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第4話

 ソフトはハードのローンチタイトルである、太陽系を舞台にした、レトロフューチャーなスペースオペラSFアクションRPG〝ロマン・スペース・ジェット〟だった。


 まずチュートリアルである、いくつか樹のように枝分かれしたプラットホームがある、スペースコロニー内の宇宙港に、旅客宇宙船でたどり着く所から始まった。


 まず自分の身体を確認すると、腰の辺りのジョイントから上下に分かれる、黒いウエットスーツの様な服装の上に、周りにいる他のプレーヤーと同じ、兵士が使いそうなカーキ色のジャケットを羽織っていた。


「うわぉ。初手からおっそろしい臨場感ですねえ」

「……。いや、なんでお前の声がすんだよ?」


 しばらくナビのあめ玉を転がす様な声が聴けない、と思っていたアイーダは、しれっと電脳通信してくるナビに少しの間キョトンとした後で訊ねる。


「なんやかんやで介入しているのです。サイバー空間でアイーダさんを守るのは私の義務ですのでー」

「別にそんなこと課した覚えねえけど」

「な、の、で、す!」

「はいはい。そういうことにしといてやるから、濁点付きみてえな声やめろ。多分ばれたらやべえけどこれ大丈夫か?」

「言うまでもありません」

「ああそう」

「にゅふふ。私を誰だと思っているのです? そうです! おはようから次のおはようまで、あなたの全てを守りたい系ウルトラスーパーアルティメット美少女型究極人工知能っ! ナビちゃんですっ」

「ほーん。まずは基本のアクションからか」

「ぬわーん。話聞いてくださいよー」


 まるで現実のような臨場感にナビといえども、かなりテンション爆上げでさらさらと口上を長々喋ったが、アイーダは話を聞かずにグーパーしたりして感覚を確かめていた。


「そういや、この手のゲームってキャラメイクするもんだ、って聞いたけどやらねえんだな」

「とりあえずベータテストなので、オートでデフォルメ入れるだけの簡易式みたいです」

「ほーん? なこと説明されたっけ」

「プログラムコードに指示書きがあるので」

「……今更だけどマジでやりたい放題だなお前」

「セキュリティがコードを全部変更できるぐらいガバガバなのが悪いのでーす。あとやることなくて暇ですので」

「開発中だから手心加えてやれ。そこは」


 ゴリゴリにクラッキングしているナビをたしなめつつ、回避動作まで終わったところで、次はこのゲームの主要な要素である、ビーム銃の扱いパートに入った。


 だが、現実でも戦闘センスが壊滅的なアイーダは、ゲームの世界でも極めて下手くそであるため、室内射撃場の動かないでかい的にすら当てられなかった。


「……言い訳じゃねえんだけど、さっきからずっと、チキチキ、って感じの変な音がして集中出来ねえんだよ。言い訳じゃねえけど」


 アバターが出ていればニヤニヤしているであろうナビへ、アイーダは赤い顔の口をへの字に曲げて言い訳をする。


「あとちょっと頭いてえんだよな。どんどんひどくなってる気がする」

「あらら。中止しますか」

「おう。えっと、ログアウトっと……」


 だが、言い訳でなく本当に頭痛が我慢がまん出来なくなっていたアイーダは、空中にウィンドウが表示さるメニュー画面を開いてログアウトを選択した。


「あれ? 反応しねえな」

「バグですかね? とりあえずナビちゃんがちょちょいと直しますね」

「任せた」


 だが、波紋の様なエフェクトが出るだけで、何も動かなかったため、勝手にバグ修正作業を始めたナビは、


「あー、なんかコードが消えちゃってますね。ログから引用して復旧させまーす」


 ログアウトの動作をするプログラムが無い事を発見し、それを最初に取得したそれのデータから書き込み直した。


「はいはい。これで行けるはずです。不具合の強制ログアウト、と管理システムには記録されますのでご安心を」

「サンキュー」


 ナビが仮想環境で動くことを確認した後、アイーダへ作業完了を告げると、彼女はさっさと選択してフルダイブから目覚めた。


「いくらベータテストつっても、なんでこんなのが放置されてんだよ……」

「納期がやばやばとかで誰かやると思って、〝誰も! 誰も確認していないのである!〟説ぅ」

「恐ろしい集団心理ってやつか、あり得るな」


 装置を外すとポッドの強化ガラス製の蓋を上げ、チェアから立ち上がったアイーダは、胸を反らす動きで身体を伸ばしながら、自身へ寄ってきたナビのおちゃらけた発言に頷いた。


「おっちゃんの娘さんに申し訳ねえな」

「仕方ないですよ。健康第一なのです」


 申し訳なさげな苦い笑みを浮かべている探偵が、助手に励まされながら箱の外に出たところ、


「なっ、なんだぁ?」


 ガスマスクのような覆面を被った、フード付きのロングコートを着た全身義肢の警備員6人にアサルトライフルの銃口を一斉に向けられた。


 近くにいたシアワセ・ゲームス社員の男性スタッフは、急に集まってきたと思ったら、防護盾の中から長方形の箱に折りたためる小銃を展開した警備員を見て悲鳴を上げた。


「後ろを向いて壁に手をつけ」

「まてまて、とりあえず説明をだ――ぐえっ」


 素早く両腕を挙げつつ対話を試みようとしたアイーダだったが、命令した男に容赦なく腹をストックで小突かれて崩れ落ちた。


「わーっ! 何するんですかーっ」


 ナビはくの字に体を曲げて苦しむアイーダに覆い被さって、武装集団をにらみつけるがあっさり引っぺがされて転がされた。


「まーたこれかよ……。――ナビ、こいつら止められねえか?」

「全員スタンドアロンなのでどうにも……」


 乱暴な手つきでうつ伏せにされたアイーダは、ジタバタするナビと並べられて結束バンドで後ろ手に縛られつつ、電脳通信でナビに訊くが、彼女は悔しそうに声を絞り出す。


「カガミも連れてくればなあ……」


 足首と膝下も結束され、元いた箱に放り込まれたアイーダがそう嘆くと、うなじに閉鎖装置を付けられネットワークから遮断された。


「ですねえ。ナビちゃん無力ですいません……」

「気にすんな」


 1人と1体がため息交じりに言ったところで、ガラスが粉砕される派手な音がして、すぐ後に金属が落下してきた鈍い重量音が響いた。


「公安だ……っ! 武器を捨ててその場に伏せろっ!」


 丸くなったガラス片が落下する音に混じって、素朴だが強い意志を感じる低い女声が、特殊警棒を抜きながら鋭く武装集団へ告げる。


 片膝をついた格好ひざにわるそうなちやくちの姿勢から立ち上がった、かなり大柄なフル武装の全身義肢の女・ヤタ・カガミの命令に敵は当然従う訳もなく、彼女へ発砲しようとする。


「あっ、カガミ!?」

「――少し待っていてくれ」


 体をねじって彼女を確認し、口角を上げつつ目を見開いて叫んだアイーダへ、カガミは1つ頷いてそう言うと安全のためハッチを閉めた。

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