第7話
「それは、なんだろう、か?」
「何か関係がありそうなのかしら」
「我が社の製品に何か関係する事なんですかっ!?」
「割り込んで済まない。その話、詳しく聞かせて貰いたいんだが。どうも嫌な予感がする」
「おう。なんだなんだ」
視線が一斉にアイーダへ集まり、公安局本部で作業の様子を見ていて、発言を聴いていた課長にまでそう訊かれ、彼女は困惑顔で素早くキョロキョロ視線を動かす。
「ああっ、過去一アイーダさんが注目されていますっ。名探偵ぶりが世界にばれてしまうかもですねぇ!」
「もっと注目されたことあったっつの。あと名はやめろ名は」
口元を覆って目を輝かせているナビに、アイーダは軽くチョップを入れつつ、電脳通信で例の仕込んだものを回収するように指示した。
「結局アイツの望み通りに動かなきゃならねえのか。手前も人の都合を考えろっつの」
「なんだかんだ人が困りそうだと放っておけないところ、ナビちゃんは大好きです」
現実世界の口では、ちょっと話をまとめるから待て、と言いながら電脳通信内で悪態をつくも、眼が全く怒っていないのを見て、ナビは穏やかに微笑んで見上げる。
料亭のアジトから回収したデータをナビが確認している間に、アイーダは午前中に起きた出来事と知り得た情報を話した。
「ま、具体的な事は何にも分かんねえけどな」
「……それで具体的な内容は現在進行形で解析中、なのだろう? 彼女のことだ。ただの盗み聞きで済ませるはずがない」
話の中でのアイーダに対する扱いの悪さに、口をへの字に曲げていたカガミだったが、1つ息を吐く挙動をして気持ちを落ち着けてから、茶々も入れずに静かだったナビを見てアイーダに訊ねる。
「ご推察の通りだぜ。ナビ、あとどのくらい掛かんだ?」
「3分ですかね。高画質にしすぎて解凍に時間がかかるんですよ」
「ギリ確認出来るぐらいにしときゃ良かったのに」
「それだとなんか負けた気がしてですね」
「ええ……」
「なんと勝負してんだお前は」
「それはそうと、良く分かりましたねカガミさん」
「君ともそれなりの付き合いだから、な。そのくらいは」
「ふーん」
親しみをもってカガミはぱっと見では分からないレベルで微笑んだが、ナビは本当に一切関心がなさそうな様子で現実もアバターも視線すら動かさなかった。
「もうちょっと付き合いよくても良いんじゃねえの? 別にお前だってこいつのこと信用してんだろが」
「だとしてもそんな義務はないのでーす。というか作業完了なので閑話は休題なのです」
ちょっと悲しそうに目線を下へ向けるカガミを見た、アイーダからの助言を突っぱねつつ、解凍し終わったデータを公安局へと送った。
公安局の規定通り、部外者であるシアワセ・ゲームス社員を部屋から出し、現場のアイーダ、ナビ、カガミ、ツルギ、医療スタッフの4人と1体、公安局内の司令室にいる課長が秘匿回線の電脳通信に参加する中、
「まずはこちらをご覧ください」
各々のアバターが座る、半円形のソファーの前にあるモニター横にナビが立ち、それを手で指し示して映像を流す。
その映像はというと、大昔のアニメーションみたいな画質の白背景に、太くて赤い点線が3本表示された後、やたらおめでたそうなファンファーレと共に、ぶっとくて赤い文字が起き上がってくるものだった。
その奇怪な演出に、アイーダはずるっと尻を前に滑らせてずっこけ、ナビ以外の参加者は全員困惑の表情で顔を見合わせる。
しかし、そこに表示されているのは、オールドウェストランド内務省宣伝局長・ウズマサ・カドハル、という男の名前だった。
「ウズマサ、だと……?」
「またとんでもないビッグネームが出てきたわね」
「ふむ……」
