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クラック・バック・ワールド  作者: 海山 鍬形
第一章

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十一話 見つかった

 学校が終わって、放課後。

 怪物が現れた川沿いの道路、その近くにある広場でわたしと雲雀は合流していた。

 川の方をむくベンチに座っている。


 今の時間は四時半過ぎ。

 なんとわたしの方の学校が終わってから一時間以上はたっている。


 ついさっき合流した雲雀は申し訳なさそうだ。


「すみません、お待たせしてしまって」

「しょうがないよ。高校と小学校の終わる時間が違うなんて、どうにもならないでしょ」


 こっちは六時間目までで三時半。

 だがなんと高校では週に一度、七時間目の授業が出てくるらしい。


 それを聞いた時にわたしは戦慄した。マジで? 高校ってそうなの? 遊ぶ時間なくならない? と。

 そんな理由だから遅くなった雲雀を責める気はまったくない。むしろいたわりたいくらい。

 わたしはわたしでお母さんにいろいろ伝えるために帰ったしね。不審者が逮捕されたこととか、友達と遊びに行く(という体で雲雀と怪物を探すんだけど)こととか。


「それよりも」


 話を変えるのと同時に、どろりと手の先から魔力を出し、霧のようにして周囲へ広げる。

 話し声が外へ伝わらないよう変質させたものだ。

 木の揺れや風の音に声を紛れ込ませて恐ろしく聞き取りにくくする。

 一応魔力の圧が周りに伝わらないように魔力自体の隠蔽もして、と。


「怪物について、話そうか」


 わたしが真面目な顔をすれば、雲雀もすっと背筋を伸ばした。


「はい」

「まず、あれは死んだってことでいい……んだよね?」

「体を巡っていた精気が完全に散っていましたから、そうだと思います」


 ……うーん?

 前から思ってたけど雲雀の語り方にちょっと違和感があるんだよね。


「ひばりって、もしかして怪物の精気を感じられてる?」

「え? はい」


 それはもちろん、という顔でうなずかれた。マジか。


「わたし、あいつから精気が感じとれなかったんだよね。生き物なのにそんなことあるのか!? って驚いたんだけど……ひばりにはわかったのかぁ」

「え!? そうなんですか!?」


 そっちも驚くんだ。

 それだけ普通に感じられてたってことかな。や、やっぱりそういう陰陽師だからか!?


「陰陽師としての修行で感覚が鋭くなってたりするとか!?」

「ま、まあちゃんと感じ取る訓練もしましたけど。でも元から怪物の全身がキラキラ光って見えてたので……」

「光って見えてた?」

「あっ」


 バッと雲雀が自分の口をおさえた。顔色が蒼くなっている。

 なに? なんかまずいことをもらした感じ?

 ていうか見えてた? キラキラ? 怪物の体はどう見ても真っ黒だったけど。

 そもそもなんで精気の話からキラキラとか……いや、まさか。


「精気を、目で見れる?」

「………………はい」


 長い沈黙のすえ、あきらめたように雲雀が肩を落とした。


 それは……驚きだな。

 精気はあくまで力の流れ。吹く風のように、目で見ることはできない。

 だから感じ取ること自体が難しいのだ。前世の世界でも、地の恵みを熱心に信仰するものたちですら、精気術士になれるのは一握りだった。


 それが見えるようになるなら精気を完璧にコントロールすることすらできそう。

 あ、だからあの式神も使えるのか!?


「へぇー、陰陽師すごいね!」

「これはまあ陰陽師というかなんというかあはは……」

「なんて?」


 ごにょごにょ早口でなにか言ったかと思うと、雲雀はすっと頭を深くさげてきた。


「阿真菜さん! このことはどうか誰にも言わないでください……!」

「え、ああ、式神みたいに秘密ってこと? わ、わかったから頭はあげて。目立つ」

「本当にお願いします! 師匠にバレたらどうなるか!」

「わかった! わかったから絶対言わないから! すがりついてこないで!」


 音はごまかしてるけど姿はそのままなんだよ! 小学生に高校生が必死で迫ってる絵面はヤバいって! ちょっと変な目で見られてるって!

