どうして
暗がりの隅に身を寄せながら、私はふと考えた。
なぜ人間は、我々をここまで忌み嫌うのか。
食糧を奪ったわけでもない。害をなしたつもりもない。彼らの目にさえ触れぬよう、慎ましく暮らしてきた。それでも、姿を見せた瞬間に踏み潰される。我々には生きる自由さえ与えられていない。
「見つかるな、逃げろ、物陰に隠れろ」
それがこの世界での掟だった。
だが、私は疑問を捨てられなかった。
なぜ我々ばかりが、恐れられ、蔑まれ、憎まれるのか。
だから私は、飛んだ。
真っ昼間、あの忌まわしい巨人たちの前に姿を現した。
それが、終わりの始まりだった。
「うわっ!ゴキブリだ!」
怒号と共に、あっという間に捕まった。
逃げ場もなく、あの人間の子どもは笑いながら言った。
「そうだ、ストレス発散をお前にぶつけるか」
私は――生まれてこのかた、最も長い夜を迎えることになった。
熱せられた金属が脚に触れ、羽は引きちぎられ、何度も水に沈められ、顔には火の粉が散った。逃げることも、泣くこともできず、ただ、痛みに身を焼かれ続けた。
脚がもげ、内臓が露わになっても、その少年は笑っていた。
その顔は、まるで神のように、無慈悲で、絶対だった。
「お前は“汚いから”死ぬんだよ」
その言葉が、私の命の最期に焼き付いた。
体は朽ち、視界が闇に溶けたとき、私は初めて怒りという感情を知った。
人間に対する、決して消えることのない敵意。
焼け爛れた身体が崩れ落ち、意識が完全に薄れた瞬間――
不思議な温もりと共に、私は再び目覚めた。
まぶしい光、優しい声、柔らかな布の感触。
だが、最も信じがたいのは、自分の姿だった。
小さな指。丸い頬。泣き声。
私は――人間の赤ん坊として生まれ変わった。
この世でもっとも憎む存在に。
ならば、これも運命だ。
私はこの種族に牙を剥く。
いつか必ず、この世界の“人間”という名の支配者たちを地に堕とす。
それが、かつて「汚物」と呼ばれ、焼かれ、弄ばれた、私という存在への報い。
そして、名を与えられた――
ベリアル・ノクティスと。
人間どもめ、必ず復讐してやる!