コンラッドの願い
コンラッドの、そんなにはっきりとした物言いは珍しかった。
「まあ、リリス嬢がお困りだと、なぜお分かりになったのかしら?」
伯爵夫人が、柔らかくも鋭い問いを返す。
「……いえ。具体的に何かお困りなのかは、正直わかりません。ただ、先ほどの子供の言葉が、あまりにも悲しかったので」
そう静かに答えるコンラッドに、リリスはふと視線を上げ、何か言いかけて――やめた。
「ありがとうございます。でも、きっと……これは罰なんです」
「あなたが、何か罰を受けるようなことをしたと?」
レオンの問いに、リリスは再び“女優”の顔を取り戻し、どこか遠い目をして微笑んだ。
「劇団というのは、時に足の引っ張り合いもあるのです。もちろん、舞台が始まれば、それは一時の休戦。協力なくして、良い劇は作れませんから」
「なるほど……リリス嬢、こちらにお住まいなのですか?」
「いいえ、自宅は別にあります」
「では一人暮らしを? ……だとしたら、コンラッドが護衛に名乗り出るかもしれませんね」
伯爵夫人が茶目っ気を込めて笑うと、リリスは苦笑しながら首を振った。
「ありがたいお話ですが、家族と暮らしていますので」
「まあ、それはまた珍しい」
「いえ、そこまで珍しくもありませんわ。家族を呼び寄せている役者も、少なからずおります」
「それならば、ご自宅までお送りしましょうか」
伯爵夫人の申し出に、リリスは一瞬迷いの色を浮かべた。断るのは無礼に当たるかもしれない――そんな思いが見えたが、それを察した伯爵夫人は、さっと話をまとめてしまう。
「侍女を呼んで、支度をさせなさいな。私たちは先に馬車で待っていますわ。いつまでも女性の身支度に居合わせるのは無粋ですもの」
そう言って席を立つと、レオンとコンラッドもその後に続く。
だが、レオンはふと足を止め、振り返った。
「リリス嬢。……もし、この部屋が隣とつながっていたのなら、あなたが疑われる可能性は、高いのでは?」
リリスは、わずかにうつむきながら、静かに答えた。
「何をどう言おうと、どんな事情があろうと……最終的に“得”をするのは私に見えるのでしょうね。仕方のないことです」
その言葉を最後に、彼女は「では支度に入りますわ」と告げ、視線を下ろした。
レオンは一礼し、二人を追って楽屋を後にした。