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第1話

「やっと着いた……」


 酩酊通り(ドランクストリート)の自称しがない探偵・アイーダと、その助手である自称ウルトラスーパーアルティメット美少女型人工知能搭載介護用アンドロイド・ナビは、ネオイーストシティ南部の沿岸地域に位置するB10-575ブロックのバスターミナルにいた。


 アイーダはどこぞの通りの名探偵スタイルではなく、シンプルな紺のパンツスーツで、ナビもいつものライダースーツみたいなのではなく、本格的なクラシカルメイド服を着用していた。


「お疲れ様なのです」


 鬼のように3時間ほど長距離移動させられ、座りっぱなしだった腰をのけぞらせて伸ばしているアイーダへ、ナビは労しげに苦笑いをして優しく言う。


 この前々日に、アイーダ探偵事務所にサーバー管理サービスの〝ベラボウズ〟社から人捜しの依頼が入った。

 全額前払いかつ額もいいので引き受けたはいいが、前日に詳しい話をしたいので来てほしい、と突然言われ、機嫌を斜めにしながらもきっちりやってきていた。


 普段、彼女らが活動範囲としているエリアは、横ブロックが右隣なこと以外は真逆に位置するので、地下鉄とバスと個室型モノレールを4回乗り継ぎさせられていた。


「こちとらしょうもない貧乏探偵風情だぜ? なんでこんな所に来なきゃならねんだよ」


 ナビとの電脳通信でぼやくアイーダが、居心地悪そうに見回すそこは、巨大な埋め立て地の上に作られた超高級タワーマンションが林立し、元の陸地部分に料亭が建ち並ぶ、いわゆる上層民の居住区だった。


「風情、というにはアイーダさんが偉大すぎる、というのは置いておくにしても、頼む立場なんですからあっちから事務所に来るのがスジってもんですよねっ!」

「それな」


 偉大云々は過言だっつの、とは言うアイーダだが、自分の代わりにややブチ切れてくれるナビの言葉には同意した。


「それに、自家用車乗り入れNGの地区に呼びつけておいて、交通費も払わないのは良い度胸してますねぇ」

「舐めた態度なら断って帰ってやろうか」

「最悪そうしましょう。どうせ住む世界が違いますし、悪い噂を流されても街の人たちがどっちを信じるかなんて明白の極みビームですし」

「ビームってなんだよ」

「それほど今までの信用がある、という意味なのです」


 自分の事の様にドヤ顔するナビへ、アイーダがまんざらでもなさそうにクスリと笑ったところで、


「サカイダ様、でお間違いありませんか?」

「お――はい」


 タクシー乗り場にセダンの料亭への送迎車がやってきて、1人と1体はそれに乗り込んだ。


 ちなみにカガミは仕事で出動しているため、今回着いてきてはいない。無論、アイーダを心配してごね、上司のシチシ・ツルギに怒られて泣く泣くだが。


「……これのどこが料亭なんだよ?」

「神社と言われた方がまだ納得できますね」


 送迎車が到着したのは、平屋で木造に似せて作られた朱塗しゆぬりの柱や梁に、鳳凰ほうおう彷彿ほうふつとさせる造りの屋根、と、料亭というには実にド派手なデザインだった。


 建物全体が高い塀と強化ガラスのドームで覆われていて、光は通すが外からは見えないようになっている。


「どうされました?」

「いや、|オールドウェストランド《むこうらへん》の『内裏だいり』みてえでちょっとな、と」

「あー、なるほど。確かに一致率が73%ぐらいありますね」


 その様子を見て、頭を抑えて顔をしかめるアイーダは、それに気がついて心配そうに小さく首をかしげて訊いてくるナビへ、大丈夫、と掌を見せて返した。


「ようこそお越しくださいました」


 仲居に案内され、料亭の一番奥の間へと通されたアイーダたちを出迎えたのは、電脳通信で見た中年男性役員ではなく、和装の女性型アンドロイドだった。


「……全身義肢?」

「あー、いえ。遠隔操作のアンドロイドですね。ちなみに発信元はちゃんと〝ベラボウズ〟ですね」

「そうか。――ナビ」

「はい」

「仕事は無しだ」

「はいはいー。流石にこれだけコロコロされたら信用出来ませんもんねぇ」


 ご丁寧にどうも、と頭を下げている裏で、アイーダはうんざりした様子でナビへ電脳通信でそう言い、


「では本題に――」

「おっと、失礼」


 ろくに話を聞いていなかった前置きが終わると同時に、アイーダは通信が入ったフリをして手刀を切る動きをしてこめかみを叩いた。


「あー、申し訳ない。ちょっと急ぎの用事が入ったんで、また後日にして貰っていいですか? いつになるか分からないので依頼料はいったんお返しします」


 普段はしない何回か頷く動きをした後、アイーダはそう言ってとっとと出て行った。


 何食わぬ顔で建物の外に出ると、送迎車ではなくナビに呼ばせていた、無人タクシーに乗り込んでそれを駅に向かわせる。


「ナビ」

「はいはーい。ナビちゃん128の秘密機能の――」

「そういうのいいから」

「あっはい……」


 後部座席にゆったりと腰掛けるアイーダが、形式上付いているサイドミラーで後ろを確認したので、ナビが周囲の車に電脳通信技術を応用したスキャンをかけた。


「――付けてきてますねぇ」

「やっぱりか。従業員の様子が妙だと思ってたら」


 すると、複数台のタクシーや配送車両が、アイーダ達のタクシーをマークしている事を確認した。


「動きがどう見てもカタギじゃなかったですもんね。あとこの車にクラッキングしてきたので弾いておきました」

「ご苦労。良い仕事じゃねえか」

「えへえへ」


 素早い仕事を褒められ、締まりの無い笑みを見せるナビは、撫で回され待ちの柴犬みたいに頭をもたげた。


「――で、所属とか分かるか?」

「5秒お待ちくださいなのです」


 一撫でもされず主人に急かされて、ナビはちょっとしょんぼりしながら、追跡車両にいる武装したサイボーグ兵をハッキングした。


「……。……あっ」

「オールドウェストランドか?」

「です」


 ナビの顔がナメクジを見るそれになったので、察したアイーダが同じ顔をして訊くと、彼女は不機嫌そうに口を曲げつつ頷いた。


「ゲー。まーた『女帝』(あのおんな)絡みかよ……。アタシを外注の処刑人とか思ってねえか?」

「困ったものですねぇ。手順は省きますが撒きますか?」

「おう撒きに撒け。緊急だったって言えばヤタ・マサミ(カガミのオヤジさん)がなんとかするだろ」

「ほいさー」


 口をこれでもかとへの字に曲げて呆れるアイーダの指示で、ナビは周囲の兵士や車両や防犯カメラにまとめてハッキングをかけ、タクシーのデコイ映像を植え付けた。


 右折車線に入った本物をスルーして、車両がデコイを追う様子をアイーダは見送る。

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