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四話 伝えたいこと

 魔力。

 それは精気よりも遥かに万能な力。


 大地に流れる精気と、自身に流れる精気。その二種を練り合わせて融合することで発生させる強大なエネルギー。 

 単純に体へ纏うだけでも爆発的に身体能力を強化できるのはもちろん、か〇はめ波みたいに手からビームを撃ち出したり、地水火風といった自然を操ったり発生させたり。

 とにかく好きな漫画・小説に出てくるような技は大体試したし、大体できた。

 昨日実際に使ってわたし自身も危機感を覚えたほどに、この力は万能で、そして暴力的だ。


 ただ容易に生み出せるものではなく、緻密な精気の制御ができなければ自分の精気を淀ませて体が壊れるだけとなるだろう。

 しかし雲雀ならあっさりとマネできてもおかしくはない。

 どうしようどうしよう口止めしたら黙っててくれるかなと焦燥を募らせるわたしに。


「魔力? 作る?」


 わたしに肩を掴まれて仰け反っている雲雀が首を傾げている。


「あの、あれは何かを作っていたんですか? 単に精気が真っ黒に輝くようになったな、としか思ってなくて……というか精気とも違う力なんですね」


 困惑した表情の雲雀。

 それに対してわたしはそっと距離を取り、天を仰いでどさっと膝を着いた。


「わたしのバカ……ッ!!」


 早とちりして見えるのなら細かい利用法も全てわかると決めつけてしまった!

 結果的に魔力のことも、魔力が作れることもばらしてしまった!


「わたしの大バカ!!」

「あの、見たらまずかったんですね? なんかすみません」

「謝らないで! 悪かったのはわたしとわたしの頭!!」


 崩れ落ちて地面に頭を叩きつける。

 今日は朝っぱらから変に決めつけて暴走しまうことが多い。あの夢のせいか。きっとそうだ。

 ごりごり頭を痛めつける(強化してるので痛くはない)わたしに雲雀はおっかなびっくり声を掛けてくる。


「いえ、あの……実は、昨日もその魔力を見てしまっていたので」

「昨日……」


 思い出されるのは怪物を相手にしていた時。

 しかしあの時の雲雀はずっと気絶していなかったか。


 疑問に思い顔を上げると雲雀は気まずげにもじもじ指を組んでいる。


「あの、傷を治してもらった後に目が覚めていたんです。だから真っ黒でキラキラ輝く力を阿真菜さんが使っていたのは知っていまして……」

「嘘ぉ!? で、でも救急車呼んだときは気絶してたよね!?」


 見た目だけじゃない。精気の流れでも人の体調はわかる。

 どこか悪くしている人は、患部じゃなくともどこかしらの精気の流れが滞っていたりするものだ。

 直接傷を負っていればその箇所の流れが淀むのはもちろん、腰痛なんかは他の場所が痛んでいるせいで腰に影響を及ぼしていることがわかったりもする。

 そして意識のない時には恐ろしく静かに巡る。

 これは人体にとって当然の動きだ。


 そこを誤魔化すなんてよっぽど精気の制御に通じてないと――あっ。


 わたしが気づいた直後、雲雀が申し訳なさそうに言う。


「その、精気をちょっとアレして寝たふりを……」

「器用だなオイ! ていうか何故そんなことを!?」

「い、一応頭も打ってたから動かさない方がいいかなーと……いえすみません! 助けたつもりになって恥ずかしいとか他にも色々複雑な感情が渦巻いてて!」

「あの時にもう恥ずかしがってたの!? 結構余裕あったんだなぁ!?」

「だから今日はお礼をちゃんと言おうと、阿真菜さんの精気の痕を追って来たんです!」

「ストーカーみたいなことするね!? というか精気の痕を追ったってなに!? これでも痕跡は残さないようにしてたつもりだったんだけど!!」


 人や動物が大量の精気を扱えば辺りの精気も乱れることがある。

 戦場では精気術師がその乱れを追跡して敵を追うことがあった。だからこそ敵にばれないよう、乱れを整えて逃げるのは当然の手段だったのだ。

 逆に僅かな乱れを残して敵を誘導することもあったが。

 万が一にも誰かが追ってこれないよう辺りの乱れは整えてから逃げたはずだ!


