第5話
ちょうどその頃。
「本当にここへ来たんですね?」
「ギボシがヘマやらかして無ければ間違い無くね」
埋め立て地の湾岸地域の近くにある小さな峠道から、ほとんど自動化されている上に夜間のため、人っ子1人いない倉庫街をナビとカガミ、ツルギは見下ろしていた。
大まかな位置が絞れたと聞いたカガミは、支局から飛び出して義肢の出力任せに突き進み、つい数分前にナビ達の前に崖を真っ直ぐ登ってきて現われた。
「複数のサンタが暗渠へ入って行ったのを複数台で確認した……。寝させてくれ……」
「はいお疲れ」
必死こいて複数の監視ドローンの映像を確認していたギボシへ、ツルギは非常に素っ気ない態度で雑に労ってから電脳通信を切った。
「そっ、それでっ、アイーダさんはどこにッ!?」
「はいはい、まずは落ち着きなさい」
公安本部が得た情報を共有中にも、待ちきれずにひたすらソワソワしていたカガミは、腰を落として今すぐ突撃しかねない体勢になってツルギに訊くが、彼女にそう言われて直立に戻った。
「あと30分で0時になるじゃない? そのときになれば自ずと分かるわよ。彼女が頼んだ以上、彼女のところまで持ってくるはずだもの」
「そんな――」
「悠長なこと言ってる場合じゃないのですっ! こんな寒い中ワイシャツ1枚でいたら風邪引くどころの騒ぎじゃなくなりますっ!」
倉庫街をくまなく双眼鏡で確認しつつ、努めて冷静な動きをするツルギに、カガミ以上に冷静さを欠くナビが悲鳴に近い声をあげる。
実際、この時点の気温は異常気象で氷点下を下回り、雪までチラつき始めていた。
「なので1分でも1秒でも早くお助けするのです! ここでナビちゃん99の秘密機能の1つ! 精密音声分析なのです!」
「おおっ」
「ここで音声分析やっても意味無いと思うのだけど……」
慌てる余り、明らかに様子がおかしくなっている1人と1体には、ツルギの冷静な指摘は耳に入っていなかった。
「アッ! これはアイーダさんの情けない悲鳴ッ!」
「えっ」
だがしかし、目を閉じて両耳の位置に手を当てていたナビは、主人の悲鳴を執念で捉えることに成功してしまった。
「どこだ!?」
「あそこです! ほら、あの元キンセン社の倉庫!」
「今行くぞアイーダさん……!」
「ちょ、ちょっと……」
「アシストしますので、このカメラドローンを電脳に繋いで持って行ってください!」
「了解した」
「……」
「お願いしますね! れっつごー!」
「うおおおおっ」
もうブレーキなど効かない、と察したツルギは、最後は黙りこんでかぶりを振り、崖を真っ直ぐ突撃していくカガミを見送って、頭が痛そうに額を指で押えた。
その数分後。
倉庫のありとあらゆる電子機器をナビが片っ端からハッキングしながら、内部を突き進んでいるとサンタの配送室にたどり着き、
「あっ! いましたっ!」
その壁際にあるキャットウォークから、真ん中付近のソリにアイーダの姿を発見した。
「大丈夫ですかアイーダさ――ってなんかものすごい見ちゃいけない感じに!?」
あまりにも騒ぐので流石にサンタが起動し、アイーダの口に綿がねじ込まれリボンで塞がれていた。
「えらいこっちゃなのです……」
「ひょえ……」
更にきつく縛り直されたせいで、ほどよく引き締まったアイーダの体型が強調され、非常にあられもない状態で転がされていた。
「むーぐーぐむーぐぐ、むがむぐむぐー……」
顔を手で塞ぎつつ指を開いて、自身をいたたまれない様子で見てくるナビとカガミへ、アイーダは半泣き顔でへなへなと助けを求めた。
「すいませんアイーダさん……。私が余計な事を言ったせいで……」
「流石にこうなるとは思わねえから気にすんな」
2時間ぶりに解放されたアイーダは、変な風に固まった身体をストレッチしつつ、希なことに反省全開のナビの頭を柔らかい表情で撫でる。
「――って呑気にやってる場合じゃねえんだよ! 多分ここC-4で火薬庫状態になってんぞ!」
助け出された安心感で、すっかり危険地帯も良い所なのを忘れていたアイーダは、爆薬の特有の臭いがした事で思い出し、冷や汗をドッと噴き出しながら震える。
「な、なんだって……?」
「ワーッ! 本当です! その臭い成分が空気中から検出されてますっ!」
「やっぱりかよーッ!」
静電気を発生させないよう、静かにかつ速やかにアイーダを救出したため、なんとか爆破オチは無事に回避された。
かくして、プレゼントに紛れさせた爆弾による、クリスマスの大規模爆破テロは回避された。
サンタアンドロイドは、生物と危険物を受け付けない様にプログラムし直され、政府直轄の財団の運営によって、恵まれない子ども達への慈善活動だった、という体になった。




