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八話 なんだこの時間は!?

 雲雀のおかげで怪物の生態はわかった。

 そして生まれた場所の探し方も。


「あとは生まれた原因と、その対処か」


 精気が生物の形をとるような現象は聞いたことが無い。

 よっぽど特殊な事例か、あるいは……人間が関わっている可能性もある、かな?


「国が裏で行ってる非道な研究だとか、闇の組織が精気を操る方法を確立したとか。……昨日までなら正直わくわくしたけどなぁ」


 相当な被害が出ている中で妄想を楽しもうとは流石に思えない。


「むしろ自然現象であってほしい。国が相手なんて個人じゃどうしようもないし。……雲雀はどう思う?」

「えっ? なんですか?」


 話を振られた雲雀は両手を頬に当ててきょとんとしていた。


「す、すみません。聞いていませんでした」

「いや怪物が生まれた原因はなんなのかなって。……なんか顔が赤いけど大丈夫?」

「あっ、えっとこれは……!」


 じっと見つめていると、耐えられなくなったように雲雀が顔を逸らすように体を捻った。

 その態勢のままぼそぼそと何かを呟いている。


「あの、陰陽師が天職って、言ってもらえたのがですね。その……嬉しくて」


 そう言った雲雀は耳まで赤くなっていた。

 ……えっと、何気なく言っただけなんだけど。そんなに照れる?


 思わず黙ってしまったのをどう解釈したのか、バッ! と雲雀が振り返ってくる。


「お世辞なのはわかってます! 精気を動かすのが苦手で才能はないし! 今回も戦いに参加すら出来なかったし私だけだったらたくさん人が死んでいたし! それでも嬉しいんですよ!」

「ちょっと待て! 精気に関することは全部見通せそうな目を持ってるのに何言ってんの!? 陰陽師って精気の問題を解決する仕事でしょ!? その目があったらどんなことだってできるじゃん!!」

「で、でもそれぐらい師匠や阿真菜さんも」

「できんわ!」

「ええっ!?」


 雲雀の師匠はどういう育て方をしたんだ!? 

 それとも雲雀がストイック過ぎるのか!? 大地の精気を操るのが苦手というところがそんなにコンプレックスなのか!?


「少なくともあの怪物が精気で出来てるなんてわたしには絶対わかんなかったからね! いまの雲雀は謙遜が過ぎて嫌味なレベルなの! 雲雀の力は例えば――」


 そこでぐっと詰まってしまう。


 雲雀と同じ『大地に愛された者』を例えに出そうとしてしまった。

 しかしそれは前世の話だ。いきなりシャンバルバ諸島の大地王アスラ・クラバルタとか、黄金帝国の十王末席『暴君(ティラヌス)』なんて出されてもわけがわからないだろう。


 しかし『大地に愛された者』は、向こうだと王や英雄と呼ばれるような存在ばかりだった。

 記憶で見た彼らの勇姿は、苦しい記憶の中で『素晴らしい思い出』の一つなのだ。

 そんな彼らでも精気を直接に目で見て分析したりはできなかったのに。


「た、例えば……そう、雲雀はぁ……!」


 どうにかして伝えたい。

 その目も、目を活かせる雲雀の知識も、素晴らしいものなのだと。


 怪物との戦いに間に合わなかったのはただの速度の問題だ。

 人を助けるため一番に走り出したのは、雲雀なのだから。


 まるで創作の主人公のようだった。ああ、最初に読んだ漫画の主人公も、そんな風に人助けをするキャラだった。

 そんなことができる奴に謙遜されるとマジでもやもやするんだよこんちくしょうーっ!


