3-追われる理由
「それで、今更だけど貴方のお名前なんてーの? ちなみに私はミリカ。低級の冒険者やってまっす」
にっこり微笑み風呂上りの彼にそう尋ねてみた。
「……えと、カイト……です」
そう答える彼。
答えるまでしばらく間があり、目が泳ぎ、ついでに私の名前を聞いて考え直すようなそぶり。
百パーセント偽名です本当にありがとうございました。
まあ、どうでも良いけど。
「ん、よろしくカイト。それで一つ相談なんだけどさ」
「はい。何でしょうか?」
私は我慢できずくすりと微笑んだ。
「慣れない敬語なら無理しなくても良いよ」
「いえ、恩人相手にそれは」
「そか。ごめんね」
それ以上、私は強く言わない。
敬語は相手への敬意だけでなく、相手と距離を縮めないためという意味もあることを、私は知っている。
だから、無理強いするつもりはない。
「相談ってのはね、これについてなんだけど……」
そう言って私は彼がシャワーを浴びる前に着ていた服をテーブルに置く。
「とりあえず『綺麗』にはしたんだけど、やっぱりちょっとボロ過ぎてねぇ。どうしようか。思い入れある感じだったらごめんね」
それを見て彼は目を丸くしていた。
「別に思い入れはないですが……これ、どうやったんですか? 洗濯したにしては、綺麗過ぎる。それにもう乾いてるし……」
彼は不思議そうな顔で衣服を見つめていた。
汚れがないのは当然、色もどこか鮮やかで、そして新品のようにぱりっと。
だけど新品と違ってほつれや破れはそのまま。
訳がわからないと首を傾げる彼の姿もまた可愛くて良いものだったけど、すぐ私はネタバラシをした。
「ふふーん。何を隠そう私は"魔法使い"なのです。ちょっとした実力を持ったね」
そこいらにいる似非魔法使いや魔法使いを名乗る手品師と異なり、私は一応本物。
いくつもの魔法を使い分け使いこなす、後衛職のエキスパートである。
引く手数多で職に困らず、国のお偉いさんに取り立てて貰えることも多々。
だけど、そんな凄い魔法使いの私を見る彼の目は、とても冷たかった。
さっきまでの擬態した柔らかい雰囲気も忘れる程に。
「……へぇ。凄いですね」
「おおう、心が凍えそう。マジで泣きそうだから止めて欲しい感じなんですが、えと、何がお気に召さない感じでしょうか?」
ついつい必要以上に下手に出てしまう私。
どうやら私は、面の良い男に弱かったらしい。
いや大体の女性は弱いよきっと。
「……魔法使いって、お貴族様とかに召し抱えるんじゃないのか?」
彼は、まるで警戒する野良犬みたいな冷たい目で吐き捨てた。
どうやら、さっきの一言は彼にとってクリティカルとなる程私を警戒する一言だったらしい。
いや、私を警戒というより、その裏に居るであろう人物を警戒しているフシがある。
つまり、彼はそういう立場の人たちに追われているのだろう。
彼も、という方が正しいか。
「色々遭ってね、逃げてるのよ。君になら言っても良いから言っちゃうけど、私追われちゃってるのよ」
「は? どうして俺なら良いと――」
「いや、だって貴方も追われてるでしょ?」
「……やっぱり、俺のこと知ってたのか?」
「ううん。知らにゃいよ。そもそもね、私がこの街来たの昨日の夜。だから安心して。だけど、そういうことでしょ?」
カイトの容姿でスラム落ちするなんて絶対にあり得ない。
そんなこと夜の店が、そしてこの街の貴族が許すはずがない。
だったらどうしてあんな場所に居たのかと考えたら、その貴族に追われているか逃げているか追い詰められているかのどれか。
更に言えば、彼の容姿を考えたら別の追われている理由も想像するのは容易い。
これだけ顔が良いのだから、欲しいと思う人は少なくないだろう。
貴族の男が若く美しい女性を酷い目に遭わせるなんて話は、どの街でも聞こえて来る。
だけど私はそれが違うと知っている。
男だけでなく、貴族の女だって同じ様なことをするからだ。
男の方が性欲が強いと言われているがそんな事はない。
少なくとも、貴族社会においての下劣さは男女並ぶ。
だから正しくは、『貴族の中には男女問わず庶民を食い物にする奴がごまんといる』になるだろう。
それを考えると、彼がこうして怯えているのも貴族に嫌悪している理由もわかるというものだ。
いや……彼の美しさを考えると加害者が女性とは限らない。
だとしたら尚の事、彼の人生は昏いものであっただろう。
彼は何も言わない。
無言のまま、だけど貴族との繋がりを疑っているのか……まだ、こちらへの警戒は解いていなかった。
ありがとうございました。
こんな感じで軽めにかる読みやすく続けていきたいと思います。
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