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秀才と猫 下

事務所に帰るとオサムが待っていた。

「にゃ~ん。」

『おかえりイサム、淑女(レディー)も。』

オサムの熱烈なお出迎え。

「ただいま。」

この時、誰も思っていなかった。

大事件が起きるとは…ね。


翌日、オサムを風呂に入れ終えて乾かしていると窓の外にメス猫が群がっていた。


「うわっ!なんだなんだ?!また風呂に入れたのか!早く紙袋被せてやれ!」


ヨゾラは外の景色に嫌気がさしているようだ。


「それが…」


バラバラになった紙袋の覆面を見せるイサム。


「え?!破れたのか?紙袋が?」


その覆面はギリギリ復元できるくらいだが、新しく作り直した方が早かった。


「そうなんですよ!もうどうしたらいいか!」


ヨゾラは考えた。

テープやのりで繋ぎ合わせれば良いのではないかと思いついた。


「セロテープで貼るのはどうだ?」

「セロテープ切らしてます!」

「のりもまさか…」

「切らしてます!」

「どうしたことか…」


オサムは破れた紙袋の覆面を見て呆然としていた。


「オサム!これはその!」


イサムがオサムに必死で言い訳をしようとしているのを放ってヨゾラは自室に戻った。


紙袋をまとめた箱を開け、同じ紙袋を探していた。

「この箱だったはず…あ!あった。」


その箱の下の方に入っていた。

中に小さな箱が入ったままで。

中の箱を置いて紙袋を持ってイサムの元に戻った。


「ほらオサム。新しく作り直したからこっちにしてくれ。な?」


オサムに新しく作り直した覆面を見せたがまだ怒っているようだった。


翌日、また違う紙袋で覆面を作りオサムに与えてみた。

「フシャーーー!!」


新しい覆面は呆気なく破られてしまった。


「そんなぁ…」


イサムはしょんぼりと落ち込む。

作り直した目出し帽を眺めていた。


「ダメだって?」


ヨゾラはイサムの頭を髪がくしゃくしゃになるほど強く撫でた。


「ほら、にっこり笑い飛ばしちまえよ。そうすりゃ、名案が浮かぶはずだぜ?」


ヨゾラは下手っぴな笑顔を見せた。

不覚にもイサムは笑ってしまった。


「ふはっ!すごい顔してますよ!」


ヨゾラは悪い顔をした。


「あと何日かしたら救世主が来るさ。」


イサムはヨゾラの言葉の意図はわからなかった。

必ず助けに来る人がいるのだけは18のイサムでも理解できた。


次の日もまた次の日もオサムの紙袋を探した。


「これはかっこいいよ?」

『弟よ悪いが絶対ごめんだぜ!』

「だからなんで僕が弟なんだよ!」

『いつも気弱で情けないから俺が守ってやらねぇと…いつ泣き出すかわからねぇからあn…兄貴は不安なんだぜ?』

「優しいねぇオサム。」


イサムは泣き出した。

それを見たヨゾラは慌てたのかわからない。


「殺しの稽古でも…たまには見てやろうか?それともどこか痛むのか?」


どんな顔をしてそんなことを言ったのかわからない、わからないが慰めようと一生懸命に絞り出した言葉がそれだったのだろう。


「え?稽古つけてくれるんですか?」


すぐ涙が消えた。


「3日だけな!あとは面倒臭いんだ!」


突然キレるけど、師匠が教えてくれるとなるとやはり大分嬉しいと感じる。


ボロボロになったマネキンに刃を向けて切りつけた。


「そこじゃねぇ。どこ狙ってんだ。」

「首です。」

「お前の刃は私のと違う。それだと毒がないと仕留めらんねぇ。」

「え?でもヨゾラさんはこれで…」

「私のは腐敗を進めるバクテリアを含む毒を血管に刺して仕留めてる。やるならざっくり切らないと死なない。」

「毒?!」


3年間知らなかった。2本持っている武器のうちどちらかに毒が付いている。絶対敵に回したら即死だ。


「どうした?止めるのか?」


姿勢を蟷螂のようにし、マネキンの首を切り裂いた。


「なかなかうまくやったな。そのまま続けろ。」


体勢を崩さずそのまま何度も何度も切りつけた。


あっという間に三日が経とうとしていた。


「今日は私と切り合いだ。先に相手の服の布を切り取った方が勝ち。私はハンデで武器は1本しか持たない。お前は何をいくつ使っても構わん。いいな?全力でかかって来ねぇとぶっ殺すからな?!」

「はい!」


イサムは2本の鎖鎌を手に取った。


「本気かお前…私相手に鎌だと?ナメてんのか?」

「僕はクサグモ、貴女の一番弟子ですよ。貴女こそナメないでください!」


ヨゾラはケタケタと悪女のような高い笑い声を上げた。


「クサグモごときが…女郎蜘蛛の弟子を気取ってんじゃねぇ!!」


本気で切りかかるとヨゾラは消えた。


(どこに消えた…?目眩ましも使われてない…)


天井から視線を感じた。

獲物を狙う蜘蛛の目が見えた。


(そうか!ここは女郎蜘蛛の巣だ…!)

