リリスへ言及
リリスの部屋は、小ぶりながらも厚手のカーテンで外からの視線を遮られ、完全にプライベートな空間として確立されていた。
装飾は控えめだが、象牙の櫛、銀の香水瓶、そして輸入物の香粉入れが小さな鏡台の上に並べられ、上品な趣を醸し出している。
花瓶にはいくつもの花束が活けられており、その隣には、カードや手紙が束ねられるように積まれていた。おそらくファンから贈られたものだろう。
中にはすでに封を切られ、開かれたままになっている手紙もあり、彼女がそれらにきちんと目を通していることがうかがえる。ファンを大切に思っていることが、こうした小さな痕跡から伝わってきた。
フロアにはペルシャ風の小さな敷物が敷かれ、部屋全体は物が少ないながらも美しく整えられている。来訪者を歓待するための一角には、小さなソファと丸い机が置かれており、紅茶を載せたトレイを手に、小間使いのような少女が静かに奥から現れた。
別の出入り口があるのか、それとも部屋の奥にもう一つの空間が隠されているのか、一見しただけではわからなかった。
鏡台の前に腰かけたリリスは、ふわりと笑みを浮かべた。
「どうぞ、おかけになって。お茶を入れさせますわ」
リリスの隣に控えていた少女が、軽く一礼してそっと部屋を出ていく。どうやら、侍女として仕えているようだ。
すすめられるままに、隅のソファに腰を下ろす。まもなく衣装棚の間から、先ほどの少女がティーセットを盆に載せて戻ってくる。
「この衣装スペースは、隣の女優部屋との仕切りも兼ねているの。完全な個室ではないけれど、それぞれの楽屋代わりに使っているわ。ただ、あくまで共有スペースであるという意識は忘れていないの」
言いながら、リリスは茶を一口すする。
隣の女優部屋――それは、例の被害者のことだろう。他にも女優は大勢いるが、このような半個室を与えられる者は限られているはずだ。
「お忙しい中、お時間をいただいてごめんなさい。単刀直入に聞くけれど、彼女との関係はどうだったのかしら?」
伯爵夫人が遠慮のない口調で問いかけると、リリスは扇子でそっと口元を隠し、わずかに目を見開いた。
「そうね……もちろん、良好とは言えなかったわ。彼女の方は明確に私を嫌っていたけれど、私は別に彼女を憎んでいたわけではないの」
そう答えると、リリスは視線を落とした。