ソニアとリアム③
ひとしきり泣いて、温かいお茶を飲んだ後、リリアは気持ちが
スッキリしていることに気づいた。
今まで心の奥底にわだかまっていたモヤモヤが無くなったような
気がする。
「…ありがとう、ソニア。何だか浄化された気分…」
「うん。晴れやかな顔してるわ。
これからも、我慢しないで泣きたいときは泣いたらいいわよ。
さ!甘いものを食べて、もっといい気分になりましょ!
今日は、お気に入りのタルトを買って来たの!」
そう言って、ソニアがお菓子屋さんの箱を開ける。
艶めく宝石のようなベリーがふんだんに乗ったタルトは、
生地がサクサクで、甘酸っぱくて、とてもおいしかった。
リリアはこの味を、この日の思い出と共に、事あるごとに
思い出すだろうなと思った。
お茶をしながら、リリアはまた、自分のことをたくさん話した。
話を聞き終わったソニアは、溜息をついてから答えた。
「やっぱり貴族の出身だったのね。立ち振る舞いが綺麗だもの。納得よ。
それにしても、18歳になったら家に戻って結婚しろだなんて…
面倒見るのは放棄したくせに、リリアを家のための駒にしようなんて、
酷いわね…って、ごめんなさい。ご家族の悪口を言っちゃったわ…」
ソニアの率直な感想に、思わず頬が緩む。
「うん。でも、それが条件で家を出られたから。
期間限定だとしても自由に暮らせて、こうしてソニア達とも出会えたから、
よかった。あのままあの家で暮らしていたら、心を無くしてしまっていたかも。」
「そうね。叔父様の考え方には納得できないけれど、
おばあさまのお家で暮らす許可をくれたことにだけは、感謝するわ。
…ねぇ、ところで、リリアはドレスに興味はある?
着たければと思って、持ってきたのだけど。」
そう言って、ソニアは淡い紫色のドレスを出した。
「わぁ~!ドレスなんて、この家に来てから初めて!」
「よければ、メイクもさせてくれない?
友達を綺麗にするの大好きなの!」
リリアのうれしそうな顔を見てソニアは嬉しくなり、
「早く早く」と急かして、ドレスに着替えさせた。
「思った通り、よく似合ってるわ!白い肌に合うわねぇ。
さ、そこに座って!」
ソニアはリリアにメイクを施していく。
「さぁ、できた!鏡を見てみて?」
「…すごい。見違えた…。
好きなだけっていうレベルじゃなくて、ソニア、すごく才能あるよ。
こんなに綺麗になれるなんて…。」
「ふふっ。ありがとう。喜んでもらえてうれしいわ!
でも、元々綺麗だから、あんまり必要なかったわよ。
うらやましいわ~。」
久し振りに華やかな服を着て、メイクをしてもらって、
友達と楽しくはしゃいで、リリアは心が満たされる思いだった。
ただ、魅了の力のこと、吸血鬼の末裔ということはやっぱり言えず、
そのことを考えると、少し心が重くなるのだった。
夕暮れ時になり、ソニアが「そろそろ帰るわね」と声を上げる。
リリアは急いでドレスを脱ぎ、メイクを落とし、いつものリアムの格好へと戻った。
ソニアがしみじみ言う。
「…あー、楽しかった!あっという間に時間が過ぎちゃったわね。
また、二人だけで会いましょ?みんなとのお茶会とは別に。」
「うん!また、ぜひ二人だけで会いたい。楽し過ぎて、
時間に気づかなくてごめんね。遅くなっちゃったし送っていくよ!」
「あら、大丈夫よ。リリアの帰りが危ないじゃない。」
「うちでは先祖代々、性別にかかわらず護身術を身につけるよう
伝わってて、今でも鍛錬を欠かしてないんだ。
だから安心して。自分の身はもちろん、ソニアに何かあったら守るから。」
「リリアかっこいい…ちょっとときめいちゃったわ。」
とりとめのない話をしながら、森の中の道を通る。
そろそろ森の出口というところで、ウォルターと出会った。
「あら、ウォルター!こんなところで、どうしたの?」
「…ソニアの家に行ったら、森の奥の友人の家に行ったと聞いたから、
迎えに行こうかと」
「そう。わざわざありがとう!リアム、ここからはウォルターと帰るわね」
「うん!今日は本当にありがとう!ウォルター、ソニアをよろしくね!」
リアムは、ソニアをウォルターに託して、きびすを返した。
「リアム、帰り気をつけてね!」
ソニアの言葉に、リアムは振り返って手を振った。
しばらくリアムの後ろ姿を見送ったあと、ウォルターはソニアに聞いた。
「二人きりで会ってたのか?」
「うん!楽しくて、時間を忘れて話し込んじゃった!」
ソニアは、今日一日を思い出してにっこり笑う。
「…いくら友達だといっても、男の家で二人きりになるのは危ないだろう?
今度は俺も呼べよ。」
ウォルターはソニアの目を見つめ、真面目な顔で忠告した。
「…あ。そうね、そうだった。そうするわ!」
リリアが男の子の振りをしていることを失念していたソニアは、慌てて答えた。