 戦慄するわたしに雲雀は目を輝かせる。


「そうですね! 静かに、かつ迅速に整えられていました! まるでイルミネーションのようでしたね!」


 感動したように頷く雲雀はでも、と指を立てる。


「精気はどれだけ制御してもほんのちょっと外に漏れてるんです。師匠でも感じられないぐらい僅かですけど、わたしは目で追えるので人の追跡ぐらいは簡単です。それでも普通はすぐに周りへ溶け込んでしまうんですが、阿真菜さんの魔力は家につくまでずっと残っていました。あと真っ黒なので追いやすかったです」

「怖い!!」


 わたし専用の警察犬かよ!


「こ、怖い……?」

「いやショック受けたような顔されても! お礼を言うためとはいえ法で訴えられないような手段で家まで追ってこられるのは怖いって!」

「うっ、それは……」


 雲雀は口をもごもごさせて俯いてしまった。


「押しかけてしまったのは、すみません。ただその、精気を扱う人は私と師匠の他にいなかったので……ちょっと話を聞いてみたいと、思ってしまったというか」


 くそっ、確かにわたしも陰陽師がその辺を歩いていたら追跡していたと思う。迂闊に攻められない。


 そんなことを考えていると、バッと雲雀が顔を上げる。頬は赤く、両手を握りしめていた。


「……それと、あの……!」


 ツリ目気味の涼やかな瞳が大きく見開かれて真っ直ぐにこちらを見つめてくる。

 上気した頬も相まって男なら一目で恋に落ちてしまいそうな表情。

 そんな顔で一体何を言うのか。


 固まってしまったわたし。

 しかし何故か雲雀も口を半開きにして停止してしまった。

 お互いに何もしないまま数秒が過ぎて。


 雲雀がようやく声を上げる。


「――もう登校時間なので学校に行きましょう!」

「は?」

「それじゃぁ!」

「待てぇーっ!!?」


 顔を真っ赤にして走り去ろうとする雲雀の腕を全力で掴む。


「こんな中途半端な状態で学校なんか行けるか!! なに!? なんて言おうとしたの!?」

「すみません私にはまだ言えません! とりあえず今日は顔合わせということで後日また改めてお会いできたら――!」

「そんな失敗前提の婚活パーティーみたいな返事で納得できるかーっ!! ていうか力強っ!?」


 瞬間的に発揮できる力なら精気より魔力の方が遥かに高いんだぞ! 体格が違うとはいえなんでわたしの方が引っ張られるんだ!?


「こんなことしてたら学校に遅れますよ!?」

「姿隠して坂道を飛び降りれば二分もかからず着く! そして小学生を遅刻させたくなかったら早く何を言おうとしたのか言え! 家に来た時もう一つ伝えたいことがあるとか言ってたな! そのことか!?」

「もう一つ? あっ、そういえば」


 雲雀が何か思いついた様に力を緩めたことで、拮抗していた力が一気に無くなった。


「おわーっ!?」


 わたしは後ろへすっころび、ごっ! と後頭部が地面へと激突する。


「そうでした。伝えないといけないことがあるんです」

「話し出す前にこっちの心配してくれないかなぁ!?」


 頭を打ってるんだぞこっちは! 魔力で守ったから痛くもないけど!

 だがその程度で傷は追わないと確信しているのか雲雀はわたしの言葉を気に留めない。


「あの怪物についてなんですが、阿真菜さんは本当にご存じないんですね?」


 渋々立ち上がったわたしへ雲雀は念を押すように確認してくる。


「知らない。昨日始めて見たよ」


 前世ですらあんな影を纏ったような怪物は見たことが無い。

 大トカゲすら、でかいトカゲであるとわかる程度の生物らしさはあった。


「でしたら伝えたいことが二つ、いえ三つに増えました」

「多いな」


 疑問に顔をしかめるわたしへ雲雀は指を三本たてて眉をぎゅっと寄せる。


「まず一番重要な事から。あの怪物はまだ死んでいない(・・・・・・)かもしれません」



 そして、それと同時に。


 下の方からドン! というお腹の底を揺らすような重低音が聞こえてきた。


「!?」


 わたしと雲雀は同時に手すりへと走り寄り、町を見下ろす。

 原因はすぐに見つかった。


 住宅街を越えてずっと下の方だ。町を横断するように伸びる川に沿った、広い道路。

 そのど真ん中へ一台の車が天地を逆さに転がされていた。

 魔力で強化した目が、長く巨大な爪で抉られたような跡が車体へ刻まれているのを捉える。


 そんな、普通の追突や横転ではつかないだろう傷を負った車を、踏みにじるように上に乗る巨体が一つ。

 影のような色の巨体は、両腕を振り上げて咆哮する。


『オオオオォォォォ!!』


 それは――昨日の怪物と全く同じ姿をしていた。


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