10-分かれ道
それから、幾つかのトラブルに見舞われながら、幾つかの街を巡った。
道楽の旅で、そして逃亡の旅。
私が見つかりそうになったこともあった。
彼が変なのに目をつけられたこともあった。
そういう真面目な理由でなく、単純に馬鹿な理由だったこともあった。
例えば……辿り着いた街が魔法学園都市だった時とか。
外から見てもわかるし、聞いたらすぐ教えてくれただろうに、なんで何も考えず街に入ったのか今でも謎だ。
当然、入った瞬間Uターンした。
バレずに逃げられたのは本当に幸運だった。
そしてその時ばかりは、流石の彼も腹を抱えて笑い、私を馬鹿にした。
私は赤面し、何も言い返せなかった。
ただ、逃走理由自体は彼の方が圧倒的に多かった。
まあ、納得は出来る。
男性と一切接点のなかった自分が野良犬状態の彼を拾って飼おうと思ったのだ。
美形に弱い人は一目見るだけで堕ちるだろう。
当然、魔性である彼に堕ちるのは女だけではなかった。
全人類に対し突き刺さる魅惑の顔。
そりゃあ、トラブルのバーゲンセールになってもおかしくない。
そういうわけで逃走者二人の逃避行旅は、お互い終わりを言い出すこともなく案外長く続いて、半年という長い時間になった。
当然と言えば当然だが、清い付き合いだ。
甘くなるような関係性はなく、私はパトロン兼師匠のまま。
まあ、それなりに日々の潤いを貰っていたが。
綺麗な顔の男性は美容に良いというのはガチ。
実際私の肌は前より少しばかりつやぷる状態。
と言っても、ぶっちゃけ私の変化など誤差も誤差。
彼に美しさで大きく負けてるから、違いなんて誰も気付かない。
プライドはちょっとばかり悲惨なことになっているけれど、事実だからしょうがない。
そうしてお互い旅に慣れて別行動をしていたある日のこと――。
私は彼へのプレゼントを手に帰路に着いていた。
プレゼントと言ってもただの冒険者道具だ。
冒険者として一人でもそれなりに仕事を熟せるようになってきたから、マントからナイフ、ゴーグル等々と冒険者入門のフルセットを用意した。
色気も何もないが、まあプレゼントには違いないだろう。
そう思っていると、道端で彼を見つける。
急いで声をかけようとしたが、私は慌てて足を止めた。
彼は、見知らぬ女性と二人で話していた。
普段ローブで顔を隠して生活している彼が、わざわざ顔を出している。
その様子は、どこか楽しそうで、そして親しそう。
それは、男としての彼の顔。
それは、私には見せたことのない顔。
ちくりと、胸が痛んだ。
悪いとは思っていたけれど、我慢出来ず彼らの言葉が入るよう、私は耳を傾けた。
彼は、私には決して言わない甘い言葉を口にしていた。
彼が本気なのか遊んでいるのかはわからない。
だけど、例え冗談だとしても、彼女の家に泊まろうとしている。
彼は『次の宿』の用意を進めていた。
わかっていた、つもりだった。
私では、彼の心を癒せない。
半年かけても尚、彼の警戒を解けなかった私では。
男女の機微など私にわかるわけがない。
ただ自分の知識欲のために魔法を学んで来た過去しかない私では、女の子らしいことは、何もしてやれない。
だから、彼が私を『潜在的な敵』とし見て来たのも、それは仕方がないことだろう。
決して、彼が悪い人だったわけではない。
彼はただ、人よりも生きるのが難しかっただけ。
それだけは、自信を持って言える。
だから、きっと今日が覚悟を決めるときなんだ。
いつか来るなんてのは、最初からわかっていた。
ただその日が、今日だったというだけで。
『じゃ、今晩私の家に来る?』
納得したつもりではあっても、女性の言葉に私は言いようのないショックを覚えた。
そして、それを受け入れる彼にも。
ズキリと、胸が痛んだ。
決して、これは恋じゃない。
ただ、私は少々彼にほだされ過ぎてしまっていた。
昨日までの日々が惜しいと感じるほどに。
それでも、私は彼の行動を否定しない。
それだけは何があっても出来ない。
彼を応援するために、私は今日まで一緒に居たのだから。
私は静かに部屋に戻り、プレゼントとある程度まとまったお金、そして置手紙を置いて、その部屋を後にした。
『この部屋は今日から一年契約入れとく。好きに使って。今までありがとう』
そうしてすぐ、私はこの街を離れた。
隣に誰もいないのは少し寂しかったけど、涙が出る程じゃあなかった。
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