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夜に聴かせて  作者: 音色
8/8

コンラッドの願い

コンラッドの、そんなにはっきりとした物言いは珍しかった。

「まあ、リリス嬢がお困りだと、なぜお分かりになったのかしら?」

伯爵夫人が、柔らかくも鋭い問いを返す。


「……いえ。具体的に何かお困りなのかは、正直わかりません。ただ、先ほどの子供の言葉が、あまりにも悲しかったので」


そう静かに答えるコンラッドに、リリスはふと視線を上げ、何か言いかけて――やめた。


「ありがとうございます。でも、きっと……これは罰なんです」


「あなたが、何か罰を受けるようなことをしたと?」

レオンの問いに、リリスは再び“女優”の顔を取り戻し、どこか遠い目をして微笑んだ。


「劇団というのは、時に足の引っ張り合いもあるのです。もちろん、舞台が始まれば、それは一時の休戦。協力なくして、良い劇は作れませんから」


「なるほど……リリス嬢、こちらにお住まいなのですか?」


「いいえ、自宅は別にあります」


「では一人暮らしを? ……だとしたら、コンラッドが護衛に名乗り出るかもしれませんね」

伯爵夫人が茶目っ気を込めて笑うと、リリスは苦笑しながら首を振った。


「ありがたいお話ですが、家族と暮らしていますので」


「まあ、それはまた珍しい」


「いえ、そこまで珍しくもありませんわ。家族を呼び寄せている役者も、少なからずおります」


「それならば、ご自宅までお送りしましょうか」

伯爵夫人の申し出に、リリスは一瞬迷いの色を浮かべた。断るのは無礼に当たるかもしれない――そんな思いが見えたが、それを察した伯爵夫人は、さっと話をまとめてしまう。


「侍女を呼んで、支度をさせなさいな。私たちは先に馬車で待っていますわ。いつまでも女性の身支度に居合わせるのは無粋ですもの」


そう言って席を立つと、レオンとコンラッドもその後に続く。


だが、レオンはふと足を止め、振り返った。


「リリス嬢。……もし、この部屋が隣とつながっていたのなら、あなたが疑われる可能性は、高いのでは?」


リリスは、わずかにうつむきながら、静かに答えた。


「何をどう言おうと、どんな事情があろうと……最終的に“得”をするのは私に見えるのでしょうね。仕方のないことです」


その言葉を最後に、彼女は「では支度に入りますわ」と告げ、視線を下ろした。


レオンは一礼し、二人を追って楽屋を後にした。

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