの服を彼に見せ、その内の一着を着て貰ってから、二人で大衆食堂っぽい雰囲気のレストランに。

 そこで好きなだけ注文して良いと伝えると……。


「ミリカさんは、本当に魔法使いだったんだね」

 彼はしみじみと、そう呟いた。

「ふぇ? 何で?」

 私は首を傾げる。


 私はここまで、彼に魔法は見せていない。

 隠しているわけでも魔法使いと嘘をついているわけでもなく、単純に使う理由がなかっただけ。

 見たいというのなら幾らでも使って見せた。


 というか、彼が媚びた上目遣いで『見せて欲しいな』なんて言われたらもう、私はきっと私の限界を超えるだろう。


 だから、私が魔法使いだってわかるような特別なことは何もなかったはずなのだが……。


「値段を見ずに服を何着もまとめて買えて、高級よりのレストランに気楽に行ける人間は、普通とは言えませんよ。後、サイズ違いも気にせず服を買える人も。……魔法って稼げるんですね」

 買った男物の服が、何着か彼に合わなかったのは私痛恨のミスだった。

 まあ、一着でも着れたのがあったから良しとしよう。


「あー……。そうは見えないと思うけど私それなりに強くもあるからさ、冒険者としても結構稼げていたりもするよ」

「……低級じゃなかったの?」

 彼の疑いは至極正しい。

 冒険者というのもピンキリで、低級というのは『食いはぐれの無能』と全くの同意義語と言っても良かった。

「うん。私はれっきとした、最下級に等しい低級だよ」

「……低級ってそんなに稼げるの? というかどうしてミリカさん低級なの? 魔法使いなら上に行けるんじゃ……」

「目立つと不味いから。だから見つからないようランク低いままにしてる。ついでに、魔法使いだってこと隠してるわ。冒険者ミリカさんはただのミリカさんなのです」

 そう言って、ドヤ顔の私に彼は突っ込むそぶりさえ見せなかった。

「ふーん。それで、どうやってランク下げてるの?」

 私は、持っている冒険者のカードを彼に見せた。

 同姓同名のカードを、五枚程。


「毎度違うカード出して、功績を分配させるわ。何枚かランク上がり過ぎたから捨てたカードもあるよ」

 だから、冒険者ってのは都合が良い。

 吐いて捨てる身分だから、いくらでも偽装が効く。

「……思った以上に規格外な人なんだね、ミリカさん」

「ま、それなりにね。だから遠慮なく好きな物食べて良いよ」

「ありがとうございます。ま、最初から遠慮するつもりはなかったけど」

 そう言って、彼はにっこりと微笑んだ。

「よしよし。若者は遠慮せず一杯食べなされ。ま、たぶん私の方が年下だけどね」

「あー……俺、自分の歳わからないんだよね。誕生日も」

「おおう……もう……」

 彼の柔らかい部分に触れてしまった罪悪感から顔を抑え、そっと溜息を吐く。

 私が苦悩するのがそんなのに楽しいのか、彼はニヤニヤとてこちらを見ていた。




 食後のデザートとして出て来たプリン。

 ぷるんぷるんと白い皿の上で震える可愛い奴。

 そんなプリンをつつきながら、私は尋ねた。

「そんでさ、幾つか聞くけど、まず一番大切なこと尋ねるね」

「はい。どうぞ」

「私、近い内に街を出るわ。だって追われてるから。そんで、どする? ついて来てくれるなら嬉しいけど……」

「むしろ連れていって貰いたいですね」

「ここが嫌なの?」

「それもある。ただ、同じ場所に居続けると、変なのに狙われるようになる。だから、嫌だ」

 苦渋に満ちた表情で彼は呟く。

 そんな大げさな……とは思わない。

 人の外見にさほど関心のなかった私でさえ、こうして声をかけたくらいである。

 彼の美貌は、魔性と言っても決して過言ではない。

 悲しいけれど、道楽貴族達の行動を鑑みれば、彼の懸念は現実的なものと言わざるを得なかった。


「……なーる。だったら、少しは長い付き合いになるかもね。私、結構点々とするから」

「そうなると助かります」

「ん、歓迎するよ」

「どうして? 俺、ただのお荷物でしょ?」

「そりゃ、顔が良いから」

「……正直だね」

「ええ、正直だもの。んで次の相談だけどさ、何かやってみたいこととか、覚えたいこととかない?」

「……えと、何の話ですか?」

 本当に検討がつかないらしく困った顔で彼は笑った。

 その仕草は子犬みたいでチャーミング……おっと、真面目な話だった。


「私としちゃ、君といつまでも一緒に居たいわよ? でも、そうじゃないでしょ?」

「と、言いますと?」

「君はさ、私に飼われたい?」

 強く、強く、強く。

 彼は、強い目で私を睨んだ。

 敵意を込め、殺意を込め、全ての憎しみを込め、持たざる野良犬として。


 それで、わかってしまう。

 彼がどうやって今日まで生きて来て、そしてどれほど苦しんだかを。


 彼は、野良犬だ。

 首輪を付けられることを嫌がる、誇り高い。

 人として扱われず、狼にも成れず、ただ地獄に耐えて来た……孤高の……。


「ごめんね、傷つけた。でもつまりそういうこと。私も、君が望まないことをするのは本意じゃない。だから、私といつさよならしても良い程度に準備しておきたいの。……可能性はそう高くないけど、私の厄介事に巻き込んでさよならもありえるしね」

「……どうして追われている?」

 私は、さっと顔を反らした。


「おい。そりゃさ、ここで傷付いた顔とかされたなら俺も聞くつもりはねーよ。だけど、その顔は完全にやらかして誤魔化した顔じゃねーか! 野良猫でもそんなとぼけた顔しねーぞ!」

「そ、そんなことないにゃー」

「嘘つけ嘘を。……まあ良い。俺も言いたくないし、誰かに飼われるのも御免だ。もちろん、お前にも。だから何でも良い。俺に出来そうなことを教えてくれ」

「あいあい。とは言っても、そんな感じで言われたら教えられることなんて一つだけなんだけどね」

「もしかして……魔法か?」

「残念ながら私に指導者としての資質はないわ。本気で学びたいなら魔導学園の入学金くらいは出してあげるけど……おススメ出来ないよ」

「何でだ?」

「魔導学園ってお貴族様が多いもの。悪い意味でのお貴族様。私も庶民庶民ってさんざ嫌がらせされて大変だったわー」

「じゃあないな。ない。だったらあんたは俺に何を教えてくれるんだ?」

「ま、すぐにわかるわよ」

 そう言って私は微笑み彼を見つめ、カップを手に持つ。


 この店に来た時から、食後のコーヒは、彼が食べる姿を見ながら楽しむことに決めていた。



ありがとうございました。


楽しんでいただけましたなら良いね高評価などよろしくお願い申し上げます。


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