2-冒険者です。嘘じゃありません
私の名前はミリカ。
冒険者ミリカ。
低級の冒険者の割には、まあそれなりに稼げる旅人さん。
依頼を受けながら各地を転々とし、一人で旅を続ける可愛い可愛い渡り鳥。
そういうことにしている。
例えこれが偽名であり、嘘の身分であったとしても、私には『都合の良い真実』だ。
これからもずっと、その名前で活動する予定であるくらいには。
だから、これはもう本名みたいなものじゃないだろうか?
いや本名と言っても良い。
彼にもこれで自己紹介するつもりだし。
歳は十七。容姿は都会の女の子に混じっても劣らない程度……だと思う。
そのくらいの自負は持っていいだろう。
まあ、特別良いかと言われたらそうでもないけど。
愛嬌はあるけど、所謂平凡な容姿ってやつだろう。
少なくとも、彼みたいに容姿端麗というわけじゃない。
逆に悪い部分もそう多くなくて、ちょっと背が低いことが軽いコンプレックス程度。
つまり、普通の女の子……とはちょっと違うけど、まあそんな感じ。
どうして今私が自分のことを考えているかというと、状況を整理する為。
そうでもしないと、ちょっと冷静になれそうにない。
心臓が、さっきからずっと鳴りっぱなしで痛かった。
部屋の隣でシャワーの音がやけに耳に張り付く。
単なる水の音なのに、何か変な緊張と興奮が喉元まで来る。
確かに、彼はちょっと顔が良い。
いや、とても……今まで見たことがないくらい、この世界に居ることが奇跡だと感じるくらいに顔が良い。
一目ぼれする次元さえ通り越したくらいにだ。
それでも、大して知りもしない相手にいきなり抱かれようと思う程貞操感は狂っちゃいない。
というか未経験である私をそこまで狂わせたら、それはもうインキュバスか何かだ。
……彼クラスだと、ちょっと片足突っ込んでるような気はするけど。
本来こういうのはもっとお互いを知って、互いに心を通わせあって、それでようやくのはず。
そう私は強い意思を持って抗議する。
まあ……あの顔で求められたら抵抗出来るかちょっとばかし自信もないが……。
「っとと。ちょっとピンクってた」
大きく深呼吸して、緊張をなるべく考えないようにし状況整理に戻る。
実のことを言えば……私はほんのちょっとだけ普通と違う部分がある。
だからまあ、お金に困ることはない。
あくまで冒険者の割には程度だが、今の手持ちだけでも一人二人程度なら年単位で養える。
彼がホストでもない限りはだが。
じゃあ、彼と一緒で問題ないのかと言えば、実はそうでもない。
これもぶっちゃけるが、私はちょっと追われている。
悪いことをした訳じゃない……いや悪いことか?
まあしょうがないというか不可抗力というか正当防衛というか、とにかく私は悪党ではないしお天道様に背くようなことはしていない。
それでも、世界というのはとても不条理なもので、偽名を使って逃げなければならない程度には追われていた。
だから、あまり長時間同じ場所に留まることは出来ない。
そして私の都合にあんな顔の良い子を巻き込むことはしたくない。
そういった事情で、私は彼をどうしようか考えていた。
というか考えこまないと緊張で死にそうだった。
「まあ、ちょっとしたパトロンごっこをしてから彼を解放するのが無難だよねー」
あしながおばさんになって、感謝されて、私はそれにデレデレして、そしてさようなら。
うん、きっとこれが理想的だ。
彼は現状が救われる。
私は彼に良い顔が出来る。
間違いなく、お互いWINWINだ。
私は彼のことを、顔が良いこととスラムに居たこと以外何も知らない。
おそらく年上だろうとは思うが、私のように童顔な場合もあるからわからない。
この宿までも、彼はほとんど無言でついてきたからまだ自己紹介も何も出来ていない。
だから、わからないのだ。
彼はどうして、スラムなんかに居たのかが。
言い方は悪いが、あの顔ならスラムに堕ちることはない。
手段を選ばなければ、幾らでも稼げるからだ。
だから、私程じゃないにしても、彼も必ず何らかの事情を持っている。
あれだけの容姿がありながらスラム落ちしているのがその証左だ。
いや……むしろ逆かもしれない。
彼はスラム落ちしたのではなく、スラムくらいしか逃げ込む場所がない程に――。
がちゃりとドアが開かれ、彼が戻ってきて私の思考は中断された。
「あがりました。あの、ありがとうございました」
そう言って、彼は緊張した様子でぺこりと私に頭を下げる。
自分と同じシャンプー。ボディーソープの香りがするだけ。
それだけなのに、ちょっとだけキュンってなったのは、内緒である。




