リリスの楽屋へ
「リリスの部屋はこちらです。少々お待ちください」
案内役の男がそう言ってドアに手をかけた、その瞬間――
「お前が殺したんだ!」
部屋の中から、怒鳴り声が響き渡った。
ドアの隙間から一瞬だけ見えたのは、少女が誰かに向かって怒鳴っている光景だった。
――きっと劇団の子役だろう。レオンは先ほど、舞台の群衆の中にその姿を見かけた覚えがある。
「ちょっと、手違いがあったみたいで……」
案内役の男が焦った様子で目を泳がせ、どうすればよいか判断に迷っているのが見てとれた。
「いいから、通してくださる? あなたに責任はないと、支配人には私から伝えますわ」
伯爵夫人が穏やかな声で促す。
責任が自分に及ばないと分かった男は、安堵したように頷き、扉を開ける。
すると、涙を浮かべた少女が勢いよく駆け出してきた。
男が一瞬、心配そうにその背中を目で追い、それから部屋の中へと向き直る。
「失礼します。伯爵夫人と、お連れの方々をお連れしました。ご面会いただいてもよろしいでしょうか?」
――先ほどまでとは違う、やけに丁寧な口調。
どうやらこの劇団内にも、厳然たるヒエラルキーがあるようだった。
「どうぞ。あまり長くは取れませんけれど……お入りになって。お茶をご用意させますわ」
少し低めで、艶のある声。丁寧でありながら、空間を支配するだけの強さと自信を湛えている。
その一声で、彼女がこの劇団の主演女優であることを、誰もが疑わなかった。