 というか雲雀の師匠ってそんな怖い人なの!?




 やがて雲雀が落ちついて、ようやく話を再開できた。


「本題に戻ろう」

「はい」

「まあ本題って言っても、まだ怪物が死んだことの確認しかできていないんだけど」

「すみませんでした」


 雲雀はさっきと別ベクトルでしょげていた。

 わたしが迫ったとはいえ自分で口を滑らせて、てんぱったのだ。今回は何もフォローは入れないからね。


「問題は、あの怪物が同じやつなのか、それとももう一体いたのかだね」


 怪物が一体だけなら、完全に消え去ったのだからあれで終わり、のはず。

 逆にもう一体いたのなら……それはつまり、今日と同じようなことがこの先何度もおこる可能性があるということ。


「ひばりはどっちだと思う?」

「今朝のは昨日のとは別の個体ですね」


 怪物の死を断定したときのように、きっぱりと答えが返ってきた。しょんぼりした雰囲気も一気に消え去っている。


「それって、やっぱり精気を見てわかったの?」

「はい。精気は生物それぞれによって違います。あの怪物は全身が光っていたので見えづらかったですけど、流れも質も違いました。今朝の個体の方が、昨日の個体より宿している精気の量が多かったですし」


 すごいな、そんなに細かくわかるんだ。

 わたしだけだと正体不明の怪物が現れた、としか思えなかったところだ。

 でも、そうか。

 あれは二体いた。ということは、これからも現れるコースに突入したわけか。


「……さすがに毎回助けたりはしてられないよね」


 わたしだって自分の生活がある。

 少年漫画の主人公じゃあるまいし、授業中に抜けだしたり寝ているときにも勘づいて起きたりはできない。

 ならどうするか、と考えると……やっぱり、次からは警察に任せるっていうのがいいのかもしれない。


 怪物は普通の人には見えない。

 でも暴れればその周囲にあるものは壊れていく。

 もし今朝の怪物をわたしたちが倒さず、警察や消防が到着していれば。


 どれぐらいかかるかはわからない。でもいつか透明な何かが暴れていることに気づくだろう。

 いくらありえなくても現実に被害は出ている。対策を立てるようになるかもしれない。


 でもそれは、あの時に襲われている人や、その後に犠牲になる人々を見捨てるのと同じ。

 それを許せるのか。

 見えないところで起こっているならしょうがないと、納得できるのか。


 うん、ムリ!

 あんな怪物が暴れてるところで穏やかに生活とかできるわけない!

 というかそもそもお父さんやお母さんが巻きこまれる可能性だってあるし! 見逃す選択肢はない!


 でも、じゃあ他に考えがあるかというと……それこそ、警察にいって魔力を見せて、この世には不思議なものがあると納得してもらうとか?

 一番いいかもしれないけど、両親がいろいろと心配するし、自由はなくなりそう。


「阿真菜さん、さっきから百面相してますよ」


 おっといけない。つい一人で考えこんでしまった。


「いや、怪物がこれからも現れるとしたらどう対処すればいいかなって」

「そうですね……原因を潰したらいいんじゃないでしょうか」


 原因。

 ……そういえば、どうして怪物が現れたのかはちゃんと考えたことがなかった。

 なんか陰陽師もいるから怪物もいるんだなぁぐらいに思ってたな。


「ほら、怪物が現れた時に精気が酷く乱れていたっていう話をしたでしょう? 実は、今朝も同じくその乱れが見えたんですよ」

「今朝も!? いつ!?」

「えぇと、家を出た時なので七時を過ぎたぐらいです。この道路らへん、というか川の精気がかなりの範囲で膨れ上がったり逆流したり。それで焦ってしまって、阿真菜さんが何かを知っているかとお家に押しかけてしまって……」


