4-契約成立
野良犬君の強い警戒。
それは、まるで威嚇のようだった。
私は怖くないよと伝えるため、微笑のままで、出来るだけ柔らかい口調を意識する。
「……そうねぇ。信じて欲しいって言える程、私たちはお互いを知らないし、かと言ってここでさよならするのはちょっちもったいないと思うんだ。だからとりあえずさ、カイト、私を利用してみない?」
「利用?」
「そ。私はこれから、君に色々施してしんぜよう。まずは服。次に美味しいご飯。後は……何か欲しいものある?」
「いや、別に……」
「ありゃま、意外と欲がない。ま、何か考えといて」
「……それで、お前にどんな得があるんだよ」
私はつい、くすりと笑ってしまった。
「そりゃ、君の笑顔だよ」
「――は?」
「顔の良い君の笑顔が見れる。しかもその笑顔が私の功績だったりするなら、そりゃもうドヤ顔満点さ。気持ちよーく、お天祖様の下を歩けそう。ほら、十分お得」
そう言って、私は笑い顔を作ってみせた。
じとーっと、猜疑の眼差しが私に突き刺さる。
まあ、そりゃあ疑ってもしょうがない。
なにせ言ってることは怪しい怪しい"お貢ぎ宣言"である。
言い分が、自分で大分苦しいのはわかっている。
だけど、しょうがないじゃないか。
他に理由がない。百パーセントの本音がこれなんだから。
私は別に誰かに貢ぐような性格じゃなかったんだけどなぁ……。
綺麗なものを見るは昔から好きだった。
そして今、最高に綺麗なものが随分と酷い顔をしている。
そんなのは人類の損失だ。
綺麗な子が幸せになり笑顔を振りまく。
それこそが幸せスパイラルを生む世界の真理。
きっとそうだ私が今そう決めた。
ニコニコ笑い、私は彼に手を差し出す。
ちょっと苦しいかな?
そう思いながらドキドキして、彼の方をちらっと見つめる。
目が合った後、彼は小さく溜息を吐いた。
「はぁ……。わかりました。助けようしていること、信じます」
言葉の割には、たぶん信じてない。
彼は相当、しぶしぶといった様子だった。
それでも彼は、私の手を取ってくれた。
警戒心が指先にまで伝わる。
触れる温度さも反骨が見感じられる。
信じるという言葉が、驚く程に軽い。
彼は私をこれっぽっちも信じていない。
だけどまあ、それで十分。
彼が一人で生きていられるようになるまで支援すること。
そしてその間私は彼の面を眼福とし見させてもらう。
それだけで、十分。
契約は、成立する。
「ミリカさん。酷い顔になってるよ」
彼は、私のにやけ面を苦笑しながら指摘した。
「おっとつい本音が顔に」
そう言って私は顔をきりっと引き締める。
涎が出る前で、本当に良かった。