「どうした?攻撃しないのか?」


元の位置に降り立つヨゾラは異様な威圧感を見せていた。その変化に思わず後ろに下がった。ヨゾラはこれ見よがしに詰め寄ってきた。


「後ろは壁だ!構えろ!切れ!斬れったら!!イサム死ぬぞ!」

「切れません…斬れませんってば!」


ヨゾラは完全に油断してイサムは出来ない奴だと判断し、攻撃をしなかった。


「掛かりましたね?」

「なっ!」


ヨゾラの黒いタートルネックの首部分に掛かっていた髪が少し切られてしまった。


「ネック部分の布を少し貰おうとしたのに!」


イサムは一気にヨゾラに詰め寄ってネック部分の布を狙った。


「やんちゃ坊やだなぁ…でもね!男なら女に詰め寄って良いとかないからねっ!!」


紙袋を抱いたリュースーが武器を片手に乱入し、イサムの鎖鎌を横に弾きヨゾラを守った。


「リュースーさん!」

「もう終わり?」

「降参です。」

「よろしい。」


ヨゾラはリュースーの頭を叩いた。


「ったく…例のものは?」

「ここにあるよ。」

「悪かったな。」

「お代は君のセカンドキスで!」

「バカ言うな刺すぞ?」

「オレ初めてだから…優しくしてね…?」

「バーカ!そっちじゃねぇよ!」


何の話なのかピュアなイサムには理解できなかった。


「ヨゾラちゃんのウィスキーね。」

「おう。」

「はい。イサムの。」


リュースーはイサムに紙袋を渡した。その紙袋に穴を空けてオサムに差し出した。


「はいオサム…」


次の瞬間、オサムはすっぽりと紙袋に頭を入れた。


「えっ、なんで?!」

「リュースーの店の匂いだろ。前回のもリュースーが持ってきたやつで作った。」

「匂いかぁ…」


イサムは、ヨゾラの考察を聞いて納得した。

そして微かにリンゴのような匂いがした。


「多分カルヴァドスの匂いかな。よく提供するからね。オサムはわかるネコチャンだね。」


オサムはリュースーにすりすりと身体を擦る。


「私もオサムが来たばかりの頃は飲んでたな。」

「あぁ、あのリンゴの蒸留酒!」


イサムは将来、カルヴァドスを飲むいい男になりたいと思った。


「でもヨゾラちゃんはスコッチだもんね。結構注文してくれてたし…。それに…ね?」

「ああ、私の恋人はスコッチだからな。」


ヨゾラはリュースーの肩を軽く叩くと嬉しそうに


「覚えていてくれて嬉しいぞ。」


と言っていた。

それを聞いたリュースーは優しい笑みを溢し、


「じゃあね、またbarにおいでよ。カッちゃんも待ってるからさ。」

「おう、気を付けてな。」


リュースーは帰った。


「私は寝る。お前も寝ろ。」

「はい、おやすみなさい。」


自室に戻り、布団に入った。


「オサムはヨゾラさんの本音を知ってる?」

『全部じゃないけどな。俺はわかってるつもりだ。』

「君はいったい何者なの?」

『俺はあくまで猫だ。少し美しすぎるがな。』

「おやすみ…オサム…」

『おやすみ、イサム。いい夢を。』


オサムはイサムが深い眠りに堕ちたことを確認し、ヨゾラの部屋の前に静かに座った。


「いつも貴女を見守って居ますよ。今の(わたくし)にはそうするしかできません。俺の美しく気高い毒の王女様(プリンセス)、俺の心はいつも貴女のモノです。」

「愛しい王女様、(オレ)の大切な人。どうかこんなにも如何わしい男を赦して。可愛い貴女を置いて逝った男を愛さないで。貴女から笑顔を奪った男を赦してください。」


夜な夜な静寂の事務所に謎の声が響いた。

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