 ああ、その時はまだわたしが国のエージェントかなにかだと思ってたんだっけ。


「最初は怪物がその乱れを起こしていると思っていたんです。でも、あの怪物は命の危機に陥ってもこの辺りの精気を吸収する程度でした」


 たしかに、炎は強かったし回復も驚いたが、精気を広範囲で操るような真似はしてこなかったな。


「つまり怪物はむしろ、あの精気の乱れを起こした何かによって生み出されたんじゃないかと」

「なるほど、その原因を見つけてどうにか対処すれば、怪物を一体ずつ倒さなくてもいい!」

「そういうことです。そして私の目はそういう精気の異常を見つけるのがとても得意!」


 雲雀が自身の目の横でピースをする。


「原因があればすぐに見つけてみせますよ!」

「さっき目のことは言っちゃいけないとか……」

「阿真菜さんにはもうバレているので!」


 開きなおりおった。

 まあでも自慢するだけのことはあるぐらいにすごい。魔眼みたいでかっこいいし。


「実際、その目ってどれぐらいまで精気が見えるの? わたしが精気を感じられるのって、半径五十メートルぐらいなんだけど」


 ハ〇ター×ハンターの円みたいな感じだ。調子によって二~三メートル増減するがな。

 このネタ言っても雲雀には伝わらないかな。


 もしかして数キロ先まで見えるのかなぁ、と考えていると、雲雀はパッと手を広げた。


「見えるところ全部です」

「――え」

「町を見渡せるなら、町中すべての精気の動きが見えます。あ、でも建物の中は見えづらいですし、地下は精気が強いので見分けたりはできませんが」


 け、た違い……だな。

 そんなことがあるのか。あっていいのか。

 精気の全ての動きを認知できる。それはもはや、大地を支配するのと同じじゃないか?

 前世の世界にいたら神の目と評されるような――破格の才能。


「……ひばりは、大地に愛されてるんだね」

「え?」


 やばっ、つい前世の褒め言葉を使ってしまった!


