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君を飼っても良いですか?  作者: 黒井みやこ


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12/15

12-せめて最後は苦しまずに――


 もう――どうでも良い。


 俺は今日まで、世界が醜いと思って生きてきた。

 だけど、実際は逆――。


 醜いのは……俺だった。


 俺が醜いから、俺の世界は全てが醜い。

 この世界において最も醜悪な存在は、俺だ。

 だから……俺を救ってくれた声さえ、俺は裏切った。


 もう、生きていたくない。

 きっとこの気持ちは、単なる自暴自棄だ。

 だけど、この嫌悪感にもう耐えられなかった。


 他の誰にも、もう触れられたくない。

 心も、身体も、誰にも。

 以前は我慢出来たが、今はもう我慢出来ない。

 前のようなことがあれば、きっと俺は気が狂うだろう。


 だから俺は……独りで死にたかった。

 あの人が用意してくれた、最後の場所で。


 あの人の善意で用意された場所は、俺なんかが死ぬにはもったいないかもしれない。

 だけど、ここ以外に、あの人の痕跡は何もなかった。

 俺が全て、台無しにしてしまったから。

 だからもう、ここしか、俺が居たいと思える場所がなかった。




 数日程飯も取らず眠りもせず、ただ何もせず過ごしていたある日……。

 その日は、やけに外が騒がしかった。


 外だけではなく、宿の中も喧噪に包まれどたどたと大勢の足音が響いていた。


 そんな時、宿屋の店主である男の叫び声が、宿の中に轟いた。

「早く逃げろ! 盗賊団が一斉にこの街目掛け襲って来てるぞ!」

 何度も何度も、繰り返し叫んでいる。

 自分は後回しで良いと、全ての客を逃がすように。


 あの人の宿を選ぶ目が正しかったと、男は命を賭け行動で示している。


 あの人の期待通りの店主。

 それに比べ、自分は……。


「もう、どうでも良い……」

 引き籠ったまま、喧噪を聞き流す。

 そうしてしばらくすると、足音も店主の声も聞こえなくなる。

 これまで感じたこともない程の静寂で、自分の吐息だけが耳に残った。


 やっと静かになった。

 そう思い目を閉じて、ふと、あることに俺は気付く。


 死ぬのも殺されるのも望むところ。

 むしろ俺は早く死にたいし、死ぬべきだ。


 だけど、俺は経験から、知っている。

 俺の場合何かある時は、死ぬだけでは済まない。


 こんな場所で見つかれば、まず確実に犯される。

 盗賊がどんな性別であろうとも、どんな趣味嗜好であろうと。

 俺は、そういう運命の元にある。


 それは、とても嫌だ。

 あの人以外に何かされるのは、心底気持ち悪い。


 この部屋で汚されるのも我慢ならない。

 だが、何より嫌なのは、奪われること。


 あの人が俺のために用意してくれた衣服、食料、武具、冒険者道具。

 それらを持っていかれることが、何よりも俺は我慢ならなかった。


 俺は最後の荷物としてあの人に用意してもらった袋を開ける。

 中に入っていたのは、マントと肩当て、ペンダント、ゴーグル、ナイフといった冒険者セット。

 俺が一人でも、生きていけるようにと願った、旅人の一式。


 わかっていたことだが……あの人は、俺が裏切った後でも、俺のことだけを考えてくれていた。


 俺が幸せになるようにと、あの人だけはただ願い続けてくれていた。

 こんな、裏切者で傷つけた俺なんかを――。


「罪滅ぼし……でさえないな。そんなこと、俺にはもう出来ない。だけど……せめて、戦って死のう」

 そう思い、俺はマントと剣、盾だけを持ち、宿の外に出た。


 俺の武器、俺の盾、俺の戦い方。

 あの人が教えてくれたこと、あの人が用意してくれた物。

 裏切ったあの人に報いる手段もないのに、恥ずかし気もなくそれらを身に着けて、それを喜ばしいと感じる自分の度し難さに苦笑を禁じえない。


 全くもって、反吐が出る。




 喧噪が、全くない。

 街の中は、人の気配が全くなかった。

 ただ、街の外から何やら騒いでいるような声は聞こえた。

 必死に街の外に逃げようとしている音が。

 俺はその方角の、反対に歩き出す。


 そして、街の外に出てから丁度だった。

 その、大群を見たのは。


 地平線の向こうから迫って来る、大量の人と馬の姿。

 数百……いや、千は確実に越えている

 それは盗賊という言葉では決して足りない。

 むしろ軍と呼ぶべきだろう。

 略奪軍と。


「あはははは」

 乾いた笑いが口から洩れる。

 少しくらい足止めして、あの人に教わったことを生かして、その上で死ねたらなんて妄想してたけど、これは駄目だ。

 あれじゃあ一人殺すことさえ出来そうにない。


 まあ、それも良いだろう。 

 せめて死のう。

 苦しみながら、惨めに、のたうちまわりながら。

 精一杯戦って、誰かに汚されないように。


 それだけを目標に、俺は剣に握る手に力を入れる。


 そして、軍団が迫りつつある、その瞬間――。


 カッと、何かが光輝く。

 その直後、ドォンと爆弾のようなけたたましい轟音が鳴り響いた。


 耳につんざき、砂埃は嵐のように舞い上がり。

 そしてその直後――。


「大丈夫!? 無事!?」

 どうやら、耳がいかれてしまったらしい。

 ここでは絶対に聞こえない美しい声が、俺の耳に届いた。


 続いて、視力が戻り俺の前に一人の姿が。

 あの時いなくなってから何も変わっていない、あの人がそこに居た。



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― 新着の感想 ―
勘違いはあれど、結局のところ両想いなんですよね……素敵。
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