 とにかく何か言おうとして、ごちゃごちゃした頭は。

 誉め言葉として知られる最上のものを、よりにもよって前世からはじき出す。



「雲雀は――大地に愛されている」



 ガシッと、頬を押さえる雲雀の手を掴み真正面から断言する。


「きっと、世界が雲雀を祝福してるんだよ。才能がないなんてありえない。……精気の操作なんてやってりゃ慣れるよ! わたしだって魔力ばっかり使いすぎて精気自体の扱いは下手だし!」


 言いたいことを言いきった。一息に全て叫んだせいで喉が痛い。


 眼前の雲雀はぽかんと口を開けている。

 その顔を見て、ようやく自分の頭に血が上っていたのだと気づいた。


 自覚すると一気に興奮が落ち着いていく。

 同時に自分の言ったわけのわからないセリフに頭を抱えそうになった。


 大地に愛されているってなんだよ。向こうだと鉄板の誉め言葉だったけど、それは大地信仰があったからだ。こっちだとなんかヤバイ宗教の人じゃん。


 雲雀が何も言わないのも辛い。羞恥心がゆっくりと襲ってくる。

 言い訳を考えながら、そっと手を離して下がろうとした時。


 逆にぎゅっと、雲雀が手を握り返してくる。


「阿真菜さん。――私、頑張りますよ」


 そして静かにそう言った。

 その目には決意のようなものが滲んでいて、表情はやる気に満ち溢れているように思える。


 ……とりあえず、誉め言葉としてしっかり受け止めて貰えたらしい。


「う、うん」


 そう頷くと雲雀は手を離して、木材へと座り直した。

 わたしも同じように座り直す。


「……」

「……」


 沈黙が流れた。

 わたしは色々とヒートアップしてしまったのが恥ずかしく手元の小石をいじり。

 雲雀は雲雀で無意味に天井へ目を向けてそわそわしている。


 なんだこの時間は!?


「あっ、あのさ雲雀」


 気まずさを紛らわせるために口を開く。


「な、なんですか?」

「あの、公園で言ってた伝えたいことって結局聞いてないなと思って」

「えっ!? 今!?」

「だって気になるから。怪物について三つ伝えたいことがあるって言ってたでしょ。まだ二つしか聞いてないよ」

「あっ、ああー、はい。そっちですかそうですかはいはい」


 手をわたわたさせていた雲雀が、一つ咳ばらいをする。


「ゴホン。でもあれはもう伝えてしまったんです。ほら、怪物が分解されるの見たでしょう?」


 ああ、あの光景のことだったのか。


「昨日、私が救急車へ乗せられる直前に怪物の体がああなったんです。姿が見えないっていうのも、救急隊員の人たちが怪物に全く注目しなかったことからの推測でした」

「じゃあまだ死んでいないかもっていうのは?」


 怪物の体があんな風に分解されたなら、普通に死んだと思いそうだが。


「私から見ると、精気の塊が精気として大地へ還っただけだったんです。だから何かの条件が整ったらまた現れるのかな、と」


 ああそうか。どうも見え方の違いというのは忘れやすいな。


「そういえば、あの公園の周りも調査した方がいいよね。っていうか雲雀はどうやってあの怪物と会ったの? 家があの近くとか?」

「それは――」


 その時、ブーッと雲雀の方から携帯の音が鳴った。それも一度じゃなく何度も。

 スタンプでも連投されてるのかな。

 「もう、何?」と眉を寄せて携帯を取り出す雲雀。


 その瞬間、びしりとその顔が固まった。


「雲雀?」

「阿真菜さん……」


 ギギギ、と硬い動きでこちらを向いて、携帯の画面を見せてくる。


 そこには『8:30』という時間が表示されていた。


 ……登校時間は8時20分まで。

 もう、朝の会が始まっている。


 一瞬間を置いて、雲雀と目を合わせる。


「「遅刻だーーー!!?」」


 二人して廃材置き場から飛び出した。


「あっ! 公園にランドセル置いたままだ!?」

「私もリュック置き去りにしてます!」


 魔力もないし、そもそも体がヘロヘロである。

 一時間目に間に合うかなー……。


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