「いやなんでもない! さあ原因を探しに行こう! そんなにすごいならすぐに見つかっちゃうね!?」

「あ、は、はい! 一瞬で見つけてみせますよ!」


 そうして怪物の原因探しが始まった。




――一時間後




「見つからないね……」

「すみません……!」


 わたしたちは、上戸市の北側にある山、その奥の窪地で座りこんでいた。

 精気の異常を探し続けていたらこんなところまで来てしまった……。



 自信まんまんの雲雀といっしょにわたしは町の中を探索した。

 怪物が暴れていた川の近くを中心にして、通りを歩き、入れる建物には入り、商店街やお店でちょっと買い食いをしつつ歩き続けた。

 商店街の串カツ屋で、暑そうな黒コートの男の人? がめっちゃ串カツ頼んでてうらやましかったな。あんなに食べてみたい。


 そうして町の中を歩いても異常は見当たらない。

 さらに魔力を使ってマンションの上にのぼり、町を見わたしたりもした。

 それでも見つからず、川に沿って東の梅湯町だの南から西の広締(ひろじめ)通りだのまで走りまわって――だが、精気の異常はどこにもなかった。


 だから今度は一体目の怪物が現れた北の山に来たのだ。

 しかし山の中は豊富な精気と生えまくる木のせいで雲雀の目が十分に機能しなかった。

 魔力で雲雀を強化してがんばってもらったが、結局こっちでも異常は見当たらない。


 結果、雲雀は山奥で座りこみ落ちこんでしまっていた。


「せっかく役に立てると思ったのに……」

「いや落ちこまなくていいって。こんな探し方ひばりにしかできないんだから」


 というかわたしの方が役に立ってない。

 怪物の正体を暴いたのも、発生原因を推測したのも雲雀だし。


 そう慰めながら、ふとまわりに目をやる。


 わたしたちが今いるのは、山の中のゆるやかなくぼみの、その底だ。

 わたしの足で十数歩しか歩けないぐらいの狭い平地に落ち葉が積もり、生い茂った木々の間から差す僅かな日が穏やかに包んでいた。

 とても精気が豊富な場所だ。

 でも偏っているのとは違う。


 ここを中心に精気が湧きあがるような……前世でいう、聖地に近い。


 とにかく周りより精気の様子がおかしなところを探して、偶然見つけたのだ。

 とても心地よい気分になる場所だ。ここを発見した人もそう思ったのか、窪地の周りには螺旋を描くように作られたスロープや手すりがあり、行き来しやすくなっていた。


 ただ最近は手入れされていないっぽい。

 木が伸びて隠れてしまっていたし、手すりにはつるや雑草が絡みついていた。


 それともう一つ、目を引くのは――周りに建てられた多くの祠。


 三角屋根のついた古い木造りの祠が、窪地の斜面へ点々と、この場を囲むように建っている。

 こっちもやっぱり手入れはされていないようだ。崩れているものもあった。


 というかそもそも人自体がここへ訪れていないのだろうか。

 降りるための道も、自然にできたのか人が手入れしたのかもわからないぐらいに細いし。

 精気を感じられなければわざわざ見に来ることもしなかっただろう。

 静寂に満ちた場所だった。


 そんな静寂の中で落ちこんでいた雲雀だったが、やがてぐっと手を握り立ちあがる。


「……なにか、別の方法を考えた方がよさそうですね」


 情けなさそうな表情で雲雀は言う。


「もしかしたら地中の深くに異常があるのかもしれません。それだと私は見れないので……ううっ」

「はいはい、落ちこまない。とはいっても地中まで探す方法なんて……あ、そういえば使える魔術があったかも」

「阿真菜さん万能ですね……」


 えーいしょぼくれたままこっちを見るんじゃない。そろそろめんどくさいぞ。


 雲雀の視線を無視しつつ前世の記憶を掘りかえす。たしか広域を探せる魔術があったはずだ。

 えーと、名前とやり方……ああ思いだした。


「『波打ち』だ。そうだそうだ」


 魔力を広範囲に飛ばして、触れた場所の状態を確認する魔術。ソナーみたいな感じだな。

 数キロぐらいならこれで調べられるはず。地中の中も魔力はお構いなしに通るし。


 魔力は……足りてるな。少なくとも一回は打てる。


「よし、じゃあ打つよ」


 言いながら両手で丸を作る。

 魔力の一部を丸の中へと流れこませ、その中を魔力で満たしていく。数キロ先まで広がるよう、大量に、ひたすらに、圧縮しながら。

 ビリビリと周囲の空気が震えはじめる。子供(わたし)の手で作った小さな丸の中で圧縮される魔力は、その力の余波だけで周りを脅かしていた。

 ……聖地みたいな場所でやることじゃなかったかも。


 ただここまでくるとやめられない。圧縮している魔力の性質は既に別のものへと変わっている。


 その性質は波。

 精気のかたよりにのみ反応するソナー。


 十分に圧縮して、その波を解き放つ。


「『波打ち』」


 魔力が、音もなく山を通り抜けた。


「わっ」


 雲雀が驚いた様に目を隠す。一瞬で薄く広がった魔力が、その目には薄く黒い布のように見えているのかもしれない。

 先に言っておけばよかったかな。


 そう考えている間に魔力はもう山のふもとを越え、南の町中にまで到達していた。

 とはいえ町中はもうほとんど探したし、反応としては北、東、西辺りに集中して、と。


 そう、考えた時。


 町中から、膨大な精気が突如として吹き上がった。


「っ、な……!!」


 なんだこれは!? 小さな異常どころじゃない! 山一つ……いや、大陸の一部がそこにいきなり現れたような……!?

まさか怪物が現れた時に見えたっていう、精気のうねり!?


「どうしたんですか!?」

「わかんない! 町中でいきなりものすごい精気を感じて……!!?」


 畳みかけるように事態が動く。


 いきなり現れた膨大な精気が――こちらへ向けて、恐ろしい速度で移動し始めた。


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