ウズマサは『女帝』の重臣に当たるため、素っ頓狂な空気感が即座に吹き飛んで、課長ですら動揺している様子で顎を撫でた。
「まあ、クーデターだけならこちら側になんの義理もないんですが、その手段の中でそうもいかない部分がありまして」
そこで一呼吸置いたナビは、しっかり記録して文字起こしをするように念を押す。
アジト内のスタンドアロン端末から、人間経由で潜りこんだソフトウェアが回収した、ウズマサの計画の全てをまとめ、モニターへスライドとして表示させた。
まず手始めに、〝機械仕掛けの悪魔〟の手足である探偵を丸め込み、その破滅的な能力でオールドウェストランド政府をクラッキングし、『女帝』の権威の源である絶対性を削ぐ、というプランを立てたが、それはアイーダの勘を舐めていて失敗した。
それは想定内で、本命は今回実行されているプランBの〝シナリオ・ダイバーズ〟だった。
「まあ、失敗の原因をナビちゃんのアルティメットな性能だと思ってる様なのですが。原因究明も適当ですし、多分、今まで失敗したことがないんでしょうね」
「余計な話は良いから次行け。無駄にCMで引っ張るバラエティか」
〝シナリオ・ダイバーズ〟とは、〝RーDIVER〟の欠陥である、人間の脳を調律する機能を悪用し、それを並列化する事で被験者を生体コンピュータにしてオールドウェストランド政府をクラッキングする、という計画の事を指す。
それが成功した後、今度はネットワーク上に政府への敵意を煽るデマを流し、自国民の世論を操作して『女帝』への反感を根付かせる。
さらに、自国内にいる社会的弱者を騙して〝シナリオ・ダイバーズ〟を再現し、政府を再びクラッキングすると同時に、街頭モニターなどを使って光の刺激を用いた技術により洗脳を行い、兵士一般人問わずクーデターの手駒とする。
最終的に、それをウズマサ一派がマッチポンプ的に鎮圧することで、絶対性による人心掌握力が失われた『女帝』に成り代わって元首の座に座る、というのが計画の全貌だった。
「で、今絶賛攻撃中なわけ――じゃねえか。そうなら公安の連中が掴んでるはずだしな」
「ネットワーク監視部から、国外への通信量は表裏とも平常通りと報告が上がっている」
「まあでしょうね。ここの会場がネットワーク接続関係の処理をするはずだったようなので、システムが実質スタンドアロン状態ですから」
「つまるところ、アイーダさんとナビさんを巻き込もうとしたのが運の尽き、か」
「ですねえ。よりにもよって要の部分が機能不全になってざまあみろ、なのです」
分散しておけば良かったものを、とナビは呆れた様子でため息交じりにかぶりを振り、お前はどっちの味方なんだ、とアイーダにつっこまれた。
「あのクリスマスの一件もだけれど、本当引きが強いというか」
「こんな嬉しくねえ引きなら弱い方がいいんだけどなぁ……」
「名探偵の宿命ですねぇ。事件が追いかけてくるのです」
「全く、どこの誰だか知らねえがろくでもねえもん背負わせやがって」
眼を細めて物知り顔で頷くナビに、アイーダが上の方を見てぼやいたところ、
「あなたがサカイダ・メイ?」
「あ?」
何の前触れもなく、その場所にボックスノイズが発生し、盗聴したときに聴いた少しトーンが低く平版な少女の様な声が、高速なフラッシュと共にアイーダに語りかけてきた。
「な――」
「えっ――」
「ア――」
「!?――」
「無駄無駄無駄ァ! なのです!」
その瞬間、アイーダ以外の全員が強制的にログアウトさせられた、と思った瞬間にナビが威嚇する猫みたいな形相で即ログインしてきた。
またナビを直ぐにキックし、彼女が瞬時にログインして来る、という事を10回程やって、埒があかない、と謎の女とおぼしき人物は判断してやめた。




