第2話
「まあ、どうしても疑わしいならクラッキングして確認しますが」
「そこまでいらねえけど、結果はどうなんだよ」
「大丈夫です。しっかり工場で管理されて、まともな店で調理されたお肉ですよ」
「そうか。で、どこの店――」
訊いた割には、そこまで関心がない様子で袋から箱を出したアイーダは、反対側を向いていて見えなかった袋に書いてある店のロゴを見て固まった。
「……カガミ。お前これ、クッソ高いやつじゃねーの?」
「そうなの、か? 配られたから把握していないが……」
「3本で1万2千クレジットですか。公安局さんはお金持ちですねぇ」
それは、ネオイーストシティでも指折りのホテルのもので、ナビがすかさず値段を検索して皮肉を交えて読み上げた。
「積立金から購入したものだ。文句を言われる筋合いはない」
「でもそれの大元は――」
「しょうもない言い争いしてねえで食おうぜ。冷めるだろ」
「はいはい。お飲み物ご用意致しますよー」
「ついでにカガミのを洗濯機に放り込んどいてくれるか?」
「はーい……」
アイーダに被せられる様に言われたナビは、それ以上は何も言わずにカガミのMA-1を渋々回収して、スタコラサッサと住宅部分へと向かった。
「で、今日はどんな厄介事を持ってきたんだ?」
「……? まだ何も言っていないが……」
「そりゃお前、いっつもアニメに合わせて下校するガキンチョみてえな顔してんのに、今日は仕事帰りのサラリーマンみてえだったし」
「……まあ、実際厄介というか、気が進まないというか……」
図星だったカガミは、頭が痛そうに額を抑えながら呻くように言った。
「ぬぬっ! ナビちゃん抜きでけったいなお話はNGなのですがっ!」
異常に滑らかな動きで床を滑るように素早く戻ってきたナビは、ワイングラスを2つ並べて葡萄ジュースを各自に注ぎつつカガミへジト目を向ける。
「別にコイツは騙してくるとかねえだろ。正直に以外言わねえし」
「ああ」
「それでさっき言い忘れてたんですが、私の指定席はアイーダさんの右なので退いて貰っていいですか?」
「断る。そんなルール今まで言って無かったはずだが?」
「いまから施行なのでーす!」
「公布もないのにするのはどうかと思うが……っ」
「じゃあアタシが左に寄ればいいだろ。ほれ」
もう待ちきれなくなったアイーダは、無駄なにらみ合いを始めた2人へそういって真ん中を空けた。
「……」
「……」
アイーダから遠くなったカガミと、彼女が隣に来る事になったナビは、お互い飼い主の行動が解せないネコみたいな顔になっていた。
「おっ、うめえ。さすがお高級品だな……」
それを後目に、アイーダはたっぷりと脂が乗り、香ばしくじっくり丁寧に焼き上げられた骨付きもも肉にかぶりつき、ギュッと目をつむって堪能する。
「そこまで喜んでもらえるなら、貰ってきておいて良かった」
「わ、私の持ってきたジュースもバイオ葡萄ではないものですよっ」
「ああ? そんなん買った覚えねえぞアタシ」
「あのその、えっとですねっ」
目を開けてジト目をナビに向けるアイーダへ、勝手に使ったのは悪かったがアイーダの健康に気を遣っての事で、と言ってわたわた手を動かしてナビは釈明した。
「まあせっかくだ。今日は許してやる」
「すいません……」
ふっ、と表情を崩したアイーダはそう言うと、ワインを飲むようにグラスを煽った。
「そんでカガミ。いったい何がそんなに憂鬱なんだよ」
「あっ、ああ……。――クリスマスイブの市中に、サンタクロースが出没するんだ……」
「いや、そりゃすんだろ」
「バイトとかでなく、サンタクロースの仮装をした何者かが、子どもにプレゼントを配っている、という事案なんだ……」
「確かに、目撃情報がネットワーク上にいくつかありますね」
「ははーん。さてはテロに悪用できる行動をする不審者を放置はできないけど、やってる事が善行だし、バカみてえな与太話で誰も調査したがらないから気が進まないと」
自身もチキンを手に取って、その件について半分ぐらい忘れていたカガミは、曇天の空の様にどんよりした顔になって頷いた。
「この近所で特に目撃例が多いのと、その手の情報には精通しているだろうアイーダさんがいるから、というわけで私が貧乏くじを引いたわけだ」
「万が一ヤバい可能性があって排除したら、お前が子ども達に睨まれるもんな」
「はわ。ご愁傷様なのです……」
アイーダはもちろん、流石のナビも気の毒になって掌を合わせてカガミに同情する。
「しゃーねえな。そういうことなら、ガキンチョからそもそも人気がねえアタシが協力してやんよ」
「な、ないのか!?」
「そりゃお前、浮気現場を暴いて親を苦しめる大罪人だぜ? あっちからすれば」
「不倫するような親が悪いのでは?」
「アイーダさんはとばっちりだ」
「そりゃな」
冷ややかな態度で正論を放るナビと不満そうなカガミに、アイーダは全くかばい立てする様子もなく頷いた。
「じゃ、カガミの上着が乾いたら開始ってことで」
「時間外に仕事させるんですから、当然料金の方はお高く――もごっ」
「つかねえよ。前払いでコイツ貰っただろ」
あくどいニヤケ顔で料金を請求しようとしたナビの口に、アイーダはもう一個あったチキンをねじ込んで黙らせた。
「これアイーダさんのなんですけど……」
「遠慮すんな。こういうのは一緒に食うのが大事なんだよ」
「私生体部分無いんで、エネルギー変換効率がただ悪いだけなんですよね。タンパク質と脂肪って」
「これを再現できればアイーダさんには得だが、な」
「カガミさんに言われるのはシャクですが、言われてみればそうですね!」
「だな。そんな高い肉買えねえって以外は」
「毎食分用意できるだけの蓄えはあるが……」
「隙あらば貢ごうとするんじゃねえよ。悪質な水商売じゃねえんだから」
前に回して負っている片掛けリュックから、ス……ッ、とカガミが真顔で電子マネーカードを出そうとするのを、アイーダはかぶりを振